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神話の始まり  作者: 一宮 沙耶


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11話 外務省

私は、女性から狙われて以来、危険ということで警察が用意した施設で過ごしている。

光莉から情報を受け継いでいると疑っている政府から軟禁されているのかもしれない。


そんな中、突然、あの刑事さんから連絡が入った。

外務省の官僚で会わせたい人がいると。

今度は外務省なの? どういう関係があるのかしら。


私の部屋に、刑事さんと外務省の方がやってきた。

30歳ぐらいの人で、几帳面な感じ。

物腰は柔らかく、一方で頼りなさそう。


刑事さんは田代さんという官僚を紹介する。


「三崎さん、今日はお時間をいただき、申し訳ありません。」

「いえいえ、ここでは何もやることがなくて。何もしないと、光莉のことばかり思い出されて辛かったんです。」


私の答えに苦々しい顔をした刑事さんが話しだした。


「実は、この田代さんが佐伯さんから相談を受けていまして、それが佐伯さんの殺害につながったのではないかと我々は見ているんです。」

「光莉が外務省の方に相談って、どんなことなんですか?」


小太りの外務省の方が話し始める。


「佐伯さんは、種を海水につけておけば、あとは水がいらないトウモロコシの種を作り上げた。そして、彼は、飢餓で苦しむ国々に、それを無償で供与すると主張したんです。ただ、そんな価値のある研究を無償で供与することは許せないという勢力が、大学、政府、企業側で立ち上がり、佐伯さんの主張を食い止めたんです。だって、そんなものがあれば、飢餓で苦しむ国を1つや2つは手に入れることができるじゃないですか。でも、佐伯さんはお金のために研究をしてきたわけじゃないと一歩も譲らなかったんです。」

「光莉らしい。」


光莉は理念で研究していたから、そう言うはず。

お金の亡者にこのテクノロジーを渡せば、この研究成果は困っている人に届かない。

結局、貧しい人がずっと搾取され続けるのだと思う。


「それを聞きつけたアメリカ、ロシア、中国もスパイを日本に派遣し、佐伯さんの研究成果を盗もうとした。その時に、私に佐伯さんから相談があったのですが、私は、佐伯さんの研究の価値を十分に理解していなかったので、命を狙われるようなことまではないだろうと安易に考えてしまったんです。佐伯さんは、その1か月後に殺害されてしまいました。何もお役に立てず、申し訳ございません。」


私は、また光莉のことを思い出し、頬を涙で濡らした。

謝られても、光莉は戻ってこない。

刑事さんは話し始める。


「三崎さん、その研究結果の書類のありかについて心当たりはないですか。あれば、早く政府に渡さないと、今度は、三崎さんの身が危ない。」

「心当たりと言われても、光莉は、研究については一切、私に話しませんでしたし。」

「そうですか・・・。」


外務省の方を紹介したのは、私が光莉の研究内容を知らないか探っている気がした。

トウモロコシのことを話し、私の表情が変わるかと。

ただ、まだ私が知らないと隠している可能性も否定できないという表情。


ところで、仮に書類のことを知っていても渡せば安全になるのかしら。

渡したら、それで用なしと思われて、事情を知っているとして殺されるかもしれない。

知らないことが一番安全じゃないのかしら。


だから光莉は私には研究成果を教えなかったのかもしれない。

そして、殺害されることを予見して、使えない1億円を私に託したのかもしれない。


もしかして、この刑事さんも、外務省の官僚も、研究成果を狙っているだけかもしれない。

手に触れようと何回か試みたものの、なかなかチャンスは訪れない。

安易に、信じない方がいい。私は、誰も信じられなくなっていた。


「その研究って、研究所の同僚、何ていう名前でしたっけ、そう木村さんとか、その周りの人が引き継いでないんですか?」

「木村さんは、佐伯さんと一緒に研究していたから内容は知っていますが、今は失踪しています。もしかしたら、殺されているのかもしれません。それで、二人とも秘密裏に研究していたので、二人以外に、その内容を知っている人は誰もいないのです。佐伯さんが提示した種子は確かに、水がなくても育った。でも、周りが、それを再現しようとしたのですが、どうしても実現できない。何かのピースが足りない。だから、アメリカを初めとする国々は世界を支配しようと、血眼になって研究し、この成果を探しているんです。もう、単なる研究じゃなくて、世界の勢力争いの中心になっている。」


光莉はとんでもないことに巻き込まれてしまったのだと今更ながらに気づく。

純粋に飢餓で苦しむ人を救いたいという想いだけだったのに。

やっぱり、光莉が暴力団とは関係なんてなかった。


光莉の願いは、飢餓で苦しむ国々にこの成果を無償で供与すること。

それを実現できずに無念にこの世を去った。


それなら、誰かに、その成果を引き継がせたいと思うはず。

私にも何かメッセージがあったのかもしれない。

光莉との日々を思い返しても、思い当たることは何もなかった。


私は、ふと光莉からもらった指輪を見つめていた。

光莉との幸せな時間を思い出したからというのはある。

でも、意外と、こんな些細な所にヒントがあるかもしれない。

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