10話 夢
ここはどこだろう。
そうだ、光莉と一緒に来た天橋立だ。
観光客向けの商店街を通り抜けた先に、松が並ぶ道を歩く。
周りは、中国人や欧米の外国人達がのんびりと歩く。
女子高生達が、笑いながら、弾けるようにスキップしながら横を通り過ぎる。
あの頃は楽しかった。昔の記憶の風景だから夢を見ているのだと思う。
後ろから、光莉がソフトクリームを2つ持って駆け寄る。
そう、いつも、こんなに顔から笑顔が溢れていた光莉。
いつも、私を喜ばせようといっぱい考えてくれていた。
「黒豆とバニラの2種類があったから両方とも買ってきたけど、どっちがいい?」
「黒豆かな。ありがとう。」
「そうだったんだ。だったら、黒豆2つ買ってくれば良かったかな。」
「黒豆食べたかったの? 私はどちらでもいいから、じゃあ、バニラにする。」
「いいよ。第一印象で黒豆だったんでしょう。」
二人で譲り合っていたら、結構、ソフトクリームが溶けちゃった。
でも、そよ風が松の間を通り過ぎて、気持ちがいい。
アメリカ人の高齢のご夫婦から写真を撮ってと依頼されて、光莉は、笑って撮っていた。
その後、疲れたと私が言うと、光莉は、予約しているからとお寿司屋さんに行く。
海辺のお寿司屋さんで、今朝、水揚げされた地魚を勧められて、美味しかった。
ビールを飲んで、光莉はずっと笑っていた。
そういえば、どうして光莉は私と一緒の時間を過ごしてくれたのかしら。
付き合う前の私は、陰キャだったのに。
それは永遠に分からないけど、私は光莉と出会って変わった。
そして、光莉は、私を愛してくれた。
それまでは、人と一緒にいるのは時間の無駄だと思っていた。
女子会で飲み会をしたこともあったけど、早く終わらないかなとずっと考えていた。
そもそも、飲み会に行く時に、今日は面倒臭いと思って足が重い。
それが、光莉と一緒にいる時間が増え、私は社交的になる。
その後、光莉だけじゃなく、周りの人と一緒に楽しめる時間が増える。
女子会で、大笑いする私がいて、そんな姿を見てか、誘われることも増える。
そんな中で、社交的で前向きになっている自分には驚いていた。
会社に入ったことも影響しているかもしれない。
プロジェクトでは、私も積極的に提案し、多くの人と調整を進める。
昔、1人で過ごすのが好きだったと聞いたら、誰もが驚くと思う。
でも、自分の殻から抜け出し、大胆に行動することは楽しいことだと気づいた。
たしかに、意見を言って、その通り進めば、責任を問われることもある。
でも、責任って何って感じがしていた。別に命を奪われるわけじゃない。
出世とかの機会が奪われるのかもしれないけど、別に出世したいわけでもない。
上司とかを忖度しないで、自由に行動していたら、頼られることも増えていく。
男女を問わず、相談を受ける中で、情報も集まってくる。
会社の中で、私の存在感は高まっていった。
これも、何かあれば光莉が助けてくれると信じていたから。
光莉のおかげで、私は自由に羽ばたいていた。
1人で過ごしていた時は、女子会に参加しても話すことがなかった。
でも、光莉と出会い、相談したいこと、こんなことを感じたと話したいことがいっぱい。
同じことを悩んでいる女性もいるということも知った。
1人で過ごしていたときよりも、もっと私の感情にはひだが増えて、複雑になっていく。
その中で、生きていくために、光莉に支えて欲しい。
矛盾するけど、光莉に支えられつつ、光莉のいない時は寂しさに押しつぶされそうだった。
そんな両極端の中をバランスを取って、前に進んできた。
目の前にいる光莉は笑顔で微笑むけど、これって夢なのよね。
そう思うと、光莉は白い煙のようになって消えていく。
気づくと、多くの人が楽しそうに歩いていて、光莉だけがいない風景が広がる。
寂しいよ。光莉がいない世の中なんて、生きているのが辛い。
多くのことを教えてくれた光莉には感謝しているし、元には戻りたくない。
でも、光莉がもういないなんて、心臓が悪魔に握りつぶされそう。
今朝は、外務省の人と会う予定が入っている。
でも、枕は濡れて、目は真っ赤。くまもできている。
光莉、どうしていなくなってしまったの? 私を一人にしないで。




