06 現実は小説よりも奇なり
前章にて、当作は現実の格闘技界の情勢を下敷きにしていると述べましたが、作中の細かな設定やキャラクターなどにも反映されております。
ブラジリアン柔術に魅了されたアラブの王子様が設立したグラップリングの国際大会というものは、実在いたします。
メキシコの伝説的な覆面レスラーの息子で、若き時代には覆面ファイターとして日本でMMAの試合に出場し、アマレスではオリンピックに出場し、最終的には北米でプロレスラーになった人物というものも、実在いたします。
北米のMMA興行では、一試合で10億や20億のファイトマネーを手にする選手が実在いたします。
自分にとってもそれらは驚くべき事実でありましたため、皆様にも同じ驚きを共有していただきたかったという思いもあって作品に盛り込んだ次第でございます。
ただ、現実世界と過剰にリンクするのは避けたかったため、ファイトマネー以外のネタは本編と大きな関わりのない小ネタに留めた次第です。
あと、かつてフランスではMMAの興行が禁止されていたというのも、事実です。
それが解禁されたのは、2020年のことでありました。
それで当作はエピローグにて初めて具体的な時代設定を明かしましたため、作中でも同じ年に解禁されたという筋書きにいたしました。
また、格闘技の試合においては、奇跡の逆転勝利や呆気ないほどの秒殺勝利なども現実に起こり得ます。
そういう現実の鮮烈さに負けないようにという思いでもって、自分はあまたの試合模様を描いてきたつもりであります。
なおかつ当作は、スーパー格闘技ではなくリアル格闘技を目指していたつもりでありますので、なるべく非現実的な要素は入れないように思案しておりました。
そんな中で指折りで非現実的であるのは、やはりユーリと瓜子の設定でありましょう。
ユーリの「筋肉に見えない筋肉」と、瓜子の「集中力の限界突破」は、フィクションならではの追加要素となります。
次点は、瓜子とメイの骨密度でありましょうか。
ただこの骨密度は、苦肉の策という面もあります。
瓜子は身長152cm・体重52kg+αという設定でスタートさせましたが、それでちまちました標準体型というのはありえないと思い至り、それなら骨が重いために太って見えないという設定にしてしまおうと考えた次第です。
「集中力の限界突破」は、ラニ・アカカとの試合を描いているさなかに、ふっと思いついたネタであります。
瓜子がこうまで規格外の実力を身につけるというのは、つくづく想定外でありました。
ですがまあ、野球で言う「ボールが止まって見える」の拡大解釈のようなものですので、そうまで現実離れしているわけではないのかもしれません。
フィクションならではの追加要素といえば、もう一点。
これはあるていど作品を書き進めてから抱いた疑念となりますが、十数名の選手が同じ控え室に詰め込まれることなどはそうそうありえないのだろうなあと思い至りました。
素人である自分は試合会場の舞台裏などはまったくわきまえておりませんため、何の気もなしにそういった設定で書き進めてしまったわけでありますが。同じ控え室でわちゃわちゃ騒ぐ楽しさを捨てきれず、最後まで押し通すことにいたしました。
実際のところは、どうなのでしょう。全選手個室であるのが当たり前なのか、メインの数名だけが個室であとは数名ずつなのか。真実を知るのは、業界の関係者様のみと相成ります。