04 道程
自分は当作を手掛ける前に、いくつかの格闘技作品を構想しておりました。
設定の段階で没にしたものや、途中まで書きあげて挫折したものなど、4~5作品ぐらいは存在したように思います。
それらの反省を活かした上で、当作を書きあげたわけでございますが。没になった過去作品のいくつかも、当作の血肉になっています。
簡単に言いますと、没になった作品の設定や登場キャラクターが、そのまま当作に流用されているのです。
まずは、没になった過去作品についてご説明を申しあげます。
①赤星道場物語
古武術道場を出奔した少年・六丸は、赤星道場という格闘技道場で稽古に励む少女・赤星弥生子と巡りあう。
父親の大吾が引退し、兄の卯月が道場を捨ててしまったため、赤星道場と《レッド・キング》は衰退の一路を辿っている。その窮状を救うため、六丸は謎の覆面ファイター・レイ=アルバとして《JUF》の舞台に乗り込み、卯月との対戦を画策する。
②ドッグ・ジム物語
190cmを超える巨体でありながら気弱で運動音痴の少年・蔵人は、同級生にいじめられていたところを謎の少女・犬飼京菜に救われる。蔵人は京菜が亡父から受け継いだドッグ・ジムに入門し、空手の大会に出場することを決意する。
③MMAウィッチーズ
古武術の道場に生まれついてしまった少女・千尋はケンカざんまいの人生を送っていたが、ひょんなことからMMAのジムに入門する。そちらで先輩選手の鞠山花子から指導を受けながら、武術ならぬ格闘技の楽しさを知っていく。
以上となります。
①と②に関しては、まるまる流用です。作品内の時間軸としては、①が当作の十余年前、②が2年前ぐらいの見当となります。
弥生子と京菜はもともと別作品の主人公であったため、当作においても重要なポジションになりおおせているわけです。
また、主人公であるために、対となる男性キャラが存在いたします。蔵人などは当作において出番もほとんどありませんが、もともとは主人公の片割れであったのです。
また、①の最終話では弥生子がベリーニャと対戦する予定でした。
大江山軍造と大江山すみれ、是々柄、オランダの強豪レム・プレスマン、その後輩のジョン=アリゲーター=スミス、陽気でハンサムなアギラ・アスール・ジュニア、《JUF》の四天王、ロシアの強豪キリルなども、この作品で設定したキャラクターでありました。
言ってみれば当作は、①の後日譚のようなポジションであったのです。
十代の少女であった弥生子はアラサーの無敵ファイターに成長し、まだ小学生で六丸に懐いていたすみれは内心の知れない微笑を浮かべる少女に成長いたしました。
《JUF》は反社会的勢力との癒着が露見して崩落し、卯月は北米に活動の場を移し、六丸はすっぱりMMAから足を洗って整体院を開業することになりました。
レム・プレスマンは卯月とともに渡米して、ジョンは選手活動を引退してプレスマン道場のコーチに就任しました。
何もかも、①から受け継がれた設定となります。
そんな中、ナナやマリアは①に存在しませんでした。
もともと当作では赤星道場にスポットを当てる予定もなかったので、ユーリと対戦することなく敗退する脇役としてマリアを設定したのですね。
それで、せっかくならばアギラ・アスール・ジュニアの妹という設定にしてしまおうと、ひとりで悦に入っていたわけでございます。
のちのちジュニアや父親まで当作に登場させることになろうとは、まったく予期せぬ出来事でございました。
ちなみに《カノン A.G》の騒乱で暗躍した悪党・徳久も、①で設定されたキャラクターです。
①では「ワンダー徳久」という怪しげ名前で、卯月のマネージャー役でありました。当作ではマネージャーという設定をオミットしましたが、赤星道場を衰退に導いた元凶という立ち位置に変更はありません。
また、②では京菜がさまざまな競技の大会荒らしに励みますが、キックの試合で設定されていた対戦相手のひとりが、プレスマン道場所属のダムダム・サイトーになります。
サイトーは、瓜子たちよりも早く誕生していたのですね。
文字通りの、先輩格でございます。
また、②の創作メモを確認したところ、弥生子とすみれの名前も発見いたしました。
おそらくはすみれが対戦相手の候補で、弥生子はセコンド役であったのでしょう。
当時から、すみれは京菜のライバル役として設定されていたようです。
そんな感じで、①と②は当作に密接に関わっておりますが、③はまったく関わりなく、鞠山花子というキャラクターだけを引っこ抜いた形となります。
きっと当時から、花子は自分のお気に入りであったのでしょう。没作品とともに捨てるのが惜しかったので、当作で不死鳥のごとく蘇ることになりました。
ちなみに③の舞台設定は、別作品である『ストライキングガール!』に流用されております。
そうして過去作品のエッセンスまでふんだんに詰め込んだため、当作はいっそう膨大な分量に膨れ上がることになったのでしょう。
また、当時は誰にも知られないまま、自分はひとりで勝手に複数の作品のクロスオーバーを楽しんでいる心地でありました。
完成されなかった三作品も当作の血肉にすることができて、自分は非常に喜ばしく思っております。