見える化された矛盾と、芽生える使命感
覚悟したケインと受け入れたリサ。
翌日、ケインは王家から紹介された、穏健派で知られる外交顧問、レナード卿と密かに面会した。レナード卿は、ケインのこれまでの功績(特に王城での衛生改善)を高く評価しており、協力的だった。
彼は、グランセリオとサルメディアの複雑な外交関係の歴史、奴隷制度がサルメディア社会に深く根付いている背景(経済的依存、文化的・宗教的正当化、既得権益層の存在など)、そしてこれまでのグランセリオ側の働きかけがなぜ失敗してきたのかについて、詳細な情報を提供してくれた。
「ケイン殿、貴殿に期待されているのは、まず現状の客観的な分析と、斬新な視点からの改善案の提示です。従来の外交交渉とは異なるアプローチ……貴殿の言う『マーケティング』とやらが、何か突破口を開くかもしれんと、王女殿下は期待しておられる」
レナード卿は、ケインに王家の書庫へのアクセス権限と、必要な情報収集への協力を約束した。
ケインは次に、エリアナの元を訪れた。この件は極秘事項であることを念を押した上で、国王からの依頼内容と、自身の決意を伝えた。エリアナは、その依頼の重大さに一瞬目を見張ったが、すぐに冷静さを取り戻し、そして不敵な笑みを浮かべた。
「サルメディアの奴隷制度……我がクレスメント商会にとっても、長年の、そして最も厄介な懸案事項でしたわ。まさか、ケイン様がそこに切り込むことになるとは。ふふ、面白いことになってきましたわね」
彼女は、その挑戦にむしろ興奮を覚えているようだった。
「もちろん、全面的に協力させていただきます。我が商会が持つサルメディア国内の情報網、現地の協力者(改革を望む穏健派の商人や知識人も少数ながら存在しますのよ)、そして必要であれば資金面でも、できる限りの支援をお約束しますわ」
エリアナという強力すぎる後ろ盾を得て、ケインの挑戦は、実現への確かな一歩を踏み出した。
ここから、ケインの本格的な情報収集と分析が始まった。王家の書庫、レナード卿からの機密
情報、エリアナ商会のネットワーク、さらには冒険者ギルドを通じて得たサルメディア渡航経験者の話など、あらゆる情報を集め、整理していく。そして、ケインは自身の「見える化」スキルを最大限に活用し、この複雑怪奇な問題を解き明かそうと試みた。
【サルメディア奴隷制度:経済依存度65%(推定)/真の経済コスト(機会損失含む)年間GDP比ー5%/社会不安定化リスク指数72%(高)】
【主要受益者:奴隷商人ギルド(影響力A)/保守派大貴族(影響力A+)/一部の大規模農園・鉱山所有者(影響力B)】
【潜在的不利益者:一般市民(購買力低下)/中小商人・職人 (競争力低下)/改革派知識人(発言力E)/奴隷自身(人権侵害SSS)】
【制度廃止への障壁:①経済構造/②文化的慣習/③宗教的解釈/④既得権益層の抵抗/⑤代替労働力不足】
スキルによって「見える化」されたデータは、奴隷制度がサルメディア社会にとっていかに根深く、そしていかに多くの矛盾と負の側面を抱えているかを、残酷なまでに明確に示していた。
分析を進める中で、ケインはある重要な事実に気づいた。「生まれやスキルによって一方的に価値を決めつけられ、その可能性を社会によって奪われている」という構造。それは、今自分がいるグランセリオ王国で「ハズレスキル」を持つ人々が置かれている状況と、驚くほどよく似ているのではないか?
(サルメディアの奴隷問題は、形は違えど、グランセリオが抱える歪みと根は同じなのかもしれない。だとしたら、この問題を解決することは、いつか、グランセリオのスキル至上主義という壁を打ち破ることにも繋がるかもしれない!)
ケインの胸に、単なる依頼を超えた、より大きな使命感が燃え上がり始めた。
もう「ハズレスキル」なんて呼ばせない!
明日も19時によろしくお願いしますm(_ _)m




