秘密を分かち合う絆、そして試される新たな信頼
寄り添い合うケインとリサでした。
灯火亭での日常は、以前にも増して温かな空気に包まれていた。厨房で並んで作業をする時、ホールで客の様子を見守る時、ふとした瞬間に交わされる視線には、言葉にしなくても通じ合う愛情が溢れている。
ケインは、リサが疲れていると感じれば、さりげなく彼女の肩を揉んだり、温かい飲み物を淹れてやったりする。リサは、ケインの好物を賄いでこっそり多めに作ったり、彼が集中して考え事をしている時には、そっと邪魔にならないように見守ったりする。その様子は、アンナたちスタッフにとっては微笑ましい(そして時々、からかいの対象になる)光景だった。
「もう、ケインさんったら、店長の肩揉むの、今日で3回目ですよ!」
「レオン見て! 店長がケインさんのお皿にだけ、お肉一個多く乗せてる!」
そんなアンナの茶々にも、二人はただ照れ笑いを浮かべるだけだった。秘密を共有したことで生まれた安心感は、ケインを以前よりもずっと自然体にし、リサをさらに柔らかな笑顔にした。
ケインは、リサにだけ、時折、元の世界のことを話して聞かせた。といっても、科学技術や社会システムといった難しい話ではない。
例えば、
「僕の故郷では、魚を生のまま、薄く切って食べる料理があるんですよ」
「果物を砂糖で煮詰めて、パンに塗って食べるジャムという保存食があって……」
といった、食に関するささやかな知識や文化の違いだ。
リサは目を輝かせてそれに聞き入り、「まあ、面白そう! 今度試してみましょう!」と、新しいメニュー開発への意欲を刺激されていた。
ケインの異世界での知識と、リサの料理人としての才能が融合し、灯火亭のメニューはさらに豊かに、そして独創的になっていく可能性を秘めていた。
そんな穏やかで充実した日々が続いていたある日、エリアナ・クレスメントが、予告なしに灯火亭を訪れた。表向きは、商品化しているソースとドレッシングの販売状況に関する報告と、今後の戦略についての打ち合わせということだったが、彼女の鋭い観察眼は、店内の雰囲気、そして何よりケインとリサの間に流れる空気の微妙な変化を見逃さなかった。
打ち合わせが終わり、スタッフたちが賄いの準備で席を外した時、エリアナは優雅にお茶を一口飲むと、意味ありげな笑みを浮かべて言った。
「ケイン様、リサさん……なんだか、以前にも増して素敵な雰囲気になられましたわね。何か、特別に良いことでもおありになったのかしら?」
その言葉に、ケインとリサは顔を見合わせ、一瞬ためらった。しかし、二人の間には、もはや隠し立てをする必要はない、という共通の認識があった。そして何より、エリアナはビジネス上の重要なパートナーであり、その聡明さから、おそらくケインの特異性について、何かしら感づいている節もあった。
「……エリアナさん」
ケインは意を決して切り出した。
「実は、あなたにだけはお話ししておかなければならない、大切なことがあります」
ケインは、店の奥にある小さな個室にエリアナを招き入れ、リサも隣に座った。そして、ケインは、自分が異世界から来た転生者であるという、最大の秘密を、誠実に、言葉を選びながら打ち明けた。リサは、ケインの手をそっと握り、彼を支えるように寄り添っている。
エリアナさん、再登場〜
明日も19時に公開します!
どうぞよろしくお願いいたします!




