王宮の分裂とオルダス公爵の陰謀
ラゼルシア社会の変革を巡る攻防戦がはじまりました。
ケインが提出した「基礎知識教育の有用性に関する調査報告書」は、静かに、しかし確実に、ラゼルシア王宮に大きな波紋を投げかけた。
報告書に目を通した国王は、その客観的なデータと具体的な成果に深い感銘を受け、熟慮の末、セリーヌ王女をはじめとする進歩派の側近たちの意見に耳を傾け始めた。
「庶民の教育か……。確かに、報告にある通り、国全体の底上げに繋がるやもしれんな」
と、側近の誰に語るともなく漏らした言葉は、すぐさま王宮内に伝播し、評議会の空気を大きく揺らした。
この発言に真っ先に反応したのは、セリーヌ王女をはじめとする進歩派の一団だった。彼女たちは以前から、民草の底力を高めることこそ、ラゼルシアの未来を切り開く鍵だと主張しており、今回の報告書がその追い風となると確信した。
しかし、この変化の兆しに対し、最も強く反発したのが保守派の筆頭にして、絶大な権力を誇る宰相代行・オルダス公爵だった。
彼は王宮の重鎮として、長年にわたり貴族階級の支配体制を維持してきた男であり、「庶民の教育」などという発想は、既得権益を揺るがす危険思想に他ならなかった。
「陛下! あのグランセリオの男は、巧みに言葉を操り、民衆を扇動しております。これは身分制度そのものを破壊しようとする試み。断じて看過できませぬ!」
進歩派と保守派の対立は、やがて王宮のあらゆる場で火花を散らすこととなり、会議の場は常に緊張を孕んだ空気に包まれた。
焦燥を募らせたオルダス公爵は、このままでは自分たちの築き上げた秩序が崩壊しかねないという強い危機感に駆られた。
そしてついに、彼はひとつの決断を下す。
それは、王国の未来ではなく、己の立場と権力を守るための、あまりにも自己本位な選択だった。
(……ならば、元凶を取り除くまでよ)
公爵は、正式な王命を得ることなく、自らの配下にある忠誠心の厚い騎士団の一部と、裏で動かしていた実働部隊に密命を下した。
その内容は、ケイン・モリヴァンを「国家秩序を乱す扇動者」として秘密裏に拘束せよ、という極めて危険な命令。そして同時に、ティナ・ソルノやマティス老人ら「知識探求センター」の中心人物たちも一網打尽にせよというものだった。
さらに、公爵は命じた。
「地下書庫……いや、“あの施設”は証拠隠滅のため、跡形もなく破壊しろ」
それは、王国に芽吹いた新たな未来の光を、根こそぎ断ち切るかのような宣戦布告だった。
知らぬ間に、ケインたちに忍び寄る闇は、静かに牙を剥き始めていた——。
ケイン、みんな、逃げてーーー
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