王宮への報告書提出
反撃開始!!
世論形成と教育成果の「見える化」しました。
報告書は、魔法研究所の所長による最終的な査閲と署名を経て、重々しい封蝋が施された状態で王都の中心部にある王宮へと運ばれた。そこからさらに、王国の政策を左右する評議会の議場へと回され、最終的には国王の手元へと届いた。
内容は、ルーナ学舎で行われた教育実験の成果を詳細にまとめたもので、子どもたちの読み書き能力、認知力の向上、そして協調性や発言力といった社会性の変化まで、実に多岐にわたる項目が、観察記録や簡易な心理測定、第三者の聞き取りを交えて精緻に記されていた。
それは一見すると、単なる教育の報告書に過ぎないようでいて、読み進めるほどに、国家の未来図を静かに塗り替える力を孕んだ「知の宣言書」とも言うべき代物だった。
この報告書は、保守派の貴族たちにとってまさに青天の霹靂であり、許しがたい「秩序への反逆」として受け取られた。
彼らの主張する「庶民に教育など不要。身の程を弁えていればよい」という理屈は、時代の変化に取り残された旧い論理だったが、それでも長きにわたり、政治と特権を支える強固な土台となっていた。その土台が、事実と数字の力によって静かに、だが確実に揺さぶられていた。
彼らは当初、「この報告は偽造だ」「ケインたちは扇動者だ」と一笑に付し、声高に非難した。
しかし、報告書が権威ある魔法研究所を経由して提出されたことで、その主張は単なる感情論にしか見えなくなった。内容自体も、単なる主観ではなく、観察・分析・統計という魔導学の形式に則って記述されており、外形上はきわめて「客観的」に見える。
もはや彼らには、「これは嘘だ」と切り捨てる材料さえ、ほとんど残されていなかった。
さらに、ケインたちが水面下で進めていた世論への働きかけも、静かに効果を上げ始めていた。王都の一部知識人や商人たちの間では、「教育は力になる」「学びは都市を豊かにする」という考えが芽吹きつつあり、報告書の存在がそれを後押しする形となった。
貴族社会の中でも、次第に異論が出始める。
「報告書の内容は、一考に値するのではないか?」
「いつまでも古い価値観に縛られていては、このラゼルシア王国は、周辺国に後れを取ることになる」
それはまだごくわずかな声にすぎなかったが、沈黙が続いていた上層部において、それは確かな「波紋」だった。
追い詰められつつある保守派貴族たちは、じわじわと焦燥を募らせていった。彼らは、己の特権と既得権益が崩れていくのを黙って見過ごせるような人々ではない。
むしろこのような時こそ、過激な手段、強引な策を講じる危険が高まっていた。
このような緊張の高まりの中で、ティナの成長は実に目覚ましかった。
かつてはケインの背後に立ち、指示を仰ぎ、守られる側だった彼女は、今や堂々と前に立ち、共に道を切り開く「同士」へと変貌していた。
新たな学舎の運営においても、実務の多くを彼女が指揮し、各地から集まり始めた協力者たちの調整や、教材の選定、現場の空気づくりまで、多方面にわたる采配を振るっていた。
時には、役所からの監査官や、貴族の使者による詰問に直面することもあったが、ティナはその都度、冷静に状況を読み取り、ケインから教わった理論やデータを引用しながら、真っ直ぐに立ち向かっていた。
その毅然とした態度と、内側からにじみ出る信念の強さは、周囲の人々に尊敬と安心感を与えていた。
もはや彼女は、「ケインの補佐」ではなく、「自らの意思で動く指導者」のひとりとなっていた。
果たして、王宮に提出された報告書は、最終的にどのような判断を引き出すのか。
ケインとティナ、そして「ラゼルシア知識探求センター」を中心としたこの小さな改革の灯火は、王国という大河の流れを変える力となるのか。
物語は今、ラゼルシア社会を揺るがす本格的な変革の波へと、深く、鋭く、突入していく。
次回も明日19時更新。
新しい章になります!
どうぞよろしくお願いいたします。




