「読まない本を届けろ」作戦②:『聞かせる本』=音声ストーリーブック
作戦①:『読む』のではなく、
『見せる』本は、大成功!
「子どもたちには『見る本』が効果的でしたが、次は大人たちです」
ケインはティナに語りかけた。
「日々の労働で疲れている彼らには、文字を読む負担なく、耳から直接、物語の世界に浸れるような体験を提供したいんです」
ケインは考えた。文字が読めなくても、物語を楽しむ方法は「聞く」ことだ。しかし、毎回どこかで読み聞かせをするだけでは、届けられる人数にも時間にも限界がある。
物語を音声として記録し、好きな時に好きな場所で聞けるようにできれば、もっと多くの人に届くはずだ。日本でいうオーディオブックのようなものを……。
だが、どうやって?
ケインは、ラゼルシアの街で見た、貴族たちが使う『伝声盤』のような魔道具を思い出した。そして、ティナに尋ねてみた。
「ティナさん、この国には、音声を記録したり、再生したりできるような魔法や道具はないのでしょうか?」
「ええと……」
ティナは少し考え込んだ。
「貴族の方々が使っていらっしゃる高価な『録音盤』という魔道具なら、短い時間ですが音声を記録・再生できると聞いたことがあります。でも、それは国家機密レベルの魔法技術も含まれているらしくて、お値段も……私たち庶民にはとても手が出せるものではありませんわ」
彼女は申し訳なさそうに答えた。
(やはり、そう簡単にはいかないか……だが、諦めるわけにはいかない。何か方法はあるはずだ)
ケインは、別のルートを探ることにした。
以前、ラゼルシアでの活動を匿名で支援してくれた、魔法研究所のエリアーデ。彼女ならば、何か知っているかもしれない。
ケインは、エリアナに仲介を頼み、極秘裏にエリアーデへ魔法通信で連絡を取ってみた。危険を承知で、事情を簡潔に説明し、尋ねた。
「音声を記録できる古い魔道具か、あるいはそれに類する技術について、何か心当たりはありませんか?」
と。
幸運なことに、エリアーデから前向きな返事が届いた。
『ケイン様、お話は伺いました。音声記録技術は、まだ研究所の主要な研究テーマではありませんが、過去に試作された旧式の『音響記録魔石』とその再生装置が、倉庫にいくつか眠っているはずです。性能は不安定で、記録時間も短いですが。機密レベルも低いものですし、そうですね、『古文書の内容を音声で記録し、研究資料のアクセシビリティを高める実験』という名目であれば、所長の許可を得て、一時的にお貸しできるかもしれません』
数日後、ケインはエリアーデの機転と手配により、古びてはいるが確かに機能する録音装置と、手のひらサイズの記録用魔石をいくつか、秘密裏に入手することに成功した。それは、この世界ではまだ一般的ではない、貴重な技術の一部だった。
(これなら、ティナさんの美しい朗読を魔石に記録し、小さな『聞く本』として複製できる!)
ケインは、ラゼルシアの魔法技術――貴族や研究者が実験的に開発していた、魔石に音声を記録する技術――に活路を見出したのだ。
彼は早速ティナに協力を依頼した。彼女の書庫から、大人たちに人気が出そうな古典的な恋愛物語や、胸躍る英雄譚などを選び出し、ティナに感情豊かに朗読してもらう。
ケインは、借り受けた旧式の録音装置を慎重に操作し、彼女の声を魔石へと記録していく作業を開始した。
試行錯誤の末、こうして、世界初異世界版オーディオブック、「聞く魔石」が誕生したのだった。
そして、完成したいくつかの「聞く魔石」とその再生装置(これも小型のものをエリアーデが用意してくれた)を携え、ケインは新たな戦略を実行に移すべく、夜な夜な街の酒場を訪れることから始めた。
ケインは酒場の主人に交渉し、一角を借りて「ストーリーナイト」と銘打ったイベントを開催。薄暗い照明の中、魔石から流れるティナの美しい朗読が、酒場の喧騒を静かに満たしていく。
仕事で疲れた大人たちが、酒を片手に、しばし物語の世界に浸る。それは、彼らにとって全く新しい娯楽体験だった。
「おい、今の話の続きはどこで聞けるんだ?」
「あの女の人の声、いいなぁ……」
「聞く本」の評判は口コミで瞬く間に広がり、ソルノ書房には予約が殺到した。
エリアーデさん、初登場〜
いい感じに広がっておりますね〜
明日も19時に
どうぞよろしくお願いいたします!




