運命の出会い? 寂れた名店「灯火亭」絶品料理と埋もれた価値
空腹の主人公は、とある定食屋さんへ・・・
教えられた通りに進むと、活気ある大通りから一本外れた、少し薄暗い、人気のない路地へと入っていった。
本当にこんな場所に店があるのだろうか? 不安になり始めた頃、道の突き当たりに、ひっそりと佇むこじんまりとした店が見えた。看板には「灯火亭」と書かれている。
古びてはいるが、手入れはされているようだ。 扉を開けて中に入ると、外観の印象通り、店内は狭く、そして驚くほど静かだった。客は俺一人。いわゆる「閑古鳥が鳴いている」状態だ。カウンターの中に、少し疲れた表情の女性が一人、所在なさげに立っていた。年の頃は20代後半だろうか。
「……いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ。何にされますか?」
壁に掛けられた木札のメニューを見る。「A定食(本日のお肉料理)」というのが目についた。
「じゃあ、このA定食をお願いします」
「はい、少々お待ちください」
しばらくして運ばれてきた定食を見て、少し驚いた。見た目は素朴だが、とても丁寧に作られているのがわかる。湯気が立つメインの肉料理からは、食欲をそそる香ばしい匂いが漂ってくる。
まずは一口、肉を口に運ぶ。
「……っ! う、うまい!!!」
思わず声が出た。なんだこれ!? めちゃくちゃ美味しいじゃないか! 肉は驚くほど柔らかくジューシーで、噛むほどに旨味が溢れ出す。かけられているソースも、複雑で深みのある味わいで、肉の旨味を最大限に引き立てている。付け合わせの野菜も新鮮で、スープも優しい味がする。
受付の人は「保証しない」なんて言っていたが、とんでもない! これは大当たりだ! 心の中でガッツポーズをとる。感謝しかない。
しかし、これほど美味しいのに、なぜこんなにも客がいないのだろう? 時間もちょうど夕飯時のはずなのに。
夢中で食べ進めていると、店主の女性が心配そうに声をかけてきた。
「あ、あの……お口に合いましたでしょうか?」
「合いましたか? どころじゃないですよ! めちゃくちゃ美味しいです! 正直、こんなに美味しい料理は初めて食べました。毎日でも通いたいくらいです。実はこのお店、商人ギルドの受付の方に教えてもらって来たんです」
俺が興奮気味に伝えると、彼女は少し驚いた顔をし、それから寂しそうに微笑んだ。
「そうだったんですね。きっと、ギルドのマリーさんかしら。お客さんが少ないから、同情して勧めてくれたのかもしれませんね」
「すみません、すごく失礼なことをお聞きするかもしれませんが……こんなに美味しいのに、どうしてお客さんが少ないんですか? もっと混んでいてもおかしくないと思うのですが」
俺の率直な疑問に、彼女は苦笑いを浮かべた。
「ううん、全然失礼なんかじゃないですよ! おっしゃる通り、本当のことですから。ご覧の通り、このお店はこんな路地の奥にあって、人通りがほとんどないんです。街の中心部に行けば、もっと華やかで大きなお店がたくさんありますしね。だから、ここに来てくださるのは、あなたみたいに商人ギルドに来た方がたまたま道を間違えたり、誰かに聞いて 探してきてくださるくらいで……」
「そうなんですね……。でも、これだけ美味しければ、もっとちゃんと宣伝すれば、絶対に評判になると思いますけど」
「宣伝……?」
彼女はきょとんとした顔をした。
あっ、そうか。この世界には、現代日本のような「広告宣伝」という概念が希薄なのかもしれない。人々は、知り合いからの紹介や、たまたま通りかかって見つける、といった形で店を知ることがほとんどなのだろう。
「あ、いえ、宣伝というか……もっと多くの人に、このお店の美味しさを知ってもらうための工夫をすれば、ってことです」
実際、この「灯火亭」の料理は本当に絶品だ。この国に来てから食べたものの中で、間違いなく一番美味しい。そう断言できる。だとするならば、その事実を広く知らしめることができれば、多少立地が悪くても、わざわざ足を運んでくれる客は必ずいるはずだ。
あれ……?
これって、もしかして……。
俺の仕事じゃないか?
ついに、ハズレスキルがーーー
次回、明日の19時に公開します!
どうぞよろしくお願いいたします!