スキルが示す「衛生度E」の現実
王城で臨時使用人として働くことになったケインでした。
壮麗な外観とは裏腹に、一歩足を踏み入れた王城の内部は、ケインの想像を絶する酷さだった。
大理石のはずの廊下にはうっすらとホコリが積もり、空気は淀み、どこからともなくカビ臭い匂いが漂ってくる。豪華な絨毯にはシミが点在し、壁の装飾にも蜘蛛の巣が張っている始末。
特に酷かったのは厨房や使用人たちが使う食堂で、床には得体のしれない汚れがこびりつき、微かな異臭が鼻をついた。
そして何より衝撃的だったのは、働いている使用人の数の少なさだ。本来なら数十人、いや百人単位で働いているはずの広大な王城で、ケインが見かけた使用人はわずかに5人。しかも、全員が目の下に隈を作り、やつれ果て、生気のない表情をしている。
(間違いない……これは「呪いの疫病」なんかじゃない。単なる「職場環境の完全なる破綻」だ……!)
劣悪な衛生環境と過重労働が、使用人たちの心身を蝕み、次々と離脱していった結果なのだろう。
そんな状況の中、使用人たちを取り仕切る立場にあるらしい、厳格な雰囲気の執事長――カリウスと名乗る初老の男は、新入りのケインに対して、あからさまに冷ややかな態度を取った。
「ふん、またスキル無しか。まあ、今は猫の手も借りたい状況だからな。だが、勘違いするなよ。お前のような者には、せいぜい雑用しか任せられん」
カリウスは、典型的なスキル至上主義者であり、強力なスキルを持たない者を完全に見下しているようだった。
「カリウス執事長。この王城が抱える問題は、人手不足だけではないように見受けられますが」
ケインは敢えて切り込んだ。
「何だと? 小僧、お前に何がわかる! 魔法も使えず、剣術の心得もないお前に、この王城の何がわかると言うのだ!」
カリウスは声を荒らげた。
「ええ、僕には魔法も剣術もありません。ですが、僕には『マーケティング』があります。そして……この状況を改善できるかもしれない、一人の少年を紹介したいのです」
ケインが合図すると、彼の背後から、小柄で少し怯えたような表情の少年がおずおずと前に出た。その手には、古いが丁寧に磨きこまれたモップが握られている。
彼は、ケインが王都に来る前に、街で偶然見かけ、その真面目さと、自分の持つスキルに対する複雑な想いを聞いていた少年だった。
スキル至上主義者って、なんか苦手だーーー
続きは、明日の19時に〜
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