商人ギルドへの登録
謎の美女から金貨を一枚をもらったケイン。
これからどうする??
そうこうしているうちに、馬車は隣町に到着した。彼女に改めて深く頭を下げて別れを告げ、馬車を降りる。目の前に広がる光景に、俺は思わず息をのんだ。
「……うわっ、ここはこんなに大きな街なのか?」
俺が住んでいた(というより、追い出された)町とは比べ物にならないほど、道は広く、建物は高く、そして何より、行き交う人々の数が圧倒的に多い。様々な店が軒を連ね、威勢の良い呼び込みの声や、荷馬車の立てる音、人々の笑い声が混ざり合い、街全体が生きているような活気に満ち溢れていた。
ここなら……ここなら何かできるかもしれない。この活気、この人の多さ。うまくやれば、一儲けどころか、大きな成功を掴める可能性だってある。そんな予感がした。
さて、こういう場合、まず何をすべきか? 日本なら、個人事業主なら開業届、会社を興すなら法人登記といった手続きが必要だが、異世界ではどうなのだろう。
ファンタジー世界の定番といえば、やはり「ギルド」だろうか?
近くで露店を出していた初老の男性に声をかけてみる。
「すみません、ちょっとお尋ねしたいのですが。この街に『ギルド』のようなものはありますか?」
「ギルドかい? ああ、それなら冒険者ギルドがこの先の通りにあるが…あんた、冒険者には見えないねぇ」
「あ、いえ、冒険者ではないんです。実は、将来自分のお店を持ちたいと考えていまして。そういう場合、どこに相談すれば良いのでしょうか?」
「ほう、店をね! そりゃいい夢だ。それなら『商人ギルド』に登録するのが一番だよ。あそこに行けば、店の始め方から何から、色々と教えてもらえるし、ギルドカードがあれば身分証明にもなるからな」
「商人ギルド! ありがとうございます、助かりました!」
男性に礼を言い、教えられた方向へ歩き出す。商人ギルドは、街の中心部に近い、立派な2階建ての石造りの建物だった。
重厚な木の扉を開けると、中にはカウンターがあり、一人の受付嬢が座っていた。内装も落ち着いており、何人かの商人が談笑したり、書類に目を通したりしている。
「こんにちは。本日はどのような御用でしょうか?」
受付の女性が、にこやかな笑顔で問いかけてきた。
「あ、はい。実は、将来いつか自分のお店を持ちたいと考えているのですが……。まだ具体的な計画も資金もないので、あくまで『いつか』の話なんですけど。今日、この街に来たばかりでして、こちらで登録のようなことは可能でしょうか?」
「はい、もちろん可能ですよ。商人ギルドへの登録ですね。ただし、登録には所定の登録料が必要になります。これは一種の預かり金のようなものでして、発行されるギルドカードは身分証明書にもなりますし、万が一、あなたが商人として何か問題を起こした場合、この預かり金から損害賠償などに充てさせていただくこともございます」
なるほど、保証金のようなものか。それは理にかなっている。
「ちなみに、登録料はおいくらになりますか?」
「はい、登録料は金貨1枚となっております」
「き、金貨1枚!?」
思わず声が裏返る。10万円! 高い……! そんな大金、今の俺には……あっ! いや、ある。さっき、乗合馬車で親切な女性から頂いた金貨が1枚。まさかこんなに早く、しかもこんな重要な場面で使うことになるとは……! これも何かの縁、いや、「恩送り」なのかもしれない。
「わかりました。では、こちらでお願いします」
俺は覚悟を決めて、金貨を受付嬢に差し出した。
「はい、確かに頂戴いたしました。ありがとうございます。では、こちらの登録用紙にご記入をお願いします。文字はお書きになれますか?」
「はい、大丈夫です。書けます」
渡された用紙には、名前、年齢、出身地などを記入する欄があった。そして、「職業」の欄。なんて書こうか。まだ何も始めていない。だが、いずれはこのスキルで身を立てるつもりだ。
そうだ、前世と同じでいいじゃないか。スキルも持っていることだし。 俺は、その欄にこう書き込んだ。「マーケティングコンサルタント」。 受付嬢は、俺が書いた文字を見て、小首をかしげた。
「マーケティング……コンサルタント? 申し訳ありません、初めて聞く職業なのですが、どのようなお仕事なのですか?」
「ええと、まあ、お店や会社の経営をサポートする……相談役のような仕事、ですかね」
曖昧に答えると、彼女は「はぁ…」と少し不思議そうな顔をしたが、それ以上は追及せず、手続きを進めてくれた。
「わかりました。これで登録は完了です。こちらがあなたのギルドカードになります」
手渡されたのは、金属製のしっかりとしたカードだった。これで俺も、この街で商人としての第一歩を踏み出したことになる。よし、身分証明も手に入れたことだし、ここから色々とスタートしていこう!
……とその前に、猛烈にお腹が空いた。そういえば、成人の儀の後、ショックと混乱で何も食べずに追い出されたんだった。
「すみません、つかぬことをお伺いしますが、この近くで美味しいご飯屋さんをご存知ないですか?」
「ご飯屋さん? そうねぇ……それだったら、ここを出て右にまっすぐ進んだ先の突き当たりに、一軒、定食屋さんがあったはずよ。ただ……美味しいかどうかは、保証しないけどね」
受付嬢は少し困ったように笑って教えてくれた。美味しいかどうか保証なし、というのは少々不安だが、空腹には勝てない。まずは腹ごしらえだ。
異世界×グルメの組み合わせが大好きです!
続きは、明日の19時アップします。
次回、運命の出会いが……あるかもしれませんw