再会と提携、女商人エリアナ
金貨をくれた謎の美女が再登場!
彼女の名前は、エリアナ・クレスメントさん
クレスメント商会の代表でした。
エリアナと名乗った彼女は、ケインと、そして少し緊張した面持ちのリサに視線を向けた。
「実は、『灯火亭』さんの素晴らしい評判を耳にしましてね。特に、あの収穫祭でのご活躍は見事だったとか。そして、その立て役者が、かつて私が馬車で出会った前途有望な若者だと聞いて、これは一度ご挨拶に伺わなければ、と思った次第ですの」
彼女の言葉は丁寧だが、その瞳の奥には、鋭い商人の才覚が光っているのをケインは感じ取った。これは単なる挨拶ではない。ビジネスの匂いがする。
「よろしければ、少しお時間をいただけませんか? あなた方と、ぜひお話ししたいことがあるのです」
エリアナの提案で、店のテーブルの一つを使い、商談が始まった。アンナとレオンには席を外してもらい、ケインとリサがエリアナに向き合う形だ。
「単刀直入に申し上げますわ」
エリアナは切り出した。
「『灯火亭』さんのソースとドレッシング、我がクレスメント商会で商品化し、販売させていただくことはできませんでしょうか?」
その提案は、まさにケインたちが直面していた課題に対する、願ってもない解決策のように思えた。
「クレスメント商会には、食品製造の専門ラインと、王国各地への広範な流通網がございます。品質管理も万全ですし、レシピの機密保持も絶対にお約束いたします。あなた方の素晴らしい『味』を、より多くの人々へ、最高の形でお届けできると確信しておりますわ」
エリアナは自信に満ちた表情で語る。しかし、もちろん話はそれだけでは終わらない。
「その代わり、と言ってはなんですが、販売におけるロイヤリティ(売上に対する権利料)や、一定期間の独占販売契約など、いくつか条件を提示させていただきたいと考えております」
彼女が提示してきた条件は、大手商会ならではの強気なものも含まれていたが、決して無茶なものではなかった。
ケインは冷静に契約内容を分析し、リサと灯火亭にとって不利にならないよう、いくつかの修正点を提案し、粘り強く交渉を進めた。
エリアナもまた、ケインの的確な指摘と交渉力に感心した様子で、時折笑みを交えながらも真剣に耳を傾け、最終的には双方が納得できる条件で合意に至ることができた。
商談が終わり、エリアナが帰った後、ケインはリサに交渉の結果を詳しく説明した。
「すごい……クレスメント商会のような大きなところが、うちの商品を扱ってくれるなんて……」
リサはまだ信じられないという表情だ。しかし同時に、大きな組織と関わることへの不安も隠せない様子だった。
「大丈夫ですかね……私たちみたいな小さなお店が、本当にやっていけるんでしょうか……」
「大丈夫です、リサさん」
ケインは、不安げなリサの目を真っ直ぐに見つめて言った。
「これは、『灯火亭』がさらに大きく飛躍するための、またとないチャンスです。もちろん、リスクがないわけではありません。でも、僕が必ずリサさんとこの店を守ります。契約内容も、私たちに不利にならないよう、しっかり確認しました。あとは、私たちが最高の『味』を提供し続けるだけです」
その力強い言葉と、自信に満ちた、それでいて優しいケインの瞳に、リサの不安はゆっくりと溶けていった。
彼女は、この人となら、どんな困難も乗り越えていけるかもしれない、と強く感じていた。それは、ビジネスパートナーとしての信頼を超えた、もっと深い感情の芽生えだった。
「はい。ケインさんを信じます。私、ケインさんと一緒に、挑戦したいです!」
リサは、はっきりとそう言って微笑んだ。
ビジネスパートナーを超えた!!
その感情の名前は、何だーー!!
明日19時公開。