第一章:休日と、微かなる期待
フィン編、スタートです!
今日は久しぶりの休日だった。
ギルド・ポテンシアでの専門相談員としての仕事や、灯火亭での味覚アドバイザーとしての役割は、大きなやりがいと共に、それなりの精神的な疲労も伴う。特に、人の繊細な味覚やスキルの悩みに向き合う仕事は、かつて自分自身が苦しんだ経験を思い起こさせ、気を抜けない日々が続いていた。
だから、この週に一度の休日は、フィンにとって貴重な休息であり、同時に彼自身のスキル――「絶対味覚 (アブソリュート・テイスト)」――を維持し、研ぎ澄ますための大切な時間でもあった。彼はこの日を、決まって王都の喧騒の中に身を置き、様々な「味」を探求することに費やしていた。それは、灯火亭やギルドのための市場調査という側面もあるが、それ以上に、かつては呪いとさえ感じたこの特別な舌で、「食」そのものを純粋に楽しむという、彼自身のささやかな喜びを取り戻すための儀式のようなものだった。
今日の目的は明確だった。最近、王都の若者たちの間で密かなブームになっているという、未知のスパイス「陽炎の実 (かげろうのみ)」を使った屋台料理の調査だ。ケインさんからも、
「市場の新しいトレンドも見てきてくれると助かるよ」
と軽く頼まれていた。
(陽炎の実……名前からして刺激的な響きだ。どんな味と香りがするのだろうか)
以前のフィンなら、未知の味、特に刺激の強いスパイスなどは、その過敏すぎる舌ゆえに避けていただろう。しかし、今は違う。ケインさんとリサさんに出会い、自分のスキルの価値を知り、それをコントロールする方法を学んだ彼は、新しい味との出会いを、純粋な好奇心と、わずかな期待感をもって迎えられるようになっていた。
フィンは、普段の仕事着とは違う少しラフなシャツに着替え、小さなメモ帳とペンをポケットに入れると、住み慣れたアパートを出た。目指すは、王都で最も活気のある場所の一つ、中央市場だ。
(さて、今日はどんな味の囁きが、私を待っているだろうか)
空は高く、青い。
休日の街の空気は、どこか開放的で、フィンの足取りも以前よりずっと軽やかだった。
続きは、一時間後に公開します。
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