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繁盛の裏側の課題

劇的な復活を遂げた「灯火亭」が

話題になってきましたw

ある日の夜。


いつものように閉店後の片付けを二人でしていると、リサが洗い物を終えた手を拭きながら、真剣な表情でケインに向き直った。


「ケインさん……あの、改めて、ちゃんとお礼を言わせてください」


「え? どうしたんですか、急に」


「本当に、ありがとうございます。ケインさんが来てくれなかったら、きっと、私はとっくにこの店を諦めて、畳んでいたと思います。おじいちゃんや父さんが大切にしてきたこの場所を守れたのも、こうして毎日、お客さんの笑顔を見られるのも、全部、ケインさんのおかげです」


リサは深く頭を下げた。その声は、感謝の念で少し震えている。


「顔を上げてください、リサさん。僕がやったことなんて大したことじゃありません。何度も言いますが、これはリサさんの実力ですよ」


「ううん、そんなことないです! ケインさんは、私に料理を作る喜びだけじゃなくて、お店をやるっていうことの楽しさや、希望を教えてくれました。私……ケインさんには、本当に、感謝してもしきれません」


そう言って顔を上げたリサの瞳は、潤んでいた。そして、その瞳には、単なる感謝だけではない、もっと温かく、 個人的な感情が揺らめいているのを、ケインは見逃さなかった。彼女の頬が、ほんのりと赤く染まっている。


その真っ直ぐな視線を受けて、ケイン自身の胸にも温かいものが込み上げてくるのを感じた。前世では、仕事の成果が誰かの「ありがとう」に繋がる実感など、ほとんど得られなかった。常に数字に追われ、プレッシャーに押しつぶされそうになりながら、ただ機械のように働くだけだった。


だが、今はどうだ? 自分の知識とスキルが、目の前で一人の女性の人生を、店の未来を、こんなにも明るく変えている。


客観的な数値やデータだけではない、「美味しい!」という客の笑顔、「ありがとう」というリサの言葉。それらがもたらす確かな手応えと、人との温かい繋がり。これこそが、自分が本当に求めていたものなのかもしれない。


この「マーケティング」というスキルは、単にモノを売るための技術ではない。人の想いを繋ぎ、誰かの夢を後押しし、希望を生み出すための力なんだ。そう確信できた。


同時に、微かな不安もケインの心をよぎる。この充実した日々。リサとの穏やかで、心地よい関係。だが、自分は本来、この世界の人間ではない。いつか、また別の場所に導かれる時が来るのかもしれない。この幸せは、永遠ではないのかもしれない……。



そんなケインの複雑な胸中を知る由もなく、リサは期待に満ちた笑顔を向けていた。その笑顔を見ていると、今は先のことを思い悩むよりも、この瞬間を、リサと共に歩むこの道を大切にしたいと、ケインは強く思った。


「リサさん、お店はずいぶん安定してきましたね」


ケインは気持ちを切り替え、明るい声で言った。


「はい! これもケインさんのおかげで……」


「いえいえ。それで、なんですけど……そろそろ、次のステップに進んでみませんか? もっと大きなことを仕掛けて、この『灯火亭』の名前を、この街……いや、この国中に轟かせるような、そんな計画を」


ケインは、いたずらっぽく笑ってリサに提案した。


「えっ!? もっと大きなこと!?」


リサは驚きと期待で目を輝かせた。


ケインの次なる一手は、一体どんなものなのだろうか? 「灯火亭」の物語は、まだ始まったばかりだ。ケインとリサ、二人の挑戦は、これからさらに大きな舞台へと続いていく。



ケインが「もっと大きなこと」を提案した翌日から、二人は具体的な計画について話し合いを重ねた。


「街一番の人気店になる……そのためには、もっと多くの人に『灯火亭』を知ってもらい、そして実際に料理を味わってもらう機会を増やす必要があります」


ケインはホワイトボードにいくつかの戦略案を書き出していく。店舗の移転拡大、新商品の開発・外部販売、イベントへの出店……。


どれも魅力的だが、今の「灯火亭」にとって最も現実的で、かつ効果的な一手は何か。



二人が出した結論は、まず「足元を固めること」、そして「打って出ること」だった。



「ケインさん、最近、ありがたいことに、本当にたくさんのお客さんに来ていただけるようになって、嬉しいんですけど、正直、私一人だとお待たせしてしまったり、十分なサービスができなかったりすることが増えてきてしまって……」


リサが申し訳なさそうに切り出した。連日の忙しさに、彼女の目元にはうっすらと隈ができている。ケインもその点は強く感じていた。


「ええ、僕もそれを懸念していました。今の灯火亭は、完全にリサさんのキャパシティを超えています。このままでは、せっかく来てくれたお客さんの満足度を下げてしまいかねませんし、何よりリサさんが倒れてしまう」


「でも、人を雇うなんて、私にできるかしら……」


リサは不安げだ。人を雇うということは、その人の生活にも責任を持つということ。経営者としての経験が浅い彼女にとっては、大きな決断だ。


「大丈夫です。僕がしっかりサポートします。それに、リサさんならきっと、良いリーダーになれますよ。料理のこと、お客さんのこと、誰よりも真剣に考えているんですから」


ケインの力強い言葉に、リサは迷いを振り払うように頷いた。


「わかりました。やってみます!」



早速、従業員の募集を開始することにした。


ケインが、求める人物像や待遇などを盛り込んだ募集要項を作成し、商人ギルドの掲示板や、街の広場の掲示板に貼り出した。


「あの『灯火亭』が人手募集!」というニュースは、意外なほど早く街に広まった。



新キャラ登場の予感〜


次回、明日19時にアップします!

どうぞよろしくお願いいたします!

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