絶対味覚 (アブソリュート・テイスト)の持ち主、登場!
ハズレスキルの価値を見出せ!
調査を進める中で、ケインが特に強い関心を抱いたスキルがあった。それは「絶対味覚 (アブソリュート・テイスト)」と呼ばれるものだ。保有者は、あらゆる味を分子レベルで正確に記憶・分析・再現できるという、常人には計り知れない能力を持つ。
しかし、そのあまりに鋭敏すぎる感覚ゆえに、
「普通の食事が楽しめない」
「他人の料理に口うるさすぎる」
「毒味役くらいしか使い道がない」
とされ、料理人ギルドからも敬遠され、社会的には完全に「ハズレ」の烙印を押されていた。
(絶対味覚……使い方次第では、これほど料理の世界で価値のあるスキルはないはずだ。新メニュー開発、品質管理、食材の選定、ワインや香辛料の鑑定。可能性は無限大じゃないか?)
ケインは、この「絶対味覚」の持ち主を、プロジェクトの最初の成功事例とすべく、探し出すことにした。エリアナの広範な情報網を頼り、数日後、ケインは王都の貧しい地区に住む一人の青年、フィン・ラウルの存在を突き止めた。
フィンは、まさに「絶対味覚」の能力を持て余し、社会から弾き出された典型だった。その繊細すぎる舌ゆえに、どんな仕事も長続きせず、人間関係もうまく築けない。料理人を目指したこともあったが、
「お前の舌は異常だ」
「客の好みが分からない奴に料理は作れない」
と罵られ、夢を打ち砕かれた過去を持つ。今は自信を完全に失い、日雇いの単純労働で食いつなぎながら、人との関わりを極力避け、常にうつむいて歩くような、影の薄い青年となっていた。
ケインは、そんなフィンの住む古いアパートを訪ね、ドアをノックした。警戒しながら出てきたフィンに対し、ケインは単刀直入に切り出した。
「フィン・ラウルさんですね。私はケイン・モリヴァンと申します。あなたの持つ『絶対味覚』のスキルについて、お話を伺いに来ました」
「俺のスキル? それが何か? どうせ、また馬鹿にしに来たんだろう」
フィンは、棘のある声で応え、ドアを閉めようとした。
「待ってください!」
ケインはドアを押しとどめる。
「馬鹿にするなんて、とんでもない! 私は、あなたのスキルは『ハズレ』なんかではなく、使い方次第で、とてつもない価値を生み出す『宝物』だと信じているんです!」
「宝物? 何度も言われたよ、毒味役にはなれるってな。だが、それだけだ。俺の舌は、人を不快にさせる呪いみたいなもんだ!」
フィンは自嘲的に吐き捨てた。長年の差別と挫折が、彼の心を深く傷つけているのが分かった。
「もし、その『呪い』を、人々を幸せにする『魔法』に変えられるとしたら?」
ケインは、真剣な眼差しでフィンを見つめた。
「私のパートナーは、この街で『灯火亭』というレストランを経営しています。彼女は、常に新しい味、最高の味を追求している。あなたのその特別な舌は、彼女の料理を、そして店を、さらに高みへと導く力になるはずです。どうか、一度だけでもいい、私たちにチャンスをくれませんか?」
ケインの熱意のこもった言葉に、フィンの瞳がわずかに揺れた。
「どうせまた失敗する」
「俺なんかが行っても迷惑なだけだ」
という諦めの気持ちと、
「もしかしたら……」
という、ほんの小さな希望の光が、彼の中でせめぎ合っているようだった。
最終的に、フィンは
「……分かった。一度だけだぞ。期待するなよ」
と、重い口を開いた。
やっとハズレスキルの話になりました!
ここまで長かったなぁ・・・
明日も19時に更新します。
どうぞよろしくお願いいたします!