突然の覚醒、失われた記憶……授かったスキルは「マーケティング」!?
はじめての作品です。
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「ぐ、頭が、割れる……!」
まるで斧でかち割られたかのような、経験したことのない激痛が脳を貫いた。目の前が真っ白になり、意識が飛びかける。その衝撃的な痛みが引き金だったのだろうか、途絶えていた記憶の濁流が一気になだれ込んできた。
そうだ、僕は……いや、俺は、森田けんじ。現代日本という国で生きていた、しがない45歳のサラリーマンだった。
仕事は……そう、企業の売上を伸ばす手伝いをする、マーケティングコンサルタント。寝る間も惜しんで働き詰め、クライアントと上司の板挟みに苦しみ、疲弊しきった毎日を送っていたはずだ。
それが、どういうわけか今、俺は全く見知らぬ国、グランセリオという王国の荘厳な神殿で、15歳の少年として「成人の儀」なるものを受けている。
この世界では、15歳になると誰もがこの儀式を受け、神から特別な能力である「スキル」を授かるのだという。
そして、まさにそのスキルを授かった瞬間、俺の中に眠っていた「森田けんじ」としての全記憶が、洪水のように蘇ったのだ。
理解が追いつかない。
これは、まさか……。
そう、いわゆる「異世界転生」というやつなのだろう。なぜ転生したのか、死んだ記憶すらない。トラックに轢かれたわけでも、神様に召喚されたわけでもない。だが、理由はどうあれ、この現実は変わらない。
前の人生は、正直言って灰色だった。1日の労働時間は平均20時間近く、いわゆる超絶ブラック企業。家はただ眠るためだけの箱で、心は常にすり減っていた。
ならば、この全く新しい世界で、第二の人生を歩めるというのなら……今度こそ、自分の思うままに、自由に生きてみたい。そうだ、今度こそ、俺は俺の人生を生きるんだ! 後悔しないように、この世界を味わい尽くしてやる!
さて、俺がこの世界で授かったスキルとは何だろうか?
期待と不安が入り混じる中、意識を集中させると、脳内に文字が浮かび上がった。
「……マーケティング??」
は?
聞き間違いか?
いや、確かにそう表示されている。俺が前世で、それこそ骨身を削ってやっていた仕事、そのものがスキルとして与えられたというのか?
これは一体……。
儀式を執り行っていた老神官が、訝しげな顔で俺を見つめる。
「むぅ……『マーケティング』とな? 儂はこの儀式を30年以上取り仕切ってきたが、そのようなスキルは初めて聞く。前代未聞じゃ」
老神官は困惑した表情で俺に問いかけた。
「ケイン(この世界での俺の名前らしい)よ。何か身体に変化はあったか? 例えば、力がみなぎってくるとか、呪文が頭に浮かぶとか……」
「いえ……特に何も。体も軽くなった感じはしませんし、特別な力が湧いてくる感覚もありません」
俺が正直に答えると、神官は深くため息をつき、憐れむような視線を向けた。
「……どうやら、それは『ハズレスキル』のようじゃな」
その言葉は、静かな神殿に重く響いた。そして、その宣告は俺の新たな人生の始まりを、残酷な形で告げるものとなった。隣にいた、この世界の父親であろう男が、信じられないものを見るような、そして深い侮蔑を込めた目で俺を睨みつけた。
「……なぜお前のような奴が、よりにもよってハズレスキルなど……我が家の恥さらしめ!」
儀式が終わると、俺は父親に腕を強く掴まれ、家へと引きずられるように連れ戻された。家に着くなり、彼は俺のわずかな荷物を乱暴に袋に詰め込むと、玄関先で突き飛ばした。
「二度と我が家の敷居を跨ぐな! お前のような役立たずは、どこへなりと行くがいい!」
扉は無情にも閉ざされ、俺は文字通り、着の身着のまま放り出された。
今日から連載スタート!
ハズレスキルの主人公は、どうなってしまうのか!?
19時に続きを投稿します。
どうぞよろしくお願いいたします。