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つながり⑥

 ガタンッ、と床に響く音で目が覚めた。

 一階の、おそらくリビングからいつもの怒声の応酬が聞こえてくる。

「……っ」

 せっかく気分よく眠りにつけたのに。もやもやとして、吐き気まで起こってきた。聞きたくないのに耳に飛び込んでくる言葉たちは、胸を抉られるようなものばかりだ。

 手で耳を塞ぎ、掛け布団の中で身体を丸める。自分を守る術がこれしかわからない。ただひたすらに耐える。

 いいことがあったのに……。

 少し気分があがることがあると、激しく落ち込む出来事があとから来る。いつまでもいい気分でいられないのは賢太だけだろうか。それとも、誰だってそうなのに賢太の心が弱いから傷つくのか。

『誰も信じられない』

「あ……」

 あの声が聞こえて、はっとする。寝る前には聞こえなかった声が、今度ははっきりと聞こえる。それでも今はもう弾んだ気持ちで報告なんて、できる気分ではなかった。

『俺のことなんか、本当は愛してないくせに』

 どうしたの?

 心で問うと、相手の声が少し揺れた。

『愛情なんて全部作りものだ』

 なにかあったの?

『誰も信じられないし、信じたくない』

 その様子から、きっとなにかつらいことがあったのだということはわかった。でもどこまで踏み込んでいいのかわからない。もどかしく感じながらも声に耳を傾けた。

『もう放っておいてくれ。ひとりでいいんだ……』

「……」

 なんとなくその声の向こうに秀星の姿が浮かんだ。秀星も声の主と同じことを思っていそうだと考えてしまい、頭を小さく振る。

 僕はあなたの味方だよ。

『どうして? 俺はきみになにもしてないのに?』

 そんなことないよ。たくさん励ましてくれてるし、たくさん支えてもらってる。

 賢太にまで彼の孤独が伝わってくるようだった。ひどく傷ついた様子の声は、低く沈んでいる。彼の心が深い傷を負っているのだ。

『……ごめん。ちょっと八つ当たりっぽくなっていた』

 ううん。大丈夫。

『なにもかもうまくいかないなと思ったらいらいらしたんだ。ごめん』

 うん……。

 たしかにうまくいかない。毎日楽しいことだけが続けばいいのに、人生はそんなに優しくも甘くもない。酸っぱくて苦くて、辛味ばかりだ。

『きみの声を聞いてたら落ちついてきたよ。ありがとう』

 僕はなにもしてないよ。

『俺にこうやって話しかけてくれるだけで、すごく嬉しいんだ。だから、ありがとう』

 やはり彼とは同じ気持ちが呼び合って、心で会話ができるようになったのだ。だってあまりに似ているし、相手の気持ちが手に取るようにわかる。実際に会っているのではないことがさらにいい状況だと思う。相手の本質がわかるというか、心だけで応じられる。繕わずそのままでいられることは、とても楽だった。

『……本当はひとりが寂しいんだ』

 うん。僕もそう。

 ひとりでいいふりをしていても、親に愛されなくてもいいなんて思っていても、本当は違う。愛情がほしいし、誰かにそばにいてほしい。

 傷ついたときに寄り添ってくれる彼がいることを、賢太も心の底から感謝した。

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