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つながり⑮

 三学期がはじまっても秀星には避けられた。琉希との話し合いがうまくいっていないのか、それとももう賢太のことを信じられないのか。答えが見えないままひとりでいる日々が続く。

「あ……」

 目が合ってすぐに逸らされた。好きだと告白してくれたのは、もう過去になってしまったのかもしれない。返事ができないまま、友だちとしても終わるのか。心がひんやりと冷たくて、外気よりもずっと寒い風が吹く。秀星との距離は広がったまま一日一日と過ぎていく。



 空気がきんと冷えているのに陽射しは春を感じさせる二月初旬になっても、秀星との距離は変わらなかった。まだ諦めていない自分に苦笑しながら、今日もひとりでとぼとぼと教室を出る。アルバイトがある賢太とわざと時間をずらすように、秀星は放課後の教室で本を開いていたりノートに書き込みをしたりしていることが多い。

「賢太!」

 校門に他校の生徒が立っていて、賢太を見つけて手を振った。

「琉希……」

「ちょっと話がしたくて来たんだ。歩きながらでいいから話せるか?」

「うん。……あ」

 視界のすみに佇む生徒に気がつき振り向くと、秀星がひどく傷ついた表情で賢太を見ていた。

「秀星……」

「兄さんにも話があるから一緒に――」

「俺なんて邪魔だろ」

 琉希の言葉を遮った秀星は早足でその場を去った。痛ましく歪んだ表情が瞼の裏に焼きついて離れない。追いかけないといけない、と思い、琉希を置いて秀星の背を追いかけた。

「秀星、待って」

「……」

「待って。お願い、話を聞いて……!」

 路地の前を通ったとき、少しだけ振り向いた秀星が悲しそうに眉を寄せた。それでも賢太のほうを見てくれたことにほっとする。だがなぜか賢太を見ていたその顔はすぐに険しいものへと変わった。

「賢太!」

「え……?」

 キイィーッ、と鋭く耳障りな高音があたりに響き、音のほうを向く前になにかが激しい勢いでぶつかってくる衝撃があった。天地がひっくり返って、秀星が駆け寄ってきているのが視界のすみに入る。

「しゅう、せ……」

 硬いものに打ちつけられた全身が少し弾んだのがわかり、遠くに秀星の声が聞こえる。身体が動かないまま、視界が暗転した。



 なにかが聞こえる。なんだろう。真っ暗な世界で声が聞こえる。声を出したくても口が開かない。

 誰?

 いつかそうしたように、心の中で問いかける。耳を澄ませると、それは人ではなく、しずくが雨のようにぽたりぽたりと落ちる音だった。

 どうしたの?

 でもわかる。誰かが泣いているのだ。暗闇に向かって心の中で声をかけるが、返事はない。ひどく心細くて、手を伸ばそうとした。でも手が動かない。

 なんで泣いてるの?

 心の中で話しかけるけれど返事はない。静寂の中に、ただ賢太の心の声だけが響く。

 誰かが泣いている。それはわかるのに、肝心の誰が泣いているのかがわからない。暗闇はいっそう濃くなり、賢太を覆う。このまま闇と同化してしまいそうな恐怖に、心も身体も凍てついた。

『賢太』

 はっとして声の聞こえてきたほうを見る。誰かが呼んでいる。

『賢太』

 低い、優しい声。いつも賢太を気遣ってくれて支えてくれる声。

 秀星……。

 秀星だ。秀星が呼んでいる。泣いているのも秀星だ。どうしてかわからないけれど、賢太の大切な人が泣いている。

 秀星。

 心で呼びかける。届いて、と願いながら、精いっぱいの愛しさを込めて大切な名を呼ぶ。

 泣かないで。

 駆け寄りたいのに足が地にぴたりとくっついたように離れない。動けない賢太の頭上からまばゆい光が降ってきた。その中央に、大きな手がおりてくる。

『賢太』

 秀星……。

 この手を取りたい。

 たくさん傷つけてごめん。たくさんつらい思いをさせてごめん。でもそばにいさせて。

 重くて動かなかった腕が急にふわりと軽くなり、おりてきた手を捕まえる。絶対になにがあっても秀星をひとりにしない、と強く決意すると暗闇が霧散し、光に包まれた。

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