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つながり⑬

「……秀星は、不思議なことって信じる?」

「不思議なこと? たとえば?」

「えっと、その場にいない人の声が聞こえて、心で会話ができるとか」

 言葉で説明をすると漫画の設定のようで、賢太自身もおかしいことを言っていると感じた。それでも秀星は真剣な表情で考えてくれている。基本が真面目な人なので、こういうときに茶化したり笑ったりしない。そんな誠実さも恰好いい。

「その場にいない人の声……」

「うん。耳に直接話しかけるみたいに響いて聞こえて、感情も伝わってくるんだ。たとえば相手が苛立っていたら耳に圧迫するような感じがあったり、悩んでいたら迷ってる空気を感じたり」 

 この説明でわかってもらえるだろうかと心配になりながら、たどたどしく伝える。秀星は口に手を当てて、賢太の言葉をひとつずつ小さく繰り返す。

「わからない。俺は経験したことがないから、あるともないとも答えられない」

 ごめん、と謝られ、賢太は首を左右に振った。

「ううん。謝らないで。でも僕はあるって知ってるんだ。実際に僕に起こってることだから」

「賢太に?」

 訝る瞳に、はっきりと頷いて見せる。

「うん。最近は声が聞こえないから、起こった、なのかもしれないけど」

 不可解そうに眉を寄せた秀星だったけれど、すぐに笑顔を向けてくれた。

「賢太が言うなら信じる。賢太のことならなんでも信じるよ」

 それで、と秀星は少し言いにくそうに言葉を口の中で呟いた。

「その相手って、誰なんだ?」

「……」

「もしかして、賢太はその相手が好きなのか?」

「ううん。そうじゃないんだけど」

 丁寧に説明をしないと誤解をされそうだ。ひとつひとつ状況を説明する。親の喧嘩を聞きたくなくて耳を塞いでいたら声が聞こえてきたことから、互いに名乗らずにいたこと。知らない誰かが心の支えになっていたこと。もちろん秀星も賢太の心の支えであることもきちんと口にした。秀星の存在はとても大きい。

「秀星、……大曽根琉希って人、知ってる?」

 はっとしたように目を見開いた秀星は、顔色を変えた。

「声の相手は、その人だったんだ」

「……琉希……が」

 愕然としている姿に、秀星にとって琉希が好ましい存在ではないことがはっきりとわかり、心に冷たい風が通った。

「秀星は琉希と仲がいいの?」

 冷めた瞳を向けられ、その問いが間違っているとすぐにわかった。

「あいつは親に愛されて、賢太まで琉希を特別に思うのか」

「違うよ。そうじゃなくて――」

「琉希は俺から全部を奪って、賢太まで奪うのか……!」

 秀星の耳にはなんの言葉も届いていないようで、賢太が必死に違うと言っても伝わらない。ただ憎々しげに「琉希」と呻く。

「琉希のせいで親の俺への愛情はなくなった。全部琉希に向いたんだ」

「でも琉希は自分が愛されてないって言ってたよ」

「あんなに可愛がられて、馬鹿なやつ」

 吐き捨てるような声にぞくりとする。秀星が怒っている。苛立ちなんて飛び越えて、怒気が秀星の心を支配している。

「俺が祖父母のところにいるのだって、親が俺を邪魔だと思ったからだ。琉希だけいればいいんだ」

 深く大きなため息を落とした秀星は、諦めの表情を浮かべた。かすかに浮かんだ笑みは、諦念しか見えない。

「なんで琉希なんだ。親だけじゃなくて、賢太まで……」

 今にも泣き出しそうな姿に胸が痛み、縋るように秀星の腕に触れる。でも振りほどかれた。首を横に振った秀星は背を向けた。

「俺は全部あいつに奪われる」

「秀星、待って。違うんだ」

「もういい。俺なんかどうでもいいだろ。俺も、自分がどうでもいい」

 追いかけても賢太の声は秀星に届かない。賢太を見てもくれなかった。

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