次彼(ツギカレ)
神話と民話の中間です。
恋の願いを叶えてくれるというキューピッドの愛凜に、現在片想いの悩みを持つパルは相手の少女、ソフィアとの恋を叶えて貰うよう相談を持ちかけた。
平均なポジションを保つパルにとって、成績優秀スポーツ万能それに加えて容姿端麗の女性であるソフィアは、それはもう憧れだ。
当然多くの男性もまたソフィアに恋心を抱いており、彼女に告白する者は少なくない。
なんといってもソフィアは思いやりがある女性なので、同じ女性からも好かれている。
「……そんなわけで、僕とソフィアさんとの恋を叶えて欲しいんです!
愛凜様、どうううか、彼女に愛の矢を射ぬいて下さいまし‼」
どうしてもソフィアと交際したいパルは、頭を下げに下げて、愛凜に願う。
けれど愛凜は、彼がどんなに頭を下げて願っても、頷かない。
面白くなさそうな面持ちをみせる愛凜から、パルへと思いもよらない言葉が向けられる。
「嫌だね。
あの高嶺の花であるソフィアと平凡な君とじゃあ、これっぽっちも釣り合わないよ!
諦めるんだな!」
「え……?」
淡々と言い放つ愛凜の表情からは、慈悲の欠片も見えない。
とてもではないが、恋のキューピッドだとは思えない。
「確かに彼女は皆に人気の高嶺の花だけど、キューピッドの矢を射ぬいたら、どんなに困難でも恋は叶うんですよね?」
「叶うさ。
だから嫌なんだよね。
ソフィアの相手が君だなんて、俺様が許さない……!」
愛凜は鬼のような形相をパルに向けて、憎しみ全開の気持ちを漂わせていた。
この時、パルは本能的に悟った。
愛凜の気持ちを。
「ま……まさか……あなた様もあの人を……!」
「ああ、察しの通り、俺様もソフィアに恋心を抱いてるんだよ!
あの子の次彼になるのは、この俺様なんだよ!」
愛凜は、恋のキューピッドだけあり、やはり容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能で、出逢った全ての女性に恋心を抱かれている全女性の憧れの的なのだ。
(ああ……愛凜様相手じゃあ、勝ち目はない……)
パルはソフィアを諦めるしかなく、ただ落ち込むしかなかった。
「あんな素敵なソフィアをモブの君が独占するなんて、一億年早いんだよ!」
「……」
愛凜がパルに暴言を吐いているそんな場面を、話題にあがっているソフィアが通り掛かる。
「「!」」
愛凜とパルの視線がソフィアへと向いた。
世界一モテるキューピッドの眼差し、世界一地味な人間の眼差し。
対照的な二人から眼差しを向けられ、ソフィアはひそかに想っている男性をそっと見詰めた。
(あの人には好きな女性がいるのかな?
いつか自分を磨いて、あの人に気持ちを打ち明けよう……)
ソフィアの心には、その男性が宿っている。
ソフィアへと一歩近付こうとしたパルの足元に、小さな花が一輪咲いている。
気付いたパルは動きを止め、身を屈めて花に手を添えた。
そんなパルを見もせず、愛凜はソフィアの方へ歩いていく。
「ソフィア、これから俺……わたくしとお茶でもどうですか?」
愛凜の口調がガラリと変化するが、ソフィアは眼差しをパルに向けたまま言う。
「ごめんなさい。
これから塾がありますので、失礼します」
素っ気ない態度で立ち去りながらも、ソフィアはまだパルを見つめていた。
(誰も気付かない花を愛でるなんて、なんて思いやりがある人……!
努力してあの人と釣り合う女性になろう!)
「ああ……あのクールな態度……あえて俺様に気のないふりをして、実は俺様の告白を待ってるところが良い!」
完全に自分の世界に浸る愛凜の側で、パルは一輪の花を見つめている。
(踏まれないように、柵を作った方が良いな)
離れた位置まで歩いた所で、ソフィアは小さく振り返りパルに視線を送った。
(私の存在にも気づいて欲しいな。
あの人に気づいて貰えてる花が羨ましい……)
「!」
何かに気付いたパルが見上げると、高嶺の花の姿が視界に入った。
風が吹く中で世界一美しい女性と、世界一心が美しい男性が視線を一つに繋げていた。
恋のキューピッドが雑魚役です。
いかがでしたか?