聖女じゃないのに正常じゃない日常8-聖女じゃない私と忘れられた楽園の謎
私はレイラ。
聖女じゃないけど、なんか最近「聖女扱い」されることが増えている。
魔法が少しだけ使えるだけの田舎の平民なのに、なんでだろうね?
「レイラ、助けてくれ!」
村長の息子ロバートの叫び声で目を覚ます……と思ったら、ここは私の部屋じゃない。どこか暖かな光に満ちた草原に立っている。澄んだ空気の中で花の香りが漂い、鳥のさえずりが響いている。
「ここは……どこ?」
夢だと分かるのに、不思議なほどリアルだ。目の前には古びた門が立ち、蔦が絡みついている。その奥から優しい声が聞こえてきた。
「ここに来るのは久しぶりの人間だね」
振り返ると、そこにはふんわりと輝く小さな妖精が浮かんでいた。彼女は微笑みながら言う。
「この楽園は人間に忘れられてしまった場所。でも最近、何かが狂い始めているの」
「狂ってる?」
「楽園が悲鳴を上げているの。助けてあげて」
そう言われた瞬間、目の前が真っ白になり、私は自分のベッドに戻っていた。
翌朝、村はいつになく騒がしかった。広場では村人たちが集まり、領主様が困惑した顔で話をしている。
「レイラ、ちょうどよかった!君の力を借りたいんだ」
「またですか?今度は何ですか?」
領主様の話では、村の南にある森で奇妙な現象が起きているという。木々が急速に枯れ始め、小川が干上がり、森に住む動物たちが次々と姿を消しているらしい。
「自然が崩壊している……?」
夢で見た楽園と重なるような気がした。でも夢の中の妖精が言っていたことが本当なら、あれは偶然じゃない。
「分かりました。行ってみます」
私は再び「聖女」として、森の謎を解明するために出発した。
森に入ると、そこには村人の言葉以上に恐ろしい光景が広がっていた。木々は茶色に変色し、葉は散り果て、地面はひび割れている。小川は枯れ果て、水音一つ聞こえない。
「何が起きてるの……?」
歩いていると、突然、風の中から低い囁き声が聞こえてきた。
「ここに来るのは誰だ?」
振り返ると、夢の中で会った妖精がいた。彼女はどこか悲しげな表情をしていた。
「楽園が危険にさらされているの。あなたに助けてほしい」
「楽園って……本当にあったんだ」
妖精は頷き、蔦に覆われた古びた門の場所を教えてくれた。
「門を開き、楽園を守って。そのためには、失われた鍵を見つけなければならないわ」
妖精の導きで森の奥へ進むと、ひときわ大きな木が立っていた。その根元には小さな台座があり、そこに何かがはまっていた形跡があった。
「これが鍵……?」
妖精は台座に触れながら説明した。
「鍵は人間の手によって奪われたの。楽園の力を利用しようとした者がいたから。でもその行いが楽園を弱らせ、今の状況を招いている」
「じゃあ、その鍵を取り返せばいいんだね?」
「ええ。ただ、その鍵は簡単には見つからないわ」
妖精は、鍵を持ち去った人物がかつて村に住んでいたことを教えてくれた。その人物は「楽園の力を使い、人間の世界を豊かにしたい」と願っていたが、結果的に均衡を崩してしまったという。
村に戻り、古い記録を調べると、その人物の家が今も村外れに残っていることが分かった。
「そこに鍵があるかもしれない」
私はその家を訪れた。家は廃屋になっていたが、中には古い箱が置かれていた。箱を開けると、中から小さな金色の鍵が出てきた。
鍵を手に入れ、再び森の奥へ向かう。古びた門の前で鍵を差し込むと、重い音を立てて扉が開いた。
その向こうには、夢で見たのと同じ景色が広がっていた。美しい花畑と輝く川、そして温かな光が全てを包み込んでいる。
しかし、その光景の一部はどこか歪んでいた。枯れた草やひび割れた地面が所々に見える。
「これが……楽園?」
妖精が頷いた。「ここを完全に元に戻すには、あなたの力が必要よ」
楽園の中心に進むと、大きな泉があった。その水面は濁り、ほとんど流れていない。
「この泉が楽園の命を支えているの。でも、力を失っているわ」
泉の周囲には古い石碑があり、その一つに手を触れると、不思議な光が広がった。泉の底から澄んだ水が少しずつ湧き上がり、濁りが消えていく。
「これで……元に戻る?」
妖精は微笑みながら頷いた。「楽園は再び生き返る。でも、この場所を守る者が必要なの」
私は迷ったが、村の人々や自然のために、守護者の役割を引き受けることにした。
楽園の力が戻ると、森全体にその影響が広がった。枯れた木々は緑を取り戻し、干上がった小川には再び水が流れ出した。
村に戻ると、森が息を吹き返したことに村人たちは驚き、歓声を上げた。
「レイラ、やっぱり君は聖女様だよ!」
「だから、私は聖女じゃないってば!」
それでも、村人たちの笑顔を見ると、心の中が温かくなった。
こうして忘れられた楽園は救われ、村にも平和が戻った。楽園の守護者となった私は、この場所と人々を守る新たな責任を背負うことになった。
「次はどんな冒険が待っているのかな……」
私は次の出来事を少し楽しみにしながら、日常へと戻っていった。