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【完結済】INVISIBLE-インヴィジブル-(EP1)  作者: 高山 理図
第二節  A story that converges beyond the singularity
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第2節 第25話 Invisible Ghost

 ファティナが開闢し支配する半仮想空間の中で、翼を持つ少年神とアルシエルの戦闘が繰り広げられている。

 両者は一瞬も同じ場所に留まってはいない。


 戦略的にポジショニングを行いながら、多種多様な攻防を見せてくれる。

 ”不可侵の聖典”は時計職人の傀儡となったかにも見える彼女に盲従しているが、コマンドを必要としないオートスペルというモードに切り替えられているらしく、自動的に業を生成しては遼生めがけてアウトプットを繰り返し、機械的で緻密な動作を繰り返していた。

 アルシエルの執拗な波状攻撃に少年は真っ向から挑み、一歩も引けをとらない。

 遼生は受身に徹するだけで、積極的な攻撃を仕掛けもしない。

 その防御は見事だ。

 少年神は圧倒的だったし、解階の戦闘民族の中で終身女皇であったアルシエルは呼吸をするより慣れた様子でしなやかな身体を道具として使いながら、その卓越した身体能力で少年を追い詰めようとする。

 仮想空間に意識を張り巡らせたファティナをしても視認することすら難しい、超音速の攻防だった。


 冷たいまでに無表情のアルシエルは”不可侵の聖典”のページの二箇所に人差し指と中指を挟み、表紙と背表紙を片手の親指と小指で併せて垂れ下がったページを重力に任せ下に向ける。

 こうして見開き4ページ分が開かれ、2P分の業を繰り出すことが可能となる。

 通常は1Pずつしかコマンドの読み込みができないのだが、変則的な呼び出し方だ。

 この戦術は、身にしみついているのだろう。

 マラカイトグリーンのグリッド以外の一切が闇という空間に、開かれたページに浮かぶ紅い蛍光はファティナと遼生の瞳を禍々しく射る。

 ファティナはアルシエルの業を目前にして、双眸を見開き、その真髄を見極めようとした。


「……! ”不可侵の聖典”の無詠唱による同刻喚起!」


 素晴らしい! これが録画映像であってファティナが安全な場所にいるなら思わずそう言ってしまったことだろうが、この場に居合わせているのでそんな悠長なことも言っていられない。


 ファティナの側から見えるその禁断の聖典の一ページの挿絵には、見るも不気味な、竜に酷似した怪物のシンボルが大きく描かれていた。

 そうだ……不可侵の聖典はアルシエルの生命力に呼応し、暴力を具現化するツールである。

 彼女の生体エネルギーを抽出変換し、高度に組織化された業へと進化させる。

 アトモスフィアを媒介とする神具と同じ原理でツールは駆動する。


 神具と異なり誰でも手にすることはできるが、誰にでも扱えるというものではない。

 このツールで何ができるかというと、そのどっしりと分厚いページ数分だけ、戦術が用意されている。

 神具に引けをとらず、圧倒的に勝っている。


 ページから具象化された怪物がアルシエルの影にオーバーラップするように重なり、彼女が腕を振ってけしかけると、遼生を襲う。

 怪物は遼生の神体を通り抜けて、煙のように消えてしまった。

 肩透かしを喰らったようだが、油断は禁物だ。


「何か仕込まれましたね、いま一度来ますよ!」


 遼生は次に繰り出される業を警戒し、アルシエルに保険としてフレームトラップをかけようとしたが、もはや彼女には通用しなくなっていた。耐性がつくということはないので、さきほどの衝撃波によってフレームトラップが封じ込められたに違いない。

 彼女にとって厄介だったそれを真っ先に封じ、アルシエルは遼生に拘束されず自在に動けるようになる。


 次に、彼は目を疑った。何とアルシエルが、遼生のフレームトラップと同じように指先を互い違いに組み合わせ、気圧を放ったからだ。

 重い衝撃とともに遼生の身はこわばり、深層筋が硬直した。

 遼生のそれとまったく同じパターンだ、これでは……。


 何が起こったのか考える猶予も与えられず、アルシエルの顔はすぐ目前に迫っている。

 フィジカルギャップをも簡単に粉砕する彼女の拳は、動けない遼生には脅威だった。アルシエルの拳は、遼生のフィジカルギャップを無効化して神体に届く。

 遼生は身を翻すこともできず、腰骨にまともに打撃を喰らっていた。


 鈍痛とともに、腹部に刻み付けられるように鉄拳を叩き込まれる。

 一撃。

 また一撃と熱くすら感じるそれが、極限にまで狙い済まされ洗練されていた。

 彼は吹き飛ぶことなくじっと耐えている。足腰の頑強さが彼の持ち味だ。

 辛くももちこたえる少年を見てファティナが息をついたのも束の間、今度はアルシエルがグングニルを遠隔から呼び寄せ手に握り込み、遼生の首を突きにくる。

 ファティナが遼生の異変に気づいたのはこの時点でのことだ。

 急所を目掛けて飛んでくる巨槍を前に、遼生は顔を歪めながらも苦笑した。


“これはしまったな”


 後悔した。

 一度見せた戦術を重ねて使うことは言語道断、これは戦術の初歩中の初歩だ。

 劇的かつ相手にとって致命的な隙を創り出すフレームトラップは窮地に陥るまで、特にアルシエルの前では打つべきではなかった。


 便利なものを持っていると先んじて使いたくなってしまうものだ。

 慢心と依存は戦術の選択肢を狭めるだけで、現に、窮地に陥っている。

 グングニルは刺突の為の槍で、断首はできないであろうというのは希望的観測にすぎない。

 喉が潰れるだろうが、この状況下では防ぐ手がなかった。

 傷の修復には少し手間がかかる。

 その間に、決定打を浴びなければよいのだが。


“先ほどのはスキャンコマンドでしたか!”


 攻撃が目前に迫っていながら避ける気配すらない遼生に気付いたファティナが、大慌てでΔδΔを口に咥えて噛み締め、ラインを操る10本のリングに指を通し、叩きつけるように緑色光のライン束を放った。

 綾となった光のラインは明確な意思のもと縦横に乱れ飛ぶ。

 間に合うか! 彼女は無心で繰った。

 業を返されて動けないのなら、早めにそう言ってくれないと!


 遼生が目を見開いたまま、無抵抗に等しい状態で喉を刺し貫かれる覚悟を決めたときには、彼の意思と反して彼の体は弾かれ飛び下がっていた。

 彼は急速に遠ざかるアルシエルがグングニルの軌道を逸らしたことをしっかりと見届けていた。


“やはりか”


 彼は紅茶色の瞳を眇めると、アルシエルとの間に十分な間合いが生じたことを安堵とともに把握した。

 だが感覚的に分かる、このポイントに着地する前に、先ほどアルシエルに仕掛けられた業による全身の硬直は解けていなかった。

 まだ痺れている。

 視線を自らの身体の上に配ると、ファティナのΔδΔのラインが遼生の四肢に幾重にも絡み付いて弱い蛍光を放っている。

 ファティナがラインを介し、マリオネットのように遼生を操って回避させていたのだ。

 彼女の判断によって遼生は辛くも危機を脱した。


「いやぁ……、助かりました」


 彼は体裁が悪そうに、なんとも気の抜けた声を出した。

 これでいて感謝はしている。

 謝意はすぐに彼女の剣幕に弾き返されて消えた。


「あなたのお得意の緊縛術をコピーコマンドで使われて、身動きがとれなかったじゃないですか!」


 助けに入らなければ、今頃どうなっていたことか!

 ……そう言いかけて、彼女はそんなことを言えたものではないと自戒した。

 いい年をした枢軸神が子供を盾にしておいて、彼を責め立てるべき理由もない。

 ファティナの緊張した面持ちとは対照的に、彼の表情にはまだ余裕がある。

 どうするつもりだったのだ、あの状態から……。

 少なくともファティナならば死を覚る。

 彼は目を見開いて、自らが刺し貫かれる事を待っていたかのように見えた。


「ご心配なく。アルシエルがフレームトラップをコピーしたならば、効果は一時的なものでしかありませんから。それに……いえ……」


 遼生はまだ減らず口を叩いている。

 ファティナが回避させなければ重傷となることも踏まえたうえで、耐えるつもりがあったのだ。

 根性があるのか、ただの強がりの自信家なのか。

 あまりにも未知数な少年の能力。

 ファティナはもう、彼の戦術について口をさしはさむのをやめた。

 危険があればサポートするだけにしようと。


 そして、ついそこまで遼生の口にのぼりそうになっていたことは、アルシエルの意識がブラインド・ウォッチメイカーに完全には操られていないという推論だ。

 先ほどより、遼生はあれほど激しい攻撃の中でアルシエルから一撃も致命傷を喰らっていない。

 それは遼生の身のこなしが優れているというばかりではなく、アルシエルが遼生を子供とみて無意識のうちに手心を加えているからだ。

 ブラインド・ウォッチメイカーの憑依した石沢 朱音には容赦なかったが、特に殺すべき理由もない、もっといえばアルシエルの闘争本能を刺激しないとなると、無益な殺生を嫌うのがアルシエルのもともとの性格のようだ。

 時計職人に浸され沈みゆく意識の中で、彼女はいま、溺れながら懸命にもがいているのだろうか。

 そのように思えた。

 彼女に報いるためにも、殺してはならない。

 そのための手段は必ずある。遼生は自身の本音を確かめて頷いた。


 この間に、アルシエルは彼女の意思と反して先ほど発動しなかった一つのコマンドを実装している。

 ファティナが仮想空間に張り巡らせたセンサーに解析させページを拡大すると、大槌の図柄が出現した。

 ヘクスカリキュレーション・フィールドによると、強化コマンドだと予測されている。


「もう1Pは強化コマンドかもしれません!」


 彼女が大声でそう述べたときには、アルシエルは既に遼生のフィジカルギャップを破り、彼の腹部に襲撃を喰らわせようとしていた。

 ファティナがラインを介して遼生を回避させようとしても、アルシエルのスピードにファティナの反応が間に合わない。

 あわや、というところで遼生は金縛りが解けたらしく、彼はファティナの手助けなしに彼自身の手の甲でアルシエルの攻撃を受け止め、すれ違いざまに彼女の頚部に右手を宛がい、かすり傷をつけてそこをそっと親指でなぞった。

 遼生の奇怪な行動の意味に気づいた者は、この時点では誰一人としていなかった。


 遼生はアルシエルの定まらない視線に注意を引き付けられていたが、左手に従えた不可侵の聖典が煮え立つマグマだまりのような色に変わっていたことに気付く。

 アルシエルは先ほどと同じページを呼び出し、もう一度同一のパターンで拘束術を仕掛けてきたが、今度は遼生も引っかからない。

 怒号とも悲鳴ともつかないファティナの声が耳に届いたのは、そのすぐ後だ。


「気をつけて!」

「かかりませんよ。身体で覚えた事は二度と、忘れないのでね」


 彼はグングニルの先端を取りあげて左脚の膝窩ではさみ、左手でアルシエルの右手首を取った。

 細い腕に備わった奇跡的な腕力は、同じく怪力を備えるアルシエルのありとあらゆる可動域を奪っている。

 形勢逆転だ。

 今だ! 

 右腕を取って捻じ伏せればグングニルを手から離させ、決着をつけられる! 

 ファティナがそう思ったが、彼は何故かそのままの体勢でいて決着を避けたがる。


「何故です!」


 じれったくなって、口出しをしないと決めたばかりのファティナが思わず口を挟んでいる。

 何故とどめをささない、この期に及んで情けというやつなのか。

 どのみち普通の状態の4倍も重篤にブラインド・ウォッチメイカーに憑依されているアルシエルは助からないのだから、早く決着をつけた方がいいのではないか。

 ファティナはそう思っても、だからといって直截的に殺害しろとも言い難いものではある。


 これではデジャヴだ。

 アルシエルが石沢 朱音の立場となったという以外には、先ほどとまるきり同じ状況だと気付いている。

 そして尚更にとどめをさせとは言えない事を。


「時間を稼ぎましょう」


 ファティナの罪悪感を救うように、少年は余裕綽々で言い放った。

 それは釣り上げた大魚を、みすみす放流するようなものだ。


「何のための時間です!」


 ファティナが感じたのは苛立ちというより、焦りだ。

 ああ、アルシエルに少しでもそんな隙を与えては!

 彼女を前にして、一瞬でも油断したことが命取りになりうるというのに!

 若さゆえの驕りは身を滅ぼす、それをこの、向こう見ずな少年に教える時間すらない! もどかしくはあれ、仮想空間の維持に神経を削り取られて、とてもではないが戦闘に参加できない。


「彼女に”サイレンシング”を行っていますから、10分程度稼げばアルシエルを時計職人から解放できます」

「サイレンシング?」


 遺伝子サイレンシングは遺伝子発現を破壊する遺伝子工学技術だ。


 そんなギミックを、アルシエルにいつ仕掛けたというのだろう、交戦している間を縫って仕込んでいたのだろうか?

 死角をついたか、思い返しても、ファティナにはどこも不審には見えなかったが……と思いかけて、遼生の親指にまだ血がこびりついているのが見えた。

 指に纏わりつく鮮血は、負傷だろうか? アルシエルの血ではない、彼のものだ。


 そしてようやく、一瞬だけ不自然であった場面に思い当たる。

 遼生がアルシエルの頚に細工をしていたと思えば、それらしき場面はあった。

 血流のあるアルシエルの大静脈へ向けて、彼は親指で自らの血液を捩じ込んでいたとしたら! 巡っている、彼の業はたった今の間も彼女の内奥を侵している。

 彼に余裕があるのは、一手先を進んでいるからだ。彼はアルシエルの時間を掌中におさめていた!


 まるで事が終わったかのように、彼は訥々と語る。

 犯人を逮捕する前に、ネタばらしをしてしまう愚かな刑事のように。


「時計職人がX染色体上に憑依するという事実に着目しました。時計職人がX染色体から彼女の肉体を支配しているのであれば、X染色体の主だった遺伝子を沈黙させればよいのです」


 沈黙を表すかのように、つ、と遼生は赤い色彩の絡んだ人差し指を唇に当てた。

 ファティナに視線を向けつつ、不意をつくように真横から飛んできたグングニルを拳で殴りつけて弾き返す。

 彼が何をしたのか、ファティナには分かる。

 彼の言うとおり、ただの時間稼ぎだ。

 反撃をせず力尽きる瞬間を待つだけ。

 巣に獲物を捕らえた蜘蛛がじっと、力尽きるのを待つかのように!


「RNA干渉ということですか」


 遺伝子配列はある面で数学的で、数学神としての経験に加えてそのスキルに応用が利きそうな分野ではあった。

 それでもなお、岡崎と組んで仕事をしてこなかったのは、ファティナにとってそこは、まさに不干渉の領域だと弁えていたからに他ならない。

 彼女が一度たりとも手を出そうとしなかった分野だ。

 彼はずば抜けた素養を以って、岡崎のテリトリーに切り込んでいる。


 遼生は一切合財を肯定するかのようにファティナに淡い笑顔を向けた。

 が、その瞳は少しも笑ってなどいない。


「あなたは……」


 神具もベクターもなく、生物階のみならず解階の女皇の遺伝子を支配するのか。

 生命を創造し、生体情報に介入し支配する……それは、神が神たる由縁の、根源的な能力でもあった。

 遺伝子発現を支配することは、生命を支配することだ。


 この子は将来、創造神となるのがいい。

 向いている。ファティナはそう思った。

 指先から生命を創出し無限の可能性を引き出してゆく。

 そんなことのできる創造神は、神話の中だけだと思っていた。

 創造神という位階が主神の位階の箔付けするためだけに定められたものではないことを、彼は証明しはじめるだろう。


「幸い、僕もあなたもX染色体を持ちません。外にはX染色体で溢れているけれど。仮想空間から外に出さなければ、逃げ場を失った時計職人はアルシエルの裡で力尽きるだけだと思います」


 彼は手話を模しているのか、両手で丸いものを包み込むようなしぐさでペタンと握り潰した。

 だからといって、握りこんでいるわけではない。

 彼の一つ一つの動作は落ち着いて優雅で、伊達だった。


「大丈夫。彼女の意識を連れ戻します」

「子供らしくない、込んだ手を使いますね。何故存分に撃ち合わないのかと思っていました」

「それも悪くはないですが、あなたの空間がもちませんよ」

 

 彼の発言の意図はファティナの仮想空間の強度を、彼が軽んじているということに他ならない。

 向きになっている場合ではないと分かっていても、ここでファティナの持ち前の負けん気が顔を覗かせる。

 ファティナの顔がいつもの柔和でひとあたりのいい表情を脱ぎ捨て、凛として引き締まる。


「そこまで言われると、試したくなりますね」


 いい表情をしますね、とてもお綺麗ですよ。

 と遼生は素直に心の中で数学神を賛美した。

 小ばかにしているのではなく、素直にそう思ったのだ。

 ストイックな彼女は、中途半端に褒められることを喜ばない、だから本音は心の中にとどめて、彼はこう返した。


「やめましょう。何の得にもなりませんし、僕は“重い”のです。そうは見えないかもしれませんが」


 ことごとく、小生意気な少年だ。

 が、彼のいわんとすることは、ファティナはより真に迫って思い知らされている。

 Eエネルギー、c(光速)、p(運動量)とおいたとき、質量が⊿m減るならば、


 E^2=m^2c^2+p^2c^2

 p=0、つまり運動量がゼロのときは、


 Eo=mc^2


 特殊相対性理論で有名な質量とエネルギーの等価性の関係式だ。

 この村に高校があれば、田舎村の高校生でも知っている。


 ⊿mの質量が消えるとき、光速の二乗も強いエネルギーに転化する。

 ほんの数グラムという量のウランから原子爆弾の大爆発が起こったように、つまり、彼はそれだけのポテンシャルを持っているというのだ。

 少年がおよそ50kgの体重を、自身の“見た目”と形容したとすると、ずっと重いという彼が持つエネルギーポテンシャルはどれほどだ?

 ファティナは、ある個体がエネルギーの強弱を質量と関連付けて形容する領分に未だ踏み込んだことはない。

 くどいようだが、見た目より、彼はずっと“重い”と言っただけだ、彼は自身の実力を強いと形容していない。エネルギー容量にすらも言及しない。

 ただ、重いと形容しただけだ。

 その真意を知った時、ファティナはようやく彼の恐ろしさを味わった。


 もし、彼が限りなく理想的に……たとえばINVISIBLEに迫るまではいかずとも、ノーボディやブラインド・ウォッチメイカーほど“重い”としたら……同じように“重い”であろうINVISIBLEが少しでも引き寄せられるのではないか?

 それは、 INVISIBLEの収束点をずらすことに他ならないのではないか。


 果たして特異点は、ずらせるのか?


 一瞬、そんな危険で途方もない直感が、ファティナの脳裏に電流のように走った。

 ただし一つ疑問がある。

 彼の肉体が限りなく重いとすると、エントロピーが低すぎる。

 外見と釣り合っていない。


 馬鹿げている。

 ファティナは、今のこの瞬間もアルシエルと渡り合う少年に期待を寄せかけた自身を諌めた。


 *



「生も死も、彼は知らなかったんですね」

「は?」


 こんなもったいぶった切り出し方をするときには、恒の話は長くなりそうだ。

織図はもう分かっている。ユージーン……、つまりINVISIBLEのことについて語るとき、ことさら彼の話は長い。


「いや、ますますわからん。まず落ち着け」


 織図は半ば疑っているという状況だが、よりいっそう恒は確信的なものの言い方をする。

 それは彼の中で、何かがきれいに繋がったからに他ならない。

 物事を断定して決め付けるのは恒の悪い癖だ。

 織図が暴走しそうになる彼の思考回路に一旦、歯止めをかける。


「あなたが“智神”だという人物は、俺にはユージーンさんにしか見えないからですよ。でも、見てください。御璽が違う」

「だから、それは“智神”だから当然だって。リジー・ノーチェスの御璽と同じだろ? お前がこいつをユージーンだと思うなら、残念だがお前の記憶違いだよ」


 御璽は幾代を経ようと伝統的に受け継がれ、昔から変わらないものだ。

 軍神の御璽も智神のそれもずっと変わらない。展戦輪が変化するということがないのだ。

 何を当然のことを、と織図は呆れた。しかし恒のまなざしはまだ力強さを残している。

 彼を論破できていない証拠だ。


「どちらが記憶違いでも構いません。俺もあなたも、どちらも正解なんです。ノーボディのように時間依存的な在りようではなく、観察者の数だけ異なる姿で現れる。そんなことができるのは彼が創世者だからです。俺たちは彼をINVISIBLEの器だと思っていました。でも、INVISIBLEだったんでしょう」


 織図は逆に恒が心配になる。何かが吹っ切れたようだが、吹っ切れすぎだ。

 INVISIBLEは意思なき創世者という代名詞もあるほどで、そもそもリアルに、喜怒哀楽などを表現しつつ高度な知性を持って、神を演じるということが不可能だということは誰にでもわかる。


 織図はユージーンが血迷い、いくつかの複雑な過程を経てINVISIBLEと成り代わった――正確には、不本意ながら何らかの事情のもとに、INVISIBLEの役割を果たしているのだと考えている。

 恒の発想は、彼を誰より慕った生徒としての立場から考えても無感傷かつ、過激にすぎる。


 彼は何度も味わった苦い反省のもとに、当事者でありながら客観的な視点を維持しようとする。


「よく考えろよ、INVISIBLEのエネルギーはあんなもんじゃないだろ……姿を維持できる創世者なんて存在せんぞ」


 恒は首を縦に振らなかった。


「わかってます、エントロピーが小さすぎますからね。ですがなにもユージーンさんがINVISIBLEの全てである必要はありません」


 INVISIBLEの自我が必ずしも統一されているという論拠はどこにもない。

 彼が最初からINVISIBLEの自我の一部だったとしたらと、恒は主張している。

 INVISIBLEのほんの一部がユージーンとして生きていた。


 そういう切り口でなければ、エントロピーが小さすぎて定常状態を維持してはいられなかっただろう。

 ユージーンは42程度の体温で、200年近くも定常状態を維持し続けた事実を忘れてはならない。小さな肉体の中に入っていろとINVISIBLEに強いても、とてつもなく窮屈だったことだろうから。

 織図は恒の言い分を聞くと、一旦口を閉じて、真正面から直視した。

 恒はこの瞬間、レイアをも疑いの中に巻き込んでいる。


「じゃあ、レイアもそうだ、って言うのか」

「可能性はあると思いますね」


 レイアは恒と織図の間で異なる姿をしているのかもしれないし同じなのかもしれないが、答え合わせができない。

 恒も神階も、絶対不及者や器という言葉に踊らされていたのは、実は彼らの隠れ蓑になっていた。

 固有名詞は固定概念を刷り込んでくる。


「……そこまで言うかよ。全部嘘だったってことか。ノーボディのように、奴らは神を演じていただけだったってことか」


 あくまでも恒の仮説をすべて認めれば、の話だが。


「演じていたのではなく、知らなかったと思いたいですね」


 というのは、たった一度だけ恒はユージーンを看破したことがあったが、その時確かに彼の意識があり、断じて創世者のそれではなかったといえるからだ。

 そして、レイアは恒が望めばいつでも、常に看破することができた。

 それも含めて偽りだったというのならもう救いようがないが、その可能性を棄てたくない。


「赤子であり少女でしたよ、彼女は」


 彼女が怯えて泣いた日の小さな手の温かさも、彼が教壇に立って児童を見つめたあの日々の眼差しも、偽りだったとは思いたくない。


 皐月や生徒たちと交わした何気ない言葉もだ。

 彼らは、彼らがINVISIBLEの自我の一部であるということを知らなかったのではないか。


「INVISIBLEが多重人格にでもなってるのか?」


 創世者に健やかな状態というのがあるのか分からないが。


「無理筋なんだよなあ……」


 織図は率直な感想を述べるにとどまった。これまで何度も覆されてきた経緯から、慎重になりもする。


「首刈峠……グラウンド・ゼロにINVISIBLEから最初の介入が入りましたよね。ユージーンさんがグラウンド・ゼロに向かったのは巧の為だと思ってましたが」


 あのときノーボディが時空間歪曲を妨げたが、ノーボディが来なければどうなっていたのだろうか。

 あの先に起こったであろう出来事を、見届けるべきだったのか否か。

 恒はノーボディに一本の電話をかけたことによって疑いようもなく、グラウンド・ゼロにいたINVISIBLEを妨害していたのかもしれない。


 底は底なしだ。


 疑えば疑うほど、真実だったのかすら分からなくなる。

 ユージーンはあの場所で何をしていたのだろうか。

 ……目を閉ざすと、森の中で亡霊のように立ち上がり、こちらをちらりと一瞥して、歩み去ってゆく幻影が見えた気がした。 

 そのときだ。


「!」

「な、何ですか!?」


 急に、織図と恒の体が前につんのめってよろけた。

 地震のように激しい床からの縦揺れ振動を感じたのだ。

 智神のエネルギー炉を制御するコンソールが閉じたことに応じて、特務省の巡航速度が落ちてきた。

 この部屋に窓はついていないが、特務省が地上に着地する準備を始めたのだろうとうかがえる。

 織図が閉じたコンソールを再起動させて座標を確認すると、風岳村まであと6000m。高度は1800mほどだ。


 このあたりで恒が特務省を脱出して地上に飛び降りれば、特務省より先に風岳村に着くことができるのだが、恒は急にレイアに、そしてグラウンド・ゼロへ近づくことが怖くなってきた。

 だからといって、逃げるつもりもない。恒ひとりの力では、村に戻ってくることすらできなかった。

 遼生の捨て身の行動に助けられて、ここまで辿り着いたのだ。

 今は安否もしれない義兄のためにも、レイアと会って真相を突き止めるしかない。

 それに、必ず、母親をはじめ村の人々が間違いなく避難していることを確かめなければ。

 なんとしても特務省より先に、村に降りなくては!


「やっべーな。村に着くぞ」


 恒が特務省に先んじてレイアを捜す時間はわずかだが、あった。

 特務省内部と風岳村では気圧が違うので、5分程度を費やして気圧調整を行ってから扉を開くことになるだろうと、織図は見積もっていた。


「織図さん。俺、もうこの辺りで飛び降りようと思うんですが」


 先ほど入ってきた通路の逆を通って戻れば、特務省の甲板には出られる。


「甲板から来たんだな? 上から出たら目立つって。先に降りるなら下っ腹からの脱出口を教えてやる。俺は後で行くから、そこから出るといい」


 織図は操作パネルをいじって避難経路を表示させた。

 彼は智神の死体を検めてから、ここを去りたいようだ。

 特務省が完全に停止しなければ炉の中に踏み込むことはできないので、どのみち着陸するまで織図は動かないつもりらしい。

 証拠を押さえておきたいという織図の気持ちも分かるのだが、恒は智神の死体に構っている場合ではないと思う。

 ユージーンとうり二つの姿をしているからといって、朽ちたエネルギーを垂れ流し続けるだけの抜け殻だ。

 死体は恒に、軽視できない重要な手がかりを与えてはくれたけれども。


「智神を調べるのはまたの機会にしたらどうですか? 特務省が着地する前に、一緒にここを出ましょう」


 そう言っても結局、織図はどうしても残ると言って残ってしまった。

 織図に示された排水溝に沿った古い配管設備の内部を恒はひとり進みながら、レイアとの些細なエピソードを思い起こした。


“ときどき、わたしは幽霊なのかなと思うことがあります”


 いつだったか、彼女がそんなことを言った。

 何故だと訊ねると、よくわからないと困った笑顔を向けた。それは一度きりだったが、恒には引っ掛かった。抽象的な心象の中にレイアは何かを隠しているようだったからだ。

 それとも、それは彼女から恒に与えられた分かりにくい暗示だったのだろうか。

 何度レイアの心層に触れても、彼女にすらも漠然としか把握できていないその言葉の意味だけは読み取る事はできなかったが、すぐに忘れて特に気にしなかった。

 誰でも一度ぐらい笑えない冗談をいう事もあるだろうと、胸騒ぎを押さえつけて。


 ずっと一緒にいたつもりが……無力なものだな、と恒は思う。


 悲しむことにすらも、恒は疲れてしまった。

 踏み固めてきた足場を失うことにも、だ。

 いつからか、見えない敵と戦っていた。

 姿のない幽霊を追いかけているうちに、最初から敵などいないかのように思えてくる。INVISIBLEはいとも簡単に大切な過去を奪い去ってゆく。


 黄昏のように色彩を奪ってゆく。

 最後は自分自身すら奪う存在なのだと恒は知っている。

 何度も修正するうち、ボーダーラインがどんどん削れてなくなってゆく気がする。

 虚像の輪郭を取り払いきったとき、浮かび上がるのが真実なのだろう。


 ならば消そう、徹底的に霞を取り去ってゆこう。

 底が抜ければ抜けるほど、最適解こたえに近づいているのだろうか。


 *


 遼生が予告した時間より早く、アルシエルは昏倒した。

 彼は戦略的によくアルシエルを動き回らせたので、さすがのアルシエルも心拍数が上がって血流量が増えたのだろう。

 ファティナが、大の字になった彼女の様子をうかがいながら近づいて背に両手を差し込み抱き上げ、揺さぶると、アルシエルの瞳に黒い輝きが戻ってきた。


 アルシエル自身の意識が覚醒しつつあることを示している。

 彼女の意識が完全に醒めきってしまう前にぜひとも確認しておきたい疑問が、ファティナにはひとつだけある。


「ところで……siRNAというからには」

「すみません、一過性です」


 彼は心底申し訳なさそうに小声で説明した。

 この発現は一過性だと、彼は言ったのだ。


「……でしょうね。私の仮想空間もいつまでもは維持できませんが」


 どれだけの時間、抑制していられるのか分からないとなると、のんびりとしていられない。

 期待をしていただけにファティナは、多少がっかりするとともに困惑した。

 彼女の眉が上がったり下がったりするので、遼生はすかさずフォローに入る。


「大丈夫です、何とかしますから」


 取り繕うように彼は一言付け加えたが、その“何とか”を当てにすべきではないというのがファティナの正直な感想だ。

 本当に何とかなると当てにする方が無責任だ。アルシエルを泳がさずに、ここでとどめをさしておいた方がよくないか? 相手は曲がりなりにもあの、アルシエルだ、まだ意識があるにしてもないにしても、彼女のプライドから同じ相手に二度も敗北を喫するとは思えない。

 そう、彼女が悩んでいたときだ。


「まったく。後先も考えない、めでたい奴らだよ」


 嘲るような軽い口調で、ファティナの空間内にいつの間にか荻号が侵入して遼生とファティナの間に割り込んでいた。

 神出鬼没とはいつものことで、彼は計ったように絶妙のタイミングで姿を現す神だ。

 多少は外から様子をうかがっていたのかもしれないが、とにかく彼はこのタイミングで来た。

 必要なときに、必要なことだけをする。

 実に合理的な登場だった。


「荻号様!? 何故ここに」


 ファティナがぎょっとしたように荻号の名を呼んだので、遼生も振り向く。

 ただし、彼はその荻号が荻号 正鵠だとは知らなかったため、荻号 要とそれほど変わらない容姿を持つ彼を見て、遼生の瞳の中に、ほんの僅かな敵愾心が見え隠れしていたことはいうまでもない。


 天才の名を欲しいままにし、陰陽を問わず一目置かれ敬われる最強神と、不世出の少年神。

 どんな場所にも、使徒階の底部にさえも、いつも荻号の名声が聞こえていた。

 だが、彼の噂を聞けば聞くほど、遼生は自身が荻号に劣ると思えなかった。

 不遜だというなら、どこが具体的に不遜なのか教えて欲しいぐらいだ。


 遼生は周囲からの賞賛が欲しいとも思わないし、むしろ注目されることを厭い、したがって認められたいという意欲も志もなかった。

 だが、荻号がまさに神階の牽引者たる人物であるというのなら、せめて遼生の実力ぐらいは見抜いていてしかるべきだ、という屈折した思いはある。

 目下のところ、荻号は遼生に興味を示してもいない。

 期待はずれ。いや、彼に対する期待が大きすぎたのか。


「どうしてもこうしても、お前はファティナだっけか? 呼んだんじゃないか。ヘクスカリキュレーション・フィールドから救難シグナルが出てただろ」


 ファティナはわざわざ荻号の口から事情を説明されるまですっかり忘れていたが、ΔδΔを戦闘モードに切り替えたとき、その異常事態行動をヘクスカリキュレーション・フィールドの知性が把握し、ファティナに最寄の神々から順に周囲に救援要請を発するようなプログラムを組み込んでいた。


 ファティナが忘れている間に、最も近くにあった神具、荻号 正鵠の所持する相転星に連絡がきたというわけだった。

 相転星は故障して殆どの機能を損失していたが、律儀にも最優先事項である救援要請だけは受け取った。

 要請を無視することもできたが、彼は気が向いて足を運んできた。

 どうやって仮想空間の中まで入ってくることができたのかは理解できない。

 ただ、彼はフラーレンを片手に束ねて握ってはいるが……。


「かしてみな、そいつを」


 荻号は遼生を押しのけ、アルシエルの額を鷲掴みにして押さえつけた。

 眩い光がファティナと遼生の目と鼻の先を過ぎ去っていったので、二柱が何事かと目をこらすと、彼の腕には、スティグマらしき緻密な光の紋様が浮かび上がっている。

 直視に耐えるまで目が慣れるには、結構な時間を要した。

 暗闇の中では、目がくらむほどの光だ。


 荻号がアルシエルを殺すものだと疑った遼生は、早まった行動を取らせないために彼の腕に触れてとどめると、触れたばかりのスティグマの一部分が指型に沿って消光した。

 スティグマが虫食い穴に、喰われてしまったかのようだ。


「……へーえ」


 荻号は青銅色の瞳を眇め、一見しては少年使徒のようにしか見えない遼生に、ここにきてようやく興味を持ったようだった。

 遅すぎるな、と遼生は荻号の評価を下げた。


「ここは任せていただけませんか」


 意思表示をして、退きはしない。

 そして、たとえ荻号といえど、彼女を横取りすることは許さない。


「抗体でも使うのか。別に、殺すつもりはないのだがね」

「!」


 荻号の一言が、遼生が行間に含んだ全てを物語っていた。

 まず、遼生は看破しているつもりだったが、同時に看破されていたということ。

 抗体の存在を知って、抗体がたった一つきりではないということすらも知っていた。

 空気が読めないようで読める神、それが荻号 正鵠だ。


「そうですね、今回は僭越ながら。僕が」


 遼生は荻号の目の前でほどよい緊張を覚えながら、手の内にアトモスフィアを凝縮させ、恥らうこともなくアルシエルの白くふわりとしたニットワンピースの胸元にざくりと手を差し入れ、乳房の付け根に触れて胸部から抗体を心臓に透過させて撃ち込み、血圧を跳ね上げた。

 ビクン、とアルシエルの上体が弓なりになって強くはぜる。

 力強く脈打ち血流に乗って、彼女の隅々を抗体が駆け巡っていった証拠だ。


「それと……あなたのソレも抑えておいた方がよいですか? あなたほどの御方がINVISIBLEに支配されるなど、あなたにも僕にも不本意ですので」


 遼生は、先ほどスティグマを喰った方の荻号の腕を指差した。

 温和な語調だが、敵対心を隠していない。

 他の誰の前でも見せない面を、荻号の前だからこそさらけ出しているというべきだ。

 遼生はそう言うなり荻号の答えを待たずフレームトラップを仕掛け、動作を凍結させた。

 手ごたえを感じても、得意顔はしない。荻号は驚愕したように瞳を見開いたなり、口を含め身体の自由がきかない。

 遼生は荻号の右腕のスティグマを、碧いアトモスフィアの宿った両手で鎮めてゆく。

 黄金と青銀の鬩ぎあいは、視覚的にも斬新だった。


 その場の空気が緊張に凍りついた。


「もう少し、我慢を」


 彼の抗体を潤沢に含んだアトモスフィアは腕のスティグマを食い千切ってゆくようで、実際にバリバリと食いちぎっていた。

 彼の手が触れたあとには、芝刈り機のように荻号の右腕のそれは跡形もなく消えてしまっている。

 つかの間の出来事だった。

 スティグマは、剥がれるものなのだとこのときファティナは初めて知った。


「そちらにもありますね」


 遼生はもう、冷ややかなまなざしで荻号の左腕のスティグマに目をつけている。

 中途半端では意味がない。

 どうせなら、根こそぎだ。


「やめとけ、無駄なことだ」


 荻号は諭すようにスティグマを消す事の愚かしさを強調したが、遼生は頑張る。


「でも消えました」

「どうかね」


 荻号が顎をしゃくると、アルシエルの腕には、先ほどまでなかったスティグマがそっくりそのまま貼り付いていた。

 これでは、右から左に移動しただけだ。


「同時に処理するまでです」

「レイアの背に戻るぜ、それもそれでまずいだろ?」


 もぐら叩きだと言いたげだ。

 あるいは、もぐら叩きより悪い事が起こるのだと、荻号は諭していた。

 そこまで危ぶむのは何故なのかと、遼生が荻号の心層に目を凝らしたとき、彼はある重大な違和感に気付いた。


 ん? ……違うぞ。


 “それ”はレイア・メーテールではない。

 遼生はレイアの顔を知らないが、MRIで鮮明に看破した恒の記憶と、彼のそれが一致しない。

 MRIでなく、マインドブレイクであれば気付かなかった、ほんの些細な、しかし決定的な事柄だ。


 荻号の記憶力が悪いのか、それとも恒が微妙に彼女を美化しているのか。

 どちらとも言いがたいが、誤差などでは済まされないほど、荻号がレイアだと言いながら思い浮かべている少女の顔が違う。

 まさかレイアに会った事がないのか? 

 という推論も成り立たず、つい10分まで一緒にいたときている。

 ちょっと失念したというレベルではない。


「ん……その子がレイアですか? そうではないと思うのですが」


 遼生はついでに、手がかりを求めて、ついでにファティナにも目を凝らしてみた。

 彼女はレイア・メーテールに2ヶ月前に会っている……。

 彼女はレイアに、熱心に数学を教えていたのだそうだ。

 これもまた違った。恒の記憶とも、荻号の記憶とも、 ファティナが覚えているレイアの顔が違う。これまたまったくの別神としか言えないほどに、何もかもすっかり違う。

 一体彼らは、レイアの何を見ていたんだ?

 この記憶違いが、ただの偶然とは思えない。


「は?」


 遼生の反応に、もっと納得がいかないのが荻号だ。


「そ、そういえば、荻号様はレイア・メーテールと一緒だったのではないのですか」


 なにやら揉めそうな空気に、ファティナが体ごと割り込んだ。

 アルシエル、荻号、遼生……この顔合わせは危険すぎる。

 仮想空間の中だからいいようなものの、ちょっとした小競り合いだけで地域一帯が吹き飛ぶ。最終兵器が一所に大集合しているようなものだ。

 むろん、まだ避難していない村民もいる。

 ファティナが仮想空間を拓く直前、村に近づくバスの音が聞こえていた。

 村を追われる憐れな村民たちが、ひとりでも犠牲になるようなことがあってはならない。


「レイアは置いてきたよ、連れてくるわけにもいかんだろう」

「一柱で置いてきたのですか?」


 荻号は、子供の件に関して姑に責め咎められた嫁のように肩をすくめた。

 ひとりで置いてきて、何がまずいのかわからないという態度だ。


「おいおい、留守番ぐらいできるだろ」

「特務省が彼女を追って生物階に入ったのです。ひとりでは危険です……!」


 遼生は彼らの知らない情報を提供した。

 彼の計算だと、あと30分以内に特務省はこの村に到着してしまう。

 恒も一緒にやってくるだろうが、恒が特務省と渡り合って何か劇的に状況を変えているとも、巡航速度を落としているとも思えない。


「ええっ! まさか特務省が生物階に……!」


 ファティナは慌てた。

 織図から預かったレイア・メーテールのバイタルコードを持っているので、彼女を拘束しようとする特務省と同じ穴のなんとかだと心得てはいるが、何も特務省に彼女を好き勝手されるのを、ただ指をくわえて見ているわけにもいかない。

 彼女を特務省に奪われてしまったら、大切なことが何も分からなくなる。


 彼女の知りうる事を、彼女の口から聞き出さなければ。

 特務省職員だからといって、織図が何とかしてくれるだろうと期待するわけにもいかない。

 ……というか、荻号は彼女と一緒にいたであろう間に、少しでも彼女の話を聞いてやったのだろうか? 彼はうまく、訊き出せただろうか。


「何で特務省のやつらがわざわざ。ま、でも心配はいらん」


 荻号がそう言うのは、はったりではなかった。


「へえ……。面白い“読み物”ですね」


 遼生はそう言って、また何気ない指摘で荻号を挑発した。


「だろ」


 荻号は遼生の挑発を受け流しただけだ。

 子供の相手はもうたくさんだ。

 話についていけないファティナが口を挟んだ。


「“読み物”とは、何のことです?」

「ときどき、よく描けた挿絵がある」

「?」

「………ぐ。……がっ」


 三柱に見守られながら、その場に丸くなって蹲っていたアルシエルが目を覚ましたらしく、苦しげに呻いた。

 荻号と遼生は注意深く彼女を見守りブラインド・ウォッチメイカーの影響を見極めようとしたが、意識はブラインド・ウォッチメイカーからアルシエル自身の手に戻されたようだった。


「おはよう。気分はどうだ」

 

 荻号が医者らしく簡単に診察をするが、素人でも見るからに、気分はすぐれないのだろうなと遼生にもわかる。

 顔面は相変わらず蒼白で、今にもえずきそうだ。


 4つもあるX染色体の発現を最低限の機能に抑え込んで破壊しているのだ、痛みがないとはいっても、副作用がないわけもないか。

 と遼生はアルシエルに悪びれた。強烈な諸症状が、彼女の体にまるごと降りかかっている。

 アルシエルが豹変する様子がないので、ファティナは彼女の為だけに維持していた仮想空間を解除した。

 ファティナは首すじを廻し、もみしだいて安堵のため息をつく。

 仮想空間の開闢と維持は疲労する、特に首筋にくるものだ。

 人工的なラインの刻まれた漆黒の景色が、風岳村のそれにすっと置き換わってゆく。


 石沢 朱音は先ほどと同じ体勢で、無事に木陰で眠っていた。

 荻号が朱音を見つけて背に負い、そのまま背を向け、アルシエル、ファティナ、遼生を置いて村の中央に続く道なりに歩き去ろうとする。


「待ってください、どこに?!」

「バス停にな。もうすぐ発車時刻だ、急がんと」


 そうだ、朱音の母親はまだ村を出ずに彼女を待っているはずだった。

 そして最終バスはもうすぐ発車する。荻号は朱音の母親に、朱音を返すつもりだった。もうこうなった以上、彼女を巻き込むことはできない。

 一度ブラインド・ウォッチメイカーに乗り捨てられた彼女を神階に送ること、つまりブラインド・ウォッチメイカーが神階に侵入するリスクはあるが、封術もあるし万一のときは比企が何とかするだろう。

 アルシエルとレイアの両方を同時に傍に置く事だけでも、手に余りそうなことだ。


「荻号様、預かっていただきたいものが」

「預かりものはもうたくさんだよ」

「大事な情報です」

「情報ってのは、漏れてしまったあとでは価値がないんじゃないか?」


 朱音を負ったまま、彼はちらりと遼生を見遣った。

 これほど侵襲度の低いMRIをもってしても、荻号は遼生の看破の痕跡に勘付いていた。

 ファティナは遼生と荻号の顔を交互に見遣って、バイタルコードが遼生に漏れたということに気づいた。

 もっとも、知ったところで遼生がバイタルコードを使うこともできないのだが。


「何て入りの軽い看破をしやがるんだ。共鳴法でもやってるのか?」


 荻号はMRIを知っているようだった。

 その風体からは博識であるのが信じられないが、知識量はさすがに恐れ入る。

 彼がそう言うということは、MRIのアタックを知りながら気付かぬ振りをしていたということだ。


「ええ」


 遼生は彼が荻号 要ではないと見通したが、それと同時に、荻号も遼生の素性を看破している。


「八雲 遼生か。つい何日か前まで、半死半生だっただろうに」


 怪物なみの回復力だな。

 と、まさに怪物そのものである荻号は付け加えた。


「よい弟に恵まれたもので」

「張り切ってすぐ、眠ってしまわんようにな。義弟も悲しむだろう」


 皮肉がきいていた。遼生も負けていない。


「少なくとも、あなたより先に寝るつもりはありません」

「へえ……いい心がけだ」


 荻号は愉しそうに息を漏らして、朱音を送り届けたら一旦戻ると言い残し去っていった。


「そういえば、一つお尋ねしてもよろしいですか」


 去りゆく荻号の背と、彼の背で揺れる朱音を見送りながら、遼生はファティナに疑問を投げかけた。


「ええ」

「レイア・メーテールという名の女神は、まさか三柱もいないですよね?」


 何気ない言葉の後で、ファティナは総毛だった。

 彼女は同時に、ファティナの目の前にするりと降りてきた、空飛ぶ直径30cmほどの小さな銀の円盤を見つけたからだ。

 これは、監視衛星の子機で、生物階降下した陽階神を追尾して監視している小型カメラだ。

 光学迷彩に塗装されているので、空を見上げても普段は見えないものだが、はっきりと姿を見せるときには神階が何がしかの連絡を取りたがっている。


「……陽階の追尾ディスクが! いつから!」


 神階の門の許可を得ずに来たので追尾されていないと油断していたが、見つかってぴったり尾行されていたようだ。ファティナは腹を決め、身体罰で落とし前をつける覚悟だ。


「いえ、どうやら電報みたいですよ」


 遼生がそういうので、彼女は肩の力を少し抜いて、追尾ディスクの側面の緑色のランプが点滅していることに気付いた。

 手を伸ばしてディスクを取り、円盤の蓋を開けて液晶画面に表示される電報をチェックした。彼女は読み終えると、きっ、と口を真一文字に結んだ。


「陰陽階緊急招集会議が開会されるのだそうです。……あなたにも令状が届いていますよ」

「僕に?」


 何だろう。

 彼は胸騒ぎがした。

 メッセージを開封して見ると、直ちに神階に戻れという比企の予想外の令状に加えて、他神からの追伸が添えられていた。

 かなり差し迫った様子の殴り書きで、陰階 岡崎 宿耀……遺伝子神の名が記されている。

 遼生はその名を見て、メッセージの液晶画面をファティナから見えない死角に傾けた。

 岡崎と遼生の間には、あまりにも多くの秘密がある。


(ただちに神階に戻り、わたしのもとに来なさい 岡崎 宿耀)


 岡崎からの短い脅迫文だった。

 岡崎のもとに行くとどうなるか……。

 

 岡崎はやる。

 廃棄されるべき実験体として、遼生を扱うだろう。

 岡崎は遼生の全てを知っている、抵抗は不可能だ。

 遼生の全身の筋肉を遠隔から一瞬にして破壊する手段、安全弁を手にしている。


 のこのこ顔を出して妙な真似をすれば、出会いがしらに殺されることは目に見えていた。

 だからといって、遼生の遺伝情報を掌握する岡崎から逃れ続けることも、間違って岡崎を傷つけることもできはしない。


「わかりました、可及的すみやかに戻りますと伝えてください」


 ディスクは遼生のメッセージを録音して、どこへともなく飛んでいった。

 死ぬことは怖くない。だが、岡崎に殺されるのだけは別だ。


「アルシエル、立てますか?」


 ファティナはアルシエルに手を差し出したが、アルシエルはその手を握ろうとしない。


「夢をみていたのか……」


 アルシエルはうわ言のように吐き出した。

 彼女は頭を左右にふらつかせながら、いつもの鋭気もなく夢うつつのようだ。


「きっと、それは夢ではないと思いますよ」


 アルシエルのために散々な目に遭ったファティナだが、敢えてアルシエルの身に何が起こっていたかを説明する気力もなかった。

 恨み言を言ったとしても、覚えていないとアルシエルは言うだろう。


「この夢を整理したら、時計職人が何をしているのか分かった」


 ファティナの疲労が吹き飛んだ。

 


 アルシエルはいつの間にか姿を消して、なかなか戻ってこなかった。

 トイレかな……? とも思ったが、トイレの小窓の電気は消灯していた。

 それを確認した荻号いわく、風岳村のど真ん中で、複数の神々が激しく争っているのかもしれないという。

 そこにアルシエルも乱入していったのかもしれないと。

 わざわざ言われなくても、レイアもそうだろうなと思った。

 争っているという一柱は面識があってアトモスフィアの質感も知っているのでファティナだろうと思う。


 荻号に、少なくとも一柱はファティナだと教えると、そんなのは分かっていると、それほど厳しくではないが素気無く一蹴された。

 文型神の ファティナが、たとえそれが小競り合いであっても戦闘に参加することの裏には深い事情がありそうだと荻号もよく心得ていたようだ。

 アルシエルにあまり暴れられても困るので少し様子を見に行くといって、家主は来訪者に留守番という仕事を残して消えてしまった。

 ここで好きにくつろいでいるといいし、部屋にあるものは何をつかっても構わない。ただし……


“この部屋の外には出るな”


 それが荻号のたった一つの言いつけだった。


“もっとも、出られるものなら?”


 レイアは怖気づいて、一気に脱走する気力をそがれた。

 荻号と会ったのは今回が初めてだが、彼の話は常々恒から聞いている。

 恒は荻号を頼りにしているようだった……が、荻号が敵に回ったときの脅威は想像を絶するものがあるという。

 逃げるつもりもそのあてもないが、ここでおとなしくしていたほうがいい。

 小心な彼女はそうすることにした。


 この家の二階は空間的に独立しているということだ。

 にわかには信じられないが、特にキッチンとダイニングを兼ねる20畳ほどのこの部屋はかなり完璧な作りになっているシェルターだというのだ。

 荻号に連れてこられたのはこの、3.5次元ともいえる不思議な場所だ。


 ……そんな空間をわざわざ創ったのは、地上に住まうと決めた荻号が神階や解階からの干渉に備えたのかもしれないし、単純に趣味によるものなのかもしれない。

 だが、どこからくる自信なのか、地上のどこが壊れてもここだけは安全だと荻号は言い切っていた。

 追跡転移対策もしてあると……そのわりには、自称シェルターとそれ以外の部屋はガラス戸によってすらも仕切られていない。

 頑丈な壁もなく、開放されている。

 レイアは暇つぶしと調査を兼ねて、机の上にあるティースプーンをとなりの和室に軽く放ってみた。

 彼女の放ったスプーンは緩やかな放物線を描いて敷居の上を越えると、突然消失した。

 いつまで待っても、スプーンは落下音を立てないどころか、どこに目を配っても投げ入れたはずのスプーンが隣の部屋に見当たらない。

 完全なる消失。手品を見ているようだった。

 スプーンがどこに行ったのかすらわからないということは、下手にここから出ようとするとスプーンと同じ目をみる。

 彼女は実験によって賢く学んだが、荻号が戻ってこなければ、どうしたものだろうかとも考えた。

 ここに監禁されているのと相違ない状況になってしまった。


 いつもいつも、監禁されてばかり。

 少しでも自由を獲たと思ったら、すぐに檻の中だ。

 自由にしていい身の上ではないと理解しているが、たまには自分の意思でここにいるのだと実感したい。

 どこまで逃げても柵が遠くに霞んで見える牧場の中をさまよっている、そんな羊の気分だ。

 

 外の様子はどうなっているのかしらと、気分転換を兼ねてテレビをつける。

 公共放送だけが辛うじて放送されていたが、録画映像で、避難方法と避難経路を説明する災害用になっている。

 民放各局のチャンネルは砂嵐だ。


 特に情報もなかったので彼女はテレビを消し、冷蔵庫の中を覗いてみると、何本かの缶ジュースが入っていた。

 それと、きちんと整頓されたタッパーの中には食べ物ともなんともつかない茶色い何がしかが入っている。

 その薬のような薬草のような強烈なにおいから、手をつけようという気にはなれなかった。

 冷凍庫には冷凍食品や食材が少しだが入っている。

 レイアや神々に限っては何も食べなくても飢えをしのげるので、水さえあれば生きていける。

 これらの食材には手をつけなくてもいい。

 最低限水さえ出れば、だが。


 水、水……。

 ところで水は出るのだろうか? レイアは不安になって、おそるおそるキッチンのレバー式水栓を倒してみた。

 不思議なことに、水は出る。

 手の込んだことをしているもので、荻号は水道だけは確保しているようだ。

 水栓を左に倒すとお湯が出た。顔を洗って、さっぱりしよう。


 濡れた顔をハンカチで拭い、正面に向き直る。目の前には置き鏡があった。

 いつも……どうしてだろうと思うことがある。

 鏡を指の腹で拭う。

 同じ疑問。鏡に顔を映して、思わぬタイミングでまた疑問に突き合わせられる。

 彼女は結局、そっと鏡を伏せた。


“皆はわたしのどんな顔を見ているのでしょう”


 顔を洗うたびに顔の感触を確かめる。

 髪の毛がはらりと手に触れる。わたしにはきっと、目も、鼻も、口もついている。

 手も、肩も、脚も見える。なのに見えない。

 レイアの存在の一切が、鏡を通すとレイアには見えない。顔がない。


 この世界から認められていないのだ。

 それに気づいたのは、最近のことではない。

 幸か不幸か、比企に監禁されていた檻の中では鏡を見なくて済んだ。

 しかし、ガラスに映りこむはずのレイアの姿がどの角度からも見えないことを、疑問には思っていた。

 レイアの背にスティグマが宿ったときから……彼女は世界に住んでいない。


 現存在(dasein)ではないのだ。

 彼女がいつも感じる疎外感の正体は、皆と同じように生きているという大前提の反覆だ。

 生きてすらいないという不安、他者との関わりの中でのみ生きていられるという心細さと、常に戦ってきた。

 だから……透明な幽霊とは、わたしのことだ。


 不思議なほど今は心穏やかだった。気持ちはとっくに整理がついて、落ち着いている。

 それは、INVISIBLEの声を聞いたからだろうか。INVISIBLEを喚ぶには悔いが残る。


“……グラウンド・ゼロでなければだめなの? あなたにとってのグラウンド・ゼロとは、ただの座標なのでしょう? 地上を意味してはいないのでしょう?”

 

 皆が、振り回されている。もうたくさんだ。

 そしていつものように、答えはない。レイアの尋ねたい肝心な事に、彼は応えない。


“みんな、逃れたら……いえ、逃れていなくても”


 願わくば地上から誰もいなくなっていることが望ましい……でも、やろう。

 レイアは固く心に決めた。


 難しい。

 でも不可能ではない。

 後先を考えて出し惜しみをしなければ、わたしにだってそれぐらいの力はある。

 わたしは死なない、疲れも力尽きることも知らない、無尽蔵の力を持っている。

 だって、生きていないから。


“ごめんなさい、荻号さま”


 試してみる価値はあると思った。

 彼女がだめでも、荻号なら元に戻してくれるだけの余力がある。


 INVISIBLEがありとあらゆる手段を用いてレイアに収束までの残り時間を知らしめたのは、手を尽くして備える為だと信じている。

 人々を避難させレイアの心を鎮め、そして恒の手助けを借りるべく。

 INVISIBLEは破壊を望んでいるわけではない。妨害などされはしない。


 INVISIBLEの推定収束日まで、あと185日。


 彼は、世界と隔てられた……とてつもなく遠く、そしてこのうえなく近い場所から、こちら側を見ているはずだ。

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