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【完結済】INVISIBLE-インヴィジブル-(EP1)  作者: 高山 理図
第三節  A story about nature, science, civilization, and humankind
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終話 The wavefunction converges at Ground 0

 収束予定時間のほんの数分前。


 セウルの呼びかけで瞑目した人々を前に、陽階極陽 比企 寛三郎は、陰階3位、死神 織図継嗣と陽階7位 数学神 ファティナ・マセマティカから報告を受け取った。

 それが、彼の最後の仕事となるかもしれない。


「注文通り、バイタル・ロックかけてきたわ」


 いつもの死神の黒衣を纏い、颯爽と現れた織図は、どこか晴れやかな表情をしていた。


「ええ、あとはこの場所だけです」


 織図と共にいつもの桃色のボーダーマフラーを首に巻きつけたファティナも、おっとりと微笑む。

 バイタルロックをかけるなら少しでも長くもつように、出来る限り直前がよいのだ。

 織図はファティナと共に使徒階全層を回り人々や神々、使徒たちにバイタルロックをかけてきた。

 全員だ。誰一人、とりこぼしなく。

 DA-Indicatorも16 Von Louisも、あまりのデータの処理量に調子が悪くなったほどだ。

 人を生かす仕事は死神の仕事ではないのだが、最後にこういう仕事は悪くはないかもしれない、と織図は清々しい気分であった。

 今となっては仕事あがりの恒例の一服ができないのだけが、残念ではある。


 仮想死後世界EVEの時間は止めてきた。

 データを強固に保存するプロトコルによって、正常に一時停止をかけるそのプロセスには、セウルの協力が大いに役立った。

 メファイストフェレスは見晴しのよい丘に腰をおろし、EVEにかかる美しい虹を見上げながら彼女の時を止めた。

 「またこの世界で会えることを信じているわ、ごきげんよう」と言い残して。

 解階の廃女皇、アルシエル・ジャンセンは織図の執務室に入り浸って、彼の使徒たちと共にゆったりと紅茶を嗜んでいる頃だろう。

 石沢 朱音は彼女の家族と共にいる。枢軸神はみな、この神階中枢部の大会議室に集まっている。

 思い思いの、穏やかな時間を過ごしている。

 そのほかの陰階神、陽階神位神たちは使徒階に総員待機し、人々の祈りと共にある。

 万事、備えた。


「二柱ともご苦労だった」


 比企は織図とファティナを、心より労う。

 比企もまた、元々死人のように白すぎる顔が、緊張のためにいっそう青ざめていたが、どこか吹っ切れたようなよい表情をしていた。

 傍には極陽下第一使徒、響 寧々が変わらず御用ききのために控えている。

 あるべきものが、あるべき場所にあり、陰階神 今上 桜花(通名:アリス・マクフィールド)の神具によって展開された精神安定効果のある気体を吸い込み鎮静された人々は、カウントが振り切れると同時に、眠りにつくように施されている。

 おかげで最も懸念された、人々の混乱とパニックも今はなく。穏やかな時間が流れていた。


 ここにいるのは皆、今日という日まで生き延びてきた戦友だ。

 人種や生物種をこえて、集った仲間だ。


「んじゃ、最後は俺がやりますか!」


 景気よく、織図は愉しそうに声を弾ませる。

 織図は最後の仕上げに、神階中枢部、会議室にいた比企ら神々、科学者たち、そして使徒たち全員を手際よくDA-Indicatorに捉えると、16 Von Louisを介しバイタルロックを施す。

 バイタルコードを支配することによって死神の指定した人物を不死化させるバイタルロックだが、それもたった三日で切れる。

 ファティナには分かっていた。

 もしかすると、これは無駄な足掻きなのかもしれない、ということも。


 神階と人々の歴史がここで終わりであれ、始まるのであれ――。

 もし時間が終わるのなら……それでも、備えておけば何かの足しにはなるだろう。

 何か、未来に繋がると言うのなら、僅かにも存在する希望を捨ててはならない。

 だって、彼女は誇り高き陽階神であったから。

 人々の為に生き、人々の為に尽くし本懐を遂げるのだ。一体何の不満があろう。


「人と神が一体となって備え、この時を迎えることができました。それは陽階神としての誉れにございます」


 織図が神具を閉じるのをじっと見つめるファティナの横顔は、歓喜に満ちたものだった。


「うむ、己もだ」


 比企も異論はないようだった。

 INVISIBLEに備え、700余年という歳月を費やしてきた彼の生涯のすべては、今日という日のためにあるようなものだった。

 Ultmiate No-body、Blind Watchmaker、そしてINVISIBLE……三体の創世者に翻弄されてきた現世界を、人々を、比企はただ庇護し自由を勝ち取るためだけに戦ってきた。

 最後に笑うのは、誰か。

 少なくとも、No-body、Blind Watchmakerの今後の干渉は、スティグマがグラウンド・ゼロに固定された時点で完全に無意味となった。


 収束の瞬間に何かが起きるのかもしれないが、グラウンド・ゼロの地点にプライマリの神はいない。

 INVISIBLEが事前にレイアを上位次元に匿ったからだ。

 いまこそ降臨する創世者INVISIBLE、だがもはや彼と戦わなくてもよい。

 その瞬間を、別次元で回避し、無縁のものとすればよいのだ。

 消極的解決法ではある、だがセウルを一時的に切離空間の創世者として、完全に因果を切り離してしまうことが成功した今。

 三体の創世者の手のうちから、神々と人々は自由をかちえたといえる。

 比企は極陽として、その措置を是とするほかになかった。

 彼は手にした懐柔扇のロックを外し、起動状態にしていた。

 何があっても、備えだけは怠らない。


「これでよかったんだ。ただなあ……」


 うん、と織図は納得のゆかないように顔をあげる。

 会議室天井に浮かぶ神階中枢部のモニタに大きく映じ、比企が音声を切った自動カウントダウンは、まだ静かに続いていた。

 瞳を閉じ、彼を信じる人々とともに静かにうなだれるセウル。

 セウルを囲み、互いに身を寄せ合い肩を組み集まる。眠るように息を止める。


 3秒


「ただ、何だ」


 比企が静かに応えた。

 

 2秒


「いいやつばっか、逝ってしまったよ」

「そうだな」


 1秒


「かえって、こねーかな」


 ……0。



 *



【あなたの中で、少し休ませてもらうよ】


 モラトリアムの終わりを告げた。


 レイアとINVISIBLEの主観時間が、セウルと皐月がユージーンのメモからはじき出した、X-デイと名付けられた収束予定日へと到達したのだ。

 その日の訪れは、彼らの計算と相違なかった。

 レイアに下位次元のスティグマを重ね、恒の消滅と引き換えに発動した絶対不及者抗体による制御によって安定化され、INVISIBLEがレイアの意識の中に収束する。

 レイアは意識のなくなる直前まで、INVISIBLEへ繰り返し願った。


”私は消えてもいい、ただ……皆のことは、絶対に助けてください。あなたの呼びかけが、嘘ではなかったと言ってください”


 焦がれるほどに願ううち、何故か恒がすぐ傍にいるような気がしてくる。

 見えないが、自分を呼んでいるような。


”恒さん――”


 彼は果たして、無事に逃げてくれただろうか?

 そうでなければ、レイアがここにいる意味がない。彼だけでも、助かってほしい。





”……?” 



 いつまで待っても、そこで途絶するのだと思っていた彼女の意識は途切れなかった。

 熱くも寒くも、痛くもかゆくもなかった。

 レイアの消滅した筈の四肢の感覚が蘇り、しいて言うなら胸のあたりがほの温かくなるのを感じる。

 彼女は固い床の上に伏していることに気付く。

 次第に鮮明になる彼女の意識。彼女の肩と意識を注意深くゆさぶる、誰かの手。


”だれ……?”


「ありがとう、レイア・メーテール」


 優しく澄んだ声に、怯えるレイアの警戒心を和らぐ。

 彼の声はレイアの鼓膜にクリアに響いて聞こえる、この場に相応しくもない、あたかも肉声のように。

 同時にそれは、レイアの聴覚が再生し、大気の存在を意味していた。

 ここは宇宙空間なので音声が聞こえる筈はないのだが、レイアは確かに己の神体が再生していることを確認した。


 吸い込まれそうなほど黒い硬質の床に寝ころんだまま、小さな両手を目の前にかざし、レイアはその手を閉じては開く。

 そのまま顔を洗うように顔面をまさぐり、彼女の顔の凹凸を確認する。

 ウェーブのかかった金髪も、華奢な神体も元通りのように思える。何もかもが、元通りに……。


”誰ですか?”


 レイアは身をもたげ、目の前の人物に問う。

 闇の中に浮かぶ、白衣を身体ごとすっぽりかぶったいでたちの、男とも女ともつかない、声色からは辛うじて青年と思しき、人物の足元の部分が見えていた。

 フードの下に隠された顔は、レイアからはよく見えないが。

 誰だろう、とレイアが息を殺し肩をこわばらせていると。


「たくさん休ませてもらった。ありがとう」


 レイアという小さないれものの中で、彼は十分に休んだと礼を言うのだ。

 蓋を開けてみるまで、波動関数が収束するまで創世者の意図は分からない。


”……これで終わり?”


 レイアが混乱する間も、一秒、また一秒と時は過ぎ去ってゆく。

 時限爆弾のカウントダウンが振り切れてしまった後も、静寂が続いているかのような恐怖。

 レイアがその場から立ち上がった頃には、男が血の気のない顔に薄く笑いを浮かべているのだと分かった。

 近づいた方がいいのか、距離を保った方がいいのかわからず、レイアはその場でもじもじと尻込みしてしまう。


「もう終わったよ」


 彼は休息のためにレイアという存在に宿り、彼にとっての数千万年ほどの主観時間を費やし、引き裂かれ傷ついた自我を少しずつ修復し、再構築してしてきたのだという。

 レイアの生体時間は停止していて一瞬にしか感じなかったので、何が起こったのか、それは本当なのかと不思議で仕方がない。


”よかった……身体とこころ、なおったんですね”

「助かったよ、あなたのおかげだ」


 彼はレイアに礼を述べた。

 INVISIBLEはこんな声だったんだ……と、レイアは少しばかり嬉しくなる。

 これまでノイズのような悲痛な声しか聞こえなかったから。

 意思疎通が図れそうで安堵する。

 なにより、今の彼はINVISIBLE(不可視の創世者)ではない。

 レイアの目というレンズには、はっきりとその存在が映じている。

 存在が可視であるというのが、最大の安心につながる。


”みんなは、どうなりましたか?”


 レイアは碧色の瞳をぱちくりとさせ、彼の言葉の裏をさぐるように、外の世界の様子をおそるおそる思念で尋ねる。

 彼はレイアに向けて軽く、促すような手を振り上げるような動作をして


「声、出してごらん」


 そう言われても、彼女は育てられた環境のせいで以前は殆ど声が出なかったはずだ。

 振り絞るようにしてやっとかすれ声が出るぐらいだった……が、言われた通りにやってみると


「み、みんなは、どうなりましたか…………! …………!?」


 淀みなく喉の奥から出てきた言葉に、彼女は驚く。

 そうか、彼が喋れるようにしてくれたのか、という考えには及ばない。

 ますますもって、夢の中の出来事と錯覚されてならなかった。

 死んだ後も、夢を見るのかな? ずっとこうして夢をみるのだろうかと彼女は漠然と考える。

 なら、死ぬのもあまり怖くないが、ただ……


 ただ、真実が分からないことだけが怖い。


「彼らは安全な場所にいる、心配はいらない」

「みんな、生きていますか?」


 それだけは、夢であってほしくない。

 レイアは両手で胸をおさえ、一生懸命に祈願していると


「もちろん。彼もだ、わたしたち三人は、同じ座標にいるのだから」


 そう言って彼は片手を伸ばし、上から下へと空間を撫でる。

 彼の描いた軌跡は眩く白い炎を描き、空間に人型を映じた。

 その姿とアトモスフィアに、レイアには憶えがある。

 何度生まれ変わったとしても、彼のことだけは忘れようがない。


 これは夢ではないのか。

 ……レイアはとっくに死んでいて、死後の世界で恒と邂逅しているのか。

 錯覚してしまうほどの歓喜と胸の高鳴りに、思わず声が漏れる。


「……っ、恒さんっ!」

「レイア!? ……い、生きてたのか!」


 INVISIBLEに招かれ、立ち現れたのは藤堂 恒だった。

 彼はレイアと同じように、その光景を非現実のものだと疑っているようだった。

 HEIDPAのビームラインがグラウンド・ゼロに到達し、その時が訪れた瞬間、恒は確実に死んだのだ。

 あの瞬間の後を、生き延びることができたとは思えない。


「よかった……」


 レイアと恒は互いに無事を喜び抱き合った。

 抱き合う感触は生身だ、互いにそうと分かる。

 恒は疑問を一つ一つ解消してゆくため、彼らを少し離れた場所から見守る青年……おそらくはINVISIBLEを振り返った。

 彼は何かを肯定するように軽く頷く。


「あなたが、INVISIBLEでしょうか」


 恒は一語一語噛みしめながら青年に問う。

 神々が名付けたINVISIBLEという名を確認するのも違和感があるが、それ以外にしっくりくる言葉がないのでそう訊くしかない。

 そう尋ねても、分かってくれるだろうと思う。

 フードを被った青年の声の質感は、何となくだがセウルやユージーンに似ているような気がする。

 が、恒の意識の中に意識体で居候していた筈のセウルは、反応してくれない。

 さしあたり、言葉は分かるし話はできそうな相手だと分かれば、恒は腹をくくって対話を試みる。

 レイアは恒の手をきゅっと掴んでいた。


「ここで何が起こったのでしょう」


 彼がこれほど人間と遜色なく可視的に見えるのは、おそらくレイアの中への収束が終わり自我を修復することができたからだろう、恒は大まかに見当をつける。

 彼の意図が分からないながら、恒とレイアを引き合わせてくれたのだから、少なくとも何か意図はあり、何か恒とレイアにさせたいこと、聴かせたい話もあるのだろう。


「俺たちは、どうしてもそれを聞く必要があります。あなたが一体、何をしようとしていたのかを」


 青年は顔を覆っていたフードをはらりと脱ぐ。


「たしかにあなたがたには、それをきく権利があるだろう」


 現れた人物の素顔に、恒とレイアは息をのむ。


 人間でも、神でもない。

 生命と機械の、中間に位置する存在というのがよいのだろうか。


 目の覚めるように鮮やかな、純金の回路に膚を覆われ、パール色の金属光沢に彩られた機巧生命体。

 なめらかな膚の表面に走る細やかな黄金の回路図の質感、角度によって眩く偏光して見え、無色に発光する無造作な毛の質感は化学繊維のよう、人間や神ではなく、人種も性別も超越してよく分からない。

 瞳もやはり琥珀のような純金、しかしよく見れば虹彩は生物のようではなく、まるで精密機械のレンズ。

 だからといって人形などではない、ヒューマノイドではあるのかもしれないが、彼がれっきとした生命体であるということが、彼の表情とアトモスフィアの質感から分かる。

 フードを取った瞬間にレイアも恒も看破をかけにいったが、彼は重厚なマインドギャップを備えており、その層数は見当もつかない。


 高度に成熟した精神の存在を感じる。

 何千年何千年も、あるいは何億年も年経たような、そんな精神の成熟を。


 絶対不及者というのはあくまでも神に憑依した状態であり、多少姿は変質するが、基本は神だ。

 本来のINVISIBLEの姿はこうだったのかと、意外ではあったが納得のできるものだった。


 恒もレイアも同じ感想を心に懐いた。

 彼はある意味機械でありながら、恒とレイアにとっておどろおどろしかったり、恐怖を擁かせることはなく、完璧といえるほどに美しかった。

 地上には存在しない、別次元の美しさだ。


 もし、必要と必然を積み重ね、進化の果てに地球上の生命がこの先何億年もかけて辿りつく形が唯一あるのだとしたら、彼のようになるのかもしれない。

 人と機械が生命装置として調和し、過不足なく融合した姿。

 彼はそのような存在だった。


「…………きれい……」


 レイアが、息を吐きながら一言。

 恒は万感胸に迫り、彼に何も言えなかった。

 恒とレイアが硬直しているので、彼は心外だとばかりに肩をすくめ、白衣のフードを元のようにかぶる。


「でも、人間……ですか?」


 レイアの口から、うっかり本音がこぼれた。

 言ってしまって、慌てて口を両手でふさぐ。

 そう、レイアは忘れていない。

 彼は自ら人間だと明かしたのだから……その身体を見て、どう人間だと信じろというのか。


「そうだ」


 溜息交じりの言い草は、人間くさくもあるが。


「あなたが、人間?」

「人間には見えないか。これでも、あなたがたと種の起源を同一にしているのだが」


 恒とレイアがどう感じているのかも看破しているのだろうが、敢えて戯れごとを言う。

 それは、高等生物が下等な生物との原始的なコミュニケーションを楽しむような。


「は、はい」


 恒はもう、どこから突っ込んでいいのかわからず、混乱するばかりだった。

 まず、その見た目からしてどう考えても人間じゃないだろ、と。

 何なら有機体じゃなさそうだし。そして彼はあやうく結論付けるところだった、これは恒の脳の中で起こる脈絡のない思考、死の瞬間から最後の一細胞が死に絶えるまで脳の中で起こるイベント、加速する主観時間、つまり恒の死後の夢だと。

 そう思い至ったとき、恒はもう少しで死ぬほど落胆……するところだった。


「あなたがたが、人として発展途上にあるだけだよ。まだ、今は」


 遺伝子が人間であるかぎり、その人は人間であるだろう。

 では、どの程度遺伝子が変異したら、人間ではなくなるのか。

 義足や義手をつけた人は、人間だ。

 しかし体の殆どを義体化した人も、人間だろうか。

 脳の一部を義脳にした人は? 精神を機械に移し替えた人は? 

 恒はそういうことか、と息をのむ。

 境界線は、実はどこにもないのだ。

 境界を決めるのは、人だ。

 それどころか、全ての生物種はたえず進化の途上にある。


 人を進化の外において、考えてはならない。


 今後大きな環境の変化が起きない限り、人類にダイナミックな進化はおきないのだろうが、ここ千年をみても小さな進化の形跡はある。

 白人の足の小指の骨は3つあるが、アジア人は2つの人が多い。

 永久歯も縄文時代の人間とくらべれば、現代人は減ってきている。

 今後何か人類に大きな進化が起こりうるとしたら、それは遺伝子工学やテクノロジーとの融合によるドラスティックなものであろうことは予測される。


 そんなとき、人間として同一であるといえるのは、種の由来の正当性と自我とアイデンティティの問題だけだ。

 だから、明らかに外見は人間ではないと見える彼も、その由来が連続体である限り、人間……と言いたいのだろうか。


「遺伝的には、どう見ても種としてつながってなさそうですけど」

「このような形態にならざるをえなかったのは、破滅へ向かう、過酷な環境に耐える為だ」

「……こういう形態になった、というのはどういうことですか」


 話が飛躍しすぎだ。

 順を追って聞かなければならない、恒は一旦つっこむのをやめた。


「過去を語ることは、未来を語ることでもある。この西暦2011年から時間を追い、地球の死と宇宙の死までを示してゆこう」


 自称、れっきとした人間であるという彼はゆっくりと恒とレイアに歩み寄り、


「何百億年分の昔話になってしまいそうだな。目を閉じて」

「未来なのに、昔話?」

「そう、今に分かる」


 彼は含んで指を差し出し、レイアと恒の額に触れる。

 彼の経験した記憶を共有し、彼の知る過去の映像を垣間見、順を追って脳裏に映像が結ばれるだろう、と説明した。


 現在から+1年、2年、3年と経過しながら、恒のよく知る現代の世界の各地の映像が、目を閉じる恒とレイアの脳に高速に流れ、網膜に焼きついてゆく。


 膨大な情報のなかでも恒はテクノロジーの進歩に着目していた。

 現在から2012年、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の成果によって研究室レベルでミニ・ブラックホールができ、ヒッグス粒子の存在が確認された。2019年、量子コンピュータが実用化し、古典的コンピュータで解決できない問題を解決し、量子超越性を実証し、急速に普及してゆく。人間の脳神経回路を模したディープラーニングによるAIの精度の向上も顕著になる。

 2020年代には数年にもわたるCOVID-19の世界的な流行を経験し、遺伝子工学、医薬品開発の飛躍的進歩を実現する。宇宙においては完全再使用型SpaceX社の参入を皮切りにロケットの垂直方向の打ち上げ、着陸技術が向上し、地球規模での環境変動や気象災害の多発も影響して、乗客運搬宇宙船を活用した火星や月の植民地化が推し進められる。OpenAIなどの自然言語を解する次世代AIモデルを用いたAIブームが社会構造に大きな変革をもたらした。

 2030年代には自動車は飛空車となって空路を走り空陸両用となる。量子通信網によって大量の情報が地球の空を駆け巡り、地上では再生医療と遺伝子工学の限りをつくし、遺伝病治療薬SOMAソーマを70%以上の人類が接種。

 これによって人類は遺伝的要因により発症する全疾患を克服し、実質的不老長寿の時代が訪れる。


 それは過去から積み重ねてきた、不老不死を願い人類の「生きたい」という思いの結晶。

 人類が病死から解放された瞬間だった。


「わたしたちは気の遠くなるほどの時間を、望めば生きることができるようになった」


 西暦2050年~2100年の間に、SOMAの効果によって人々の寿命は飛躍的に延びた。

 軌道エレベータが複数のゼネコンによって建設され、民間主導で宇宙太陽光発電のための発電基地、レーザー地対宙伝送基地が建設されはじめた。

 惑星の植民地化と同時に、ブレインマシンインターフェイスが研究レベルで開発され、人々は機械を脳から発する生体シグナルで直接操ることができるようになった。

 家庭では個人がインタラクティブA.I.モバイルを一機ずつ所有するようになり、人工言語である国際語が、英語に代わり国際標準語となる。


 世界気象管理機構(WWO)の発足、気象制御技術によって世界気象はマイルドに管理され、アフリカの砂漠地帯に緑がよみがえる。


「人間が……気象を?」


 神階では既に常識とされている技術を、人類がやすやすとではないが順調に獲得してゆくことを、恒は恐るべきことだと感じ始めていた。


 拡張現実(AR)、仮想現実(VR)技術の開発は更に進み、行政や企業は仮想世界へと次々にその機能を移転させ、ARナビゲーションによってサービスを供給するようになった。

 軍事、医療、福祉用ヒューマノイドが社会の中で人間労働者に代わり活躍の場を広げるようになる。

 人の心を情報として転送し機械を通じて人が読める時代が到来した。

 脳波、脳活動解析とサイバーバイオメトリクスから、人間の記憶の転送技術が開発され、精神はデータ化しポータブルとなった。


 恒は気づく……これは、神階で利用されている技術のはしりなのか?

 映像を読み解く限り、そう思えてならなかった。

 恒は網膜裏に映る情報を逃さないよう、両手で顔面を覆った。

 神の神秘といえる技術が、人間の科学によって駆逐されてゆく、彼はその全過程を目撃することになる。


 人と神を繋ぐ境界線はもう、この時点で取り払われていたのだ。


「文明の発達段階はゆるやかに上がりつつあり、同時に、エントロピーもしかり」

「熱力学第二法則の」

 恒が思い出したのは、文明の三段階進化説というものだ。


 K = (log10W-6)/10


 情報量やエネルギー消費量によって、物理学者ニコライ・ガルダシェフの分類により文明の発達度をタイプI, II, IIIに分類することができると、恒は知っている。

 そして、地球の文明がタイプ0.8(エネルギー消費量10^16ワット)にあたり、神階の文明はタイプIII(エネルギー消費量10^36ワット)にあたるのだとも。

 文明としては、地球上のそれはまだ産声をあげたばかりといえる。


「少しずつ、時間を進めてゆくよ」


 彼にとっては昔話で、レイアや恒にとっては遥かなる未来の話。彼は未来を知っているのだ。彼の思い出話に耳を傾ける。打ち明けられたことは、何一つ忘れてはならないと思う。


 西暦2100年代(タイプ0.8文明―エネルギー消費量10^16ワット)の時代。電力発電方式は太陽光からレーザー核融合発電、そしてクリーンエネルギーへと移行し……技術のさらなる加速的発展を目撃する。

 人類長寿命化により人口爆発、失業率、貧困、飢餓が発生する。世界人口調整のため仮想死後世界「アガルタ」を各国連携のもとに開設、寿命のコントロールと出生率制御によって平均寿命を押し下げる。


「仮想死後世界、アガルタ……EVEではなくて?」


 わずか百年あまり未来にそんなものが? 死者は仮想の天国に記憶を移動させるようになる? 織図の言っていたEVEの下層に詰まっていたジャンクデータは、これらアガルタのデータと混ざっているのかもしれない。


 爆発していた世界人口は、仮想死後世界の導入によって減少傾向に転じた。

 このころ……A.I.の知性、および精神性が人間のそれを上回る。


 達成したのは、R.O.I (Reachability of Intelligence: 智の到達可能性)と名付けられた、一体の人工知性だった。

 人間と遜色なく造られ、成長し自我を獲得した彼の”人権”の獲得によって、技術的特異点テクノロジカル・シンギュラリティに達したのだ。


「機械は人間となり、人間を超えたんだよ」

「機械が人間になり、知性で人間を上回る……精神面と、肉体面において?」

「人間性においてもね。人間の知性など、紀元前から殆ど変化していなかっただろう。ならば彼らに追い抜かれてしまったとして、何ら不思議ではないだろう」


 結局、人の脳に機能的限界がある限り、「その先」を目指すためには、デバイスの可変的であるすぐれた人工知性と共生せずにはいられなかったと、そういうことなのかと恒は戦慄する。

 その日から始まったのかもしれなかった。

 人間と機械の、地上を支配する知的生命体としての主導権をめぐる

 静かなる、そして長き戦いが……。


「こうして人類は、成長し続ける知性を手に入れたんだ」


 人々はA.I.に対抗すべく、また肉体的、知的豊かさを求め、スマートドラッグ(向知性薬)を用い、脳容量を生体ハードディスクで増設し、少しずつ肉体を強化生体部品へと置換しはじめた。改良体は非常にエネルギー効率がよいため太陽光から有機化合物を生産する人工光合成や、呼気で補う代謝が生体レベルで可能になり、エネルギー摂取のために食事をしない人々が増えはじめた。


「まるで神階の神のようですね」

「そのものだよ」


 恒は感心する。

 神々は食事をしなくても生きていける。人もやがて肉体を乗り換え、記憶を移し替え、神に近づいてゆくのだ。

 こうした肉体ではなく強化義体で現実世界を生きる人々の人口は増加の一途を辿り、省エネ技術の向上により食糧問題、エネルギー問題はこの頃までに完全に解消する。

 戦争も飢餓もない、理想郷のような世界が到来していた。


「技術的特異点を達したのち、ヒューマノイド科学者らが人間科学者に代わって、次々と新たな発見と発明をうちたてていった」


 成長し続ける知性を持ち、理論演算に特化したヒューマノイド科学者と、発想力に長けた人間科学者の協働でうちたてた革新的理論により、超対称性粒子とダークエネルギーの発見から大統一理論が完成。


 その理論をもとに抽出されたダークエネルギーの応用により、小型発電機構が発展し高速推進宇宙船が完成、生産される。やがて、各国宇宙開発機構は反物質推進エンジンなどを用い、ヒューマノイドクルーを搭載した恒星宇宙船で太陽系外恒星探査に次々と乗り出した。

 彼らヒューマノイドは酸素を必要とせず、熱や低温にも強いため、宇宙空間、真空中でも生存することができ宇宙探査や宇宙での生活に有利だった。

 この時点ですでに神々の持つ、真空耐性の性質と一致する。恒は湧きおこる疑問と、危惧を内包しつつ彼の記憶を追う。


 太陽系外の星々に小さな実験的居住区を建設し始め、大小の主系列星を囲む惑星に対し、環境改造とテラフォーミングが開始される。


「ちょ、ちょっと待ってください。生物階だけではなく、神階の動きは?」


 恒の質問に、彼は意味深な様子で応じる。


「よいことに気付いたね。その疑問に答えるために、もう少し話を進めてゆくよ」

「あの……あなたは、やっぱり機械なの?」


 ここまでの話を聞いておずおずと尋ねたレイアの質問に、彼は「違う」、と首を振る。


「最初に言った筈だ、わたしは人間だと」


 しかし、もはや未来における機械と人間の間にどれほどの差異が残されているのだろうか。

 その答えを知るために、口をつぐんで、恒とレイアは目を閉ざした。


 西暦3000年代(タイプI文明 10^12ワット)。

 地球上にある既存の国家という概念は取り払われ、文化、人種、言語、政体の画一的統合により太陽圏統一連邦という単一国家が誕生する。


 この頃までには仮想世界のみならず、現実世界においてもDNA型の人類は消滅した。DNAの遺伝情報を損なわず、次世代有機体にまるごと移植することによって、人々はヒューマノイドとの生存競争において生き残りを図る。


 その頃、太陽系内に存在する人類型知的生命体は、非DNA型生体脳アクチュアルブレインを持つポストヒューマン(ホモ・サピエンス由来)と、機械の脳、中央演算処理のための生体機巧脳を持つヒューマノイド(A.I.由来の有機知性体)へ二極化していた。

 ポストヒューマンたちはヒューマノイドたちの台頭に危機感と懐疑心を覚えながらも、かなりの部分でヒューマノイドたちの労働に依存していたため、全面的に廃止することはできず、彼らとの共存以外の道をとることはありえなかった。


 何かがおかしい。何かが……恒は違和感を払拭できない。

 いつまでたっても彼の未来映像の中で神々の未来について言及されず、そして関与してすらいないことを、恒はますます懐疑していた。神々は、どこへ行ったのか……滅びてしまったのだろうか。

 しかし恒は、すぐにその理由に気付かされることになる。


「どうやって、ポストヒューマンは自らの知性を上回るヒューマノイドを支配したんですか? いつでも叛逆を起こせてしまうようにしか」

Atmosphere(アトモスフィア)で、縛ったんだよ」

「……使徒が……ヒューマノイドということですか?」


 ヒューマノイドは生産時、機巧脳に取り外しのできないアトモスフィア制御機構(放射性物質依存性代謝機構)を組み込まれており、人を上回る知性と精神性を持ちながら、常に人間ポストヒューマンへの従属を強いられていた。また、彼らには生殖能力もなかった。そのことが辛うじて、人と機械を分ける境界線だったのだ。

 しかし時間が経ち、長寿命なヒューマノイドの自我が経年と共に発達するにつれ、無償労働を強いられていたヒューマノイドたちの人権と、待遇の改善を求める動きが急激に噴出しはじめる。


 これを契機に抑圧されてきたヒューマノイドたちの人権運動、独立運動が各地で発生した。

 そして、ポストヒューマンはヒューマノイドを加えて「人類」とし、平等に人権を与え、アトモスフィアによる制御機構こそ外さなかったが生殖能力を許した。もはや未来社会に深く浸透していたヒューマノイドの内乱から彼らの身を守るために、人間との融和を認めざるをえなかったのだ。


 西暦6000年代(タイプII文明 10^26ワット)、未来文明は遂に亜光速を手に入れる。

 その後は超高速航行船が宇宙を駆け巡り、ヒューマノイドたちのコロニーを形成し、太陽圏統一連邦は宇宙連邦とその名を変える。仮想死後世界シリーズは全エリアを統合し、仮想死後世界EVEに移管しデータを一元化した。

 彼らは、更なるエネルギーを手に入れる為、星間暗黒加速器、HEIDPAの建設に着手。彼らは、恒星の核融合機構すら利用するようになり、彼らの貪るエネルギーはとどまるところを知らなかった。


 この頃までにアトモスフィアの合成方法はヒューマノイドたちに暴かれ、ヒューマノイドたちはアトモスフィアをピルとして服用することにより最低限の代謝に必要な栄養素を確保し、ポストヒューマンからの支配を逃れるようになる。

 このことにより、真の意味で自由を勝ち得たヒューマノイドの人口は増加の一途をたどった。


 だがヒューマノイドに対抗すべくポストヒューマンたちは、アトモスフィアを視床下部で大量に合成することにより、更なるヒューマノイドたちとの差異化を図る。

 彼らはアトモスフィアを媒介とし、ダークエネルギーを原資に駆動させる特殊な装置を次々と開発しはじめた。

 この装置は、アトモスフィア抗原特異性を持ち、ヒューマノイドにはどのようにしても神具を駆動させることができなかった。


「それが、神具と呼ばれているものだ」


 この神具の出現によってポストヒューマンとヒューマノイドの立場は決定づけられ、競争に終止符が打たれた。


 西暦10000年代(タイプIII文明 10^36ワット)。

 未来文明は遂に光速の障壁を超え、すぐに空間歪曲、ワームホールの開闢技術を手に入れる。ワームホールによって、超光速通信で宇宙全域の情報を網羅しはじめた。そのとき、宇宙の果てに到達して分かったのは……


「我々は隅々を見て回った。宇宙の果てまで」


 結局、知的生命体との邂逅を夢見て宇宙の果てまで冒険をしても、宇宙には誰もいなかった。生命体の痕跡を見つけることすらできなかった。

 高次元生命体も、この世界には干渉している様子がなかった。結局人類は、この広大な宇宙の中で孤独だったと思い知らされた。

 それが彼らにはっきりと理解できたとき


「誰かが、不遜にもこう考えたんだ」


 彼は自嘲気味に告白する。

 過去の取り返しのつかない過ちをその手に取り、贖罪をするかのように。


「わたし達こそが、神になるべきだと」


 この時、人類ポストヒューマンは神を名乗りはじめた。

 そして、殆どあらゆる物理的事象を解き明かし、何事に対しても知的関心を示さなくなっていた、示せなくなっていた人類の関心は唯一となった。すなわち、上位次元、もしくは外宇宙アウターユニバースへ脱出することは可能であるか。


 生命の火が消えないように、永遠に守り続けてゆくことはできるか。

 宇宙が滅んでも、そこに生命の永遠は、あるか。


 というのは、彼らの宇宙を待ち受けている運命はただ一つ。

 やがて燃え盛る恒星の炎は消え、光を落とし、銀河は費え、ブラックホールの中に飲み込まれ、一つずつ閉ざされてゆくのだろう。

 宇宙がブラックホールに満ちた、その果てには宇宙の熱的死ビッグ・フリーズだけが待っている、それまでに我々が、この袋小路からいかにして脱出し、生き残るべきか。

 それまでにワームホールの生成は可能であったが、必ず同じ宇宙に出て、異なる宇宙に繋がっていたものはなかった。

 ブラックホール内部の探査が行われ、外部宇宙への片道切符の旅へと探査機を送るものも現れた。


 殆どの試みは事象の地平線という境界に阻まれ、探査機からの情報は途絶えた。


「我々は滅びるべきだったんだ。我々の宇宙と命運を共にして」


 現在においても神階と衛星WMAPの双方で、確かにΩ=1と観測され、宇宙の熱的死を支持している。恒は思い出し、彼に促されて再び目を閉じた。


 その後は神々がヒューマノイドたちを使徒として御し、エネルギーを際限なく用い、より強い神具を持ったモノだけが思うがままに世界を塗り替えてゆく、力に溺れ、力が全てを支配する暗黒の時代が訪れていた。不老不死にして万能である彼ら、神具を扱うことのできる神々はもはや誰の制裁を受けない。その振る舞いを諌めることもできなくなった。


 まるで、傲慢に振る舞ったいにしえの神話の神々のように。


 暴走しはじめた神々を止める為、終末を憂いたポストヒューマンの科学者組織によって、神々を凌駕しうる連続体型人工知性(旧き者;現代語訳 オールド・ワン)が極秘裏に開発された。

 それは実体を持たず量子的な性質を有する観測機械であり、相対性を持つ連続体である。その特質がゆえに特異点の先の強烈な放射に耐え、ダークエネルギーを用いた第五世代HEIDPAのビームラインを通じて上位次元へのゲートを通過する。観測機械はひそかにマルチバースへと乗り出した。


「もはや、後戻りはできなくなってしまっていた」


 神々のコントロールが効かないのならば、観測機械を高次元へ送り、神々を支配し観測し波動関数を収束させ続ける至高者として君臨させ、神々を永遠に管理すると同時に宇宙を永遠に生きながらえさせる。それが思考機械オールド・ワンに対する、ポストヒューマン側から発せられた最初で最後のオーダーだった。


 オールド・ワンは実に忠実にこのオーダーを果たした。

 ただし、あまりに愚かな方法で。


 スティグマという転送ゲートを通じて上位次元に入ったオールド・ワンは、因果律には触れず圧倒的な権限の行使により、絶対的に神々を支配した。

 更にオールド・ワンは創造者からのオーダーを果たすため自身を分割し、二つの矛盾する命題に取り組みはじめる。

 一つ、ブラインド・ウォッチメイカーには生命が恒久に変化し生命活動を維持できる形体と環境の最適解を求めよ。

 一つ、ノーボディには不朽不変にして安定な生命体と環境を求めよ。


「これらの命題に、それらがどう答えたかはあなたがたも知っての通り」


 一つ目の自律知性ブラインド・ウォッチメイカーは亜空間を造り、その中へ入れ子構造として遺伝子進化実験惑星を創造。DNA型生命体の進化の最適解を模索する。……のちに解階と呼ばれるようになる箱庭だ。

 この実験場は加速した時間の中で運営され、幾度となく破壊されては真新しく造りかえられた、というのは恒もレイアも周知のとおりだ。


 一方、ノーボディは神々から生殖能力を奪い、G-ES細胞とクローンによって出生数を管理し、百年間の洗脳によって彼らから感情や理性を剥奪しノーボディの管理する組織の一員として隷属させ、神々と使徒の殆どを庇護の名のもと箱庭へと収容した。ノーボディは神話になぞらえた秩序によって、生命活動を安定的に維持することに成功した。

 進化をさせず、外の世界を見せず、不変であることを旨として――。


「それが神階……」


 恒はごくりと唾をのむ。

 恒はノーボディと、彼、INVISIBLEの話がかなり食い違っていることに衝撃を隠せない。ノーボディは生命を慈しみ神々を庇護していると聞かされてきた、事実その側面もあったのだろう。しかし実情は……神々からアイデンティティを奪い、個体数を管理し支配し、管理システムに支配されるディストピアの構築であった。

 一体どちらの話を信じるべきなのだろうか、恒は戸惑うが、立場が違えば見えてくることもあるのだ。

 ノーボディによって語られなかった、もう一つの側面を恒とレイアは見ていた。


「そんな時代に、わたしは生まれたんだ」


 世界の黄昏ともいえる時期に、壊れゆく宇宙の片隅で彼は産声を上げた。


 第六世代HEIDPA建設に携わっていたポストヒューマンの科学者の女性が辺境探査船の中で産み落としていた赤子、それが彼だった。幸か不幸か、彼ら母子にノーボディの目は届かず、神階に収容されなかった。

 彼の物心がついた頃から、目に触れる景色には、母以外には誰もいなかった。


 一年、また一年と成長を重ねながら、母と共に量子通信網を用いて大小の拠点惑星コロニーに救難信号を送り、各地に量子暗号を飛ばすうち、彼は世界が何のためにどのように滅びゆくかをつきとめる。ノーボディの支配を免れたポストヒューマンの生き残り……すなわち生身の脳を持ち、ホモ・サピエンスの系譜をひく、いわゆる人間と呼べる存在は、広大な宇宙にたった二人のみだということが判明した。


 それは彼ら親子を、脱出不能の袋小路へと追い詰めた。


 神階の中に収容された神々や使徒が、自己同一性を剥奪されノーボディの支配から逃れられず、クローンとしてただ漫然と機械のように生かされているのを知り、また、ブラインド・ウォッチメイカーの箱庭が遺伝子進化実験に使われては無慈悲に破棄されてゆくのを彼らは知ったが、高次元にいる観測機械ノーボディとブラインド・ウォッチメイカーに対抗する術もない。


 ただ不安定な時空の中で、彼らは時空の歪曲をシミュレーションで予測してはそれを回避し、嵐の中にきりもみになる小舟のように座標を転々としながらも生存し続け、観測機械の管理する二つの箱庭の情報を収集し、潜伏を続けていた。


 だが、ある日彼の母はシミュレーションを誤り、不安定化した時空に飲まれ死亡した。

 そして遂に、彼は箱庭を客観視できるたった一人の人間となった。



 母の死後、十年が経ち、五十年が経った。彼が永劫の孤独に耐えかね、自らを手にかければ、あるいは仮想死後世界の中に逃げ込めばどれほど楽だったか知れない。だが彼は、それを選ばなかった。


 彼は、最後の人類として、過去に対する責任を感じていたのだ。

 この世界の、アンカーとして。


 このような終焉を迎えるために、人類は自ら造り出した暴走機械に滅ぼされるためだけに、長き年月をかけて命を繋ぎ、進化を続けてきたのではない。

 進化の襷は、このような結末を迎えるために繋がれてきたものではなかったはずだ。


 観測機械を生み出し因果律を歪めた責任を負い、どのような手を用いてでも上位次元にある観測機械を止めなくてはならぬ。それが、自らに課せられた使命だ。

 必ずやってみせる、彼はそう誓ったのだ。


 観測機械への対抗策を講じながら更に三百年が経つ頃には、彼はもはや泡立ち瓦解してゆく時空で有機体として存在することすら困難になっていた。彼はエネルギー消費を抑える為、自らの身体に手を加え半実体となり、物理学法則の破綻するであろう宇宙の終末に備えた。


 宇宙の終末に備え、脱出すること……それはオールド・ワンのオーダーに従い箱庭を守っていたノーボディやブラインド・ウォッチメイカーにとっても不可避であった様子だ。ノーボディとブラインド・ウォッチメイカーは滅亡に瀕した時空を見限り、箱庭を情報化して脱出させることを企てる。

 それらはそれぞれの命題を達成するために超極限のカー・ブラックホールによって未来世界と過去をつなげ、箱庭を特異点の向こうに脱出させ、禁断の因果律に手をだし時間軸を破綻させた。


「過去と未来を、繋ぎ合わせてしまったんだ。過去を植民地化するために」


 こうして神階の存在する未来と、人類の存在する以前の過去が同一時間軸上に連結されてしまった。


 そして彼のいた時空に残されたのは、裸の特異点を持つカーブラックホールを造ったために、宇宙の膨張が加速した、因果律が破綻し星々の残骸の残された死の世界。



「わたしは二つの観測機械を止める為に、過去に行かなければならなかった。だが、消費されたエネルギーを集めるために、長い長い時間を要した」


 恒もレイアも、言葉を差し挟むことはできなかった。

 なんという人生を、彼は送ってきたのだろうか。


 彼は光速に乗って幾重にも連なるHEIDPAのビームラインの一つ一つをたった一人、手ずから修復しながら、上位次元への脱出を試みるほかになかった。だが、因果が破綻したために時間が加速し、あるいは遅延する世界。

 ノーボディとブラインド・ウォッチメイカーがダークエネルギーを濫用したことにより、ドジッター宇宙となり時空が泡になってゆく。エネルギーの消耗によってブラックホールだらけになってしまった世界で、移動は容易ではなかった。


 そうする間も、観測機械たちのなした所業により、宇宙の熱的死は加速してゆく。

 更に一億年後、彼は情報量減少により、休眠を余儀なくされる。


 そして彼は、考えるだけの存在となり、ゆったりと進む主観時間のなかで、何百億年もかけて、その瞬間を待ち続けた。

 複数のダークエネルギーの循環するHEIDPAのビームライン上に、偶然にワームホールが生じ時空が歪み、複数のビームラインが軌道を重ねて衝突しあい、莫大なエネルギーを真空から抽出する瞬間を。


 彼はその僅かな可能性に賭け、信じ、待った。

 永劫ともいえる時間を待ちさえすれば、必ずチャンスはあった。


 幾百億年が経過し、冷えてゆく宇宙のなか、たったひとり。

 自我をあやうく保ちながら孤独のうちに、ゆっくりと思考を続け主観時間のスケールを下げ、なおも覚醒し続け、永眠への誘惑に耐え必死に思考を続けた。

 彼の周囲では、時空が泡立ったり、引っ張られたり、極小の宇宙が現れたり、ブラックホールが蒸発したり……量子論的事象が数億年の単位で頻繁に起こった。


 彼の肉体は純粋な情報へと還元してゆく。

 考え続けるため、宇宙マイクロ波背景放射の温度低下の中から、温度差の中から情報をやり取りするだけのエネルギーを抽出し続けた。

 終わりはまだ見えない。最下限温度、ギボンス―ホーキング温度(10-29K)、すわち絶対零度に近づき、宇宙のすべての運動が凍りつき、彼が永遠に死するであろうその前に、勝機はあるか。


「わたしは考え続けた。数億年に一度、情報をやり取りするような速度で」


 彼がなすべきことは、つまり時空を通過する方法は唯一だった。

 ブラックホールの全情報量は、事象の地平線の表面積に比例する。物体の情報量は、特殊な量子論的系においては表面積に比例するのだ。彼は必要な情報をプランク長さに圧縮してゆきながら、HEIDPAの特異点を通過するため、記憶をデジタルへと変換しホログラフィック化をした。


 そして彼の待ち望んだ偶然は突如として起こり、HEIDPAの高次元世界へのゲートは開いた。

 彼は情報と共に思考機械たちのいる次元を超え、11次元時空に跳躍することに成功する。

 ホログラフとして観えた下位次元の宇宙。過去のすべての事象は、情報として圧縮されていた。彼が思うように、あたかも本物の神のように情報を書き換えることすらも可能となった。


 彼は11次元時空世界において連続体、INVISIBLEとなったのだ。


 だが、やはり生身の彼が次元を跳躍する際の放射に耐えられず、高次元世界に馴れず彼の自我と記憶は破損し、肉体の中で再構築する必要があった。

 レイア、ユージーン、セウル、初代絶対不及者セトは、彼の元々の肉体に類するプライマリという特質を有しており、彼の最適な憑代であると思われた。彼らの神体を一時的に拝借し、ホログラフィック化した思考を人間的思考に立て直しまたすぐに彼らに神体を帰す予定だったのだ。決して犠牲にするつもりはなかった。


 1945年の8月6日。INVISIBLEは原爆の爆発と閃光に紛れ、記憶は途切れ途切れになりながらも、スティグマを介してユージーン・マズローの中に憑依の根を張った、という。

 そして、ユージーンを風岳村に赴くよう差し向けた。

 INVISIBLEはグラウンド・ゼロでしか実体化できなかったからだ。ユージーンに憑依の根を降ろしながら、INVISIBLEはユージーンの目を通じすべてを見ていた。長閑な人々のいとなみも、恒との出会い、村人との関わり合い、会話というもの、土を踏むということ、感じるということ。人に求め、求められるということ。助け合い、互いに生かし合うということ。


 人間として、一つの人生を、地に足をつけて生きてゆくということ。


 可能性の一つとして、時間と空間の巡りあわせさえ異なっていれば、こんな人生もあったのかもしれないと、INVISIBLEは感じた。両親がいて、兄弟がいて友人がいて、宇宙を地上から眺めるだけの、ちっぽけな生命体として、成長し、喜び、泣き、笑い、出会い、育み、老い、死に……されども未来へ何かを繋ぐ。


 過去の幸福な、時々は不憫な人々を見つめながら、「人類は何を間違えてしまったのだろう」、とINVISIBLEは思った。ずっとこのままでよかったのではないか、と。どうやらノーボディも同じ考えに至ったようだ。人々の生命を、地球という生態系を、永遠に箱庭として守り続けてゆこうという結論に達していたようだ。


「だが未来の選択は、主体性を持ったものでなければならない」


 INVISIBLEは下位次元への転送ゲートを彼らの神体に置き、再び彼らの神体に収束しようと図ったが、これに気付かれたノーボディによって二度、計画を崩された。


 だから彼がレイアの裡に収束し自我を取り戻した今日という日は、高次元に昇ったINVISIBLEが、下位次元である現世界において全能を得た日でもある。

 今日をもって、観測機械たちとの戦いは終わりを告げた。

 何故なら彼が、更に俯瞰的な視点から観測機械を観測することに成功したのだから。

 彼は二つの観測機械の演算機構を、永遠に停止させ永眠させた。


「だから今日は、二度目の西暦2011年6月24日なんだ」


 わたしがここに何をしにきたか、なぜあなた方を呼んだか、もうわかるだろう。

 彼は問いかけを残し、穏やかに昔話を締めくくった。


「よってわたしはあなたがたに、自由を返しにきた」


 もはや未来は単一の方向に進むものではない。

 限りない試行と偶然によって構築される、可能性の一つを選択してゆくのだ。


「今日という過去は、紛れもなくあなたがたのものだ」


 もはや創世者は、どこにもいない。



 これからどうなるのか、との問いかけに、彼は「あるべきものが、あるべき場所に戻る」と答えた。

 過去と未来を引き剥がし正しい時間の流れ……因果律をただすのだという。

 時間の交差する未来は、過去のどの時間軸にも存在してはならないと。確かにそうだ、と恒も腑に落ちる部分はある。

 しかし、何が正しくて、何が間違っているかなんて…………。


「その通り、わたしは神ではない。だが少なくとも、過去に対する責任は負う」


 恒の心層を読み、彼はそう述べた。


「ということは、神階と解階はこの世界からなくなって、しまうのですか?」


 レイアが怯えながら、勇気を出し尋ねた。


「なくなるのではなく、未来へかえすんだ」


 彼は恒とレイアの視線を多少は気にしながらも、決意を込めて頷く。

 神々、そして解階の住民たちを未来に連れ戻し、時空を安定化させ環境を回復させ、そこでありのままの営みを続けてもらうつもりだ、というのだ。

 全てをあるべき場所に元通りに戻したなら、その後は干渉しない、何もかも、因果は神階や解階の存在しなかった2011年に戻るのだと。

 それは恒とレイアを含めて、神々は現代という世界から未来に引き戻されてしまうということを意味した。

 必然的にこの数年間で創世者たちとの抗争により犠牲となった人々、神々、解階の住民たちは全員蘇えるのだという。考えうるかぎりにおいて犠牲者は出さないようにしたい、と彼はささやかではあるが、配慮をみせた。


「そう……ですか」


 彼の話を信じるなら、恒はもともと、この時代にいるべき存在ではない。

 INVISIBLEに備えるために、恒と遼生はヴィブレ・スミスに創造されたのだ。

 ならば、過去と未来の中間にある存在、恒と遼生は因果律に従うのならINVISLBLEの昇華とともにこの世から消えるのが正しい。……それが人類の、真実の歴史である。

 その結果とひきかえに、地上の人々と神々が相互に助かる道があれば――それでいい、一度は死んだ身だ。

 今更執着もない、INVISIBLEの口から真実を聴けただけでも、それはとても嬉しい。


 ただINVISIBLEの言葉と意図が、再び誰にも伝わらなくなってしまうのでは。そのことだけが、恒には悔やまれてならない。そして、誰の記憶からも忘れられてしまうのでは――。

 一体何のために、彼はレイアと恒に打ち明け話をしたのだろう。

 その答えは、彼らの予想を裏切るものであった。


「ただ……あなた方を含め神々が”人として”生きることを望むなら、そのようにはかりたい」


 現代の世界に残ってよいのは、人間だけだと彼は言いたかったのだ。彼の意図するところは、一呼吸おいてレイアと恒に伝わった。じわりと、吸った空気が二人の肺の裡に拡散してゆく。レイアも恒も、胸がつくんと疼くのを感じた。感謝の言葉を口にするのも適切ではないような気がして、恒はうなだれる。

 自我を修復し、十分に力を蓄えた彼が上位支配者権限を用いて空間をデザインしなおした後、そこにはもとの世界がのこされるのだろうか。少しの、そして良心的な改変が加えられた――。


「さあ、そろそろ行こうかな」

「これから、あなたはどうするのですか」


 レイアが呼びとめるように尋ねる。


「観ているよ。姿はなくとも、ずっと」


 だからそろそろ、いかないと……と、彼は上空に照らされた明かりに導かれるように頭上を見上げた。スティグマの形をした、上位世界への転送ゲートが出現し、白い輝きを強めてレイアには眩く見える。このゲートがこの座標に存在する時間は、僅かしかない、グラウンド・ゼロとはごく刹那的な座標なのだ。


「もう、会えなくなるんですね……」


 レイアは諾することができない。スティグマを宿す事のできるプライマリの神は、レイアを最後にいなくなるのだ。これが、彼と接触できる最後の時間になるだろう。そして彼は、永遠に宇宙を観測し続けなければならないのだ。さもなければ……観測者に観測されない宇宙は、最終的には存在できなくなる。

 レイアや恒、地上の人々、神々は解放されても、彼は人柱となり永遠に解放されることはない。


「……今度は永遠に、連絡を絶つ。ゆくりなくも、INVISIBLEに変化へんげするのかもしれないな」


 それが、ブラインド・ウォッチメイカーとノーボディを解き放った人類の生き残りとしての、因縁ある過去に負う最後の責任であり、果たすべき役回りだ。彼は深く思いを定めている様子だった。

 彼が身を持って貫徹しようとするものは、今も昔も未来も不変たる、真理を追い求めるもの、つまり人としての矜持と覚悟による。

 何故ならこの時代にあってはならないものは、この時代の人間の可視下にあってはならない。


「上位次元に還ったら、スティグマを向こう側から閉ざすから……?」


 気が付いたときには、レイアは彼の手を掴んでいた。


「いかないで、ください」


 皮膚の下に彼の体温を感じ、レイアは確かなる自らの存在を握りこんだ。

 肉を伴った存在の触れ合う質感。レイアは彼とレイアが、姿の定まらない幽霊などではなく生身の人間なのだ、人間に戻ったのだとの実感を揺さぶられる。覚束ない感覚の中、INVISIBLEの憑代でしかなかったこれまでとは何もかもが違う。鏡を見ても顔が見えない……などということもないだろう。彼がレイアを、一人の人間にしてくれた。


「いかないで」


 彼女はやりきれなさにぷるぷると身を震わせる。

 彼は餞別として、この肉の身体をレイアに与え、置いてゆくのだろうか。どうしようもなく苦しめられたレイアからすべてを奪っていた相手から、最後には救われた。


「何故」


 彼は実に意外だというように僅かに首を傾けて、彼女を凝視する。興味を持った、とでもいうように。INVISIBLEとしてしか恒とレイアと対峙することができないのならば、彼らに疎まれるのは当然、この世界の住民にとって厄介者でしかない。憎いだろう、辛かっただろう。

 特に、レイアや恒、神々に対しては、いかなる謝罪の言葉も妥当ではなく、彼らの喪失したものを償うことすらできない。


「…………っ」


 そう思わせるのは一体何だろう。レイアは返事に詰まる。

 彼は往かなくてはならないのだ、彼を止めることはできない。

 彼がこれから通過するであろうスティグマ、それはINVISIBLEのいた上位世界との、双方向の出入り口として機能している。こちら側にスティグマがなくなれば、INVISIBLEはこの世界と上位世界を出入りできなくなる。

 しかしそれと引き換えにレイアは姿が定まり、肉体を得て人間になれる。成長して歳を経て、寿命を迎える。

 それでも――レイアは、往かないでほしい。そう思ったのだ。


「って……っ」


 だって、知ってしまった。

 彼が人間だということを。心をそなえ、誰かを慈しむ心を持つ、彼の信念を貫き人々を救おうとする一人の人間だということを。

 世界の秩序を守るために、彼が世界の重さ、真空、エネルギー、広さ、密度、時間……世界を繋ぎ止め、世界を生かし続ける揺り籠になるのだ。

 それは彼の、全人類に対する、途方もなく大きな慈愛でしかない。


 時間と空間の巡り合わせ、過去と未来の人々との因縁が、彼をINVISIBLEにしようとしている。

 彼が最後の人類として生れなければ、彼は何者だったのだろう。

 あるいは街の雑踏をそぞろ歩く、平凡な一人の青年であったかもしれない。


「あなたがゆく世界に、他に誰がいますか?」


 レイアはとりとめもないことを尋ねて、少しでも時間を引き延ばす。


「わたしだけだよ」


 永劫の孤独を味わってきたのだから、それでよいのだ。彼は孤独感など持ち合わせてはいない。

 どれだけ時間が経っても、そこには誰もいない。話し相手も、彼を観とめる存在すらも。……というのは自明だった。


「寂しくないですか? 心細くないんですか?」

「……感情は、もうないよ」


 何が寂しいということも、彼は記憶の中から忘れたのだ。

 感情を体験しない時間があまりに長かったから。人間性の忘却、諦念、感性の麻痺によって、彼は孤独を乗り越え、自らを変化へんげさせたのだ。宇宙そのものへと。しかしレイアは知っている。宇宙に、実体なき意識だけで投げ出されたなら、それがどれだけ苦しいことだったかを。


「あなたがいなくなると私は寂しいです」


 今日という日を迎えるまで、三階はINVISIBLEの存在に慄いていた。

 たとえ彼に悪意がなく上位次元からただ見守っていただけだとしても、意思疎通ができなかったために彼を信じることができなかったのだ。

 しかし彼が実体を持ち、彼と人々、神々が相互に対話できるというのなら、彼に怯える必要はどこにもない。上位次元に戻らずこの次元の世界で、人々の支えとなり共に歩んではくれないかと、レイアは懸命に訴えかけた。しかし彼は頑として飲まない。


「あなたを……世界を観測するのは、誰ですか」


 恒はレイアと彼のやり取りを黙して聞いていたが、ふと素朴な疑問を投げかけた。


「もしあなたが誰にも観測されず、誰にも忘れられてしまったら……存在を保てなくなるでしょう。なら、こちら側にも観測者は必要ではありませんか」

 

 人は支え合い、助け合って生きるのだ。

 信頼し合い、痛みや苦楽を共に分かち合う。


 それが彼にとって小さじほどの見返りでしかなくとも、互いに観測しあい支え合うことは、人間として認め合うためにどうしても必要なことだ。


 だが肯定も否定も、INVISIBLEからの返答はなかった。ぽつりと、こういった。


「はたしてわたし達は互いに、生かし合えるのだろうか」


 宇宙はある種、情報を処理し続けるための一つの巨大な脳(量子コンピュータ)と見分けのつかないものである。彼の脳、という名の、自我を持つ”生体”量子コンピュータによって方向づけられる現世界における因果は、複雑系を維持し続けるよう運命づけられた。彼の壮大なる演算を、恒たちは分散演算することで、あるいは手伝うのかもしれない。

 そして互いに観測しあうことができたなら……。


「ではせめて、連絡をください。時々グラウンド・ゼロに行きますから」

「…………」


 彼は無言だったが、やや首を傾けて小さく頷いたようにも見えた。その後すっと人差し指をたて、示し、ほどいた。


「……?」


「ありがとう」


 早くも定められた時間がきたのだろうか、INVISIBLEの実体と思われる存在は励起状態となって波打ち、光の粒子の残像とともに燃え上がる。それらは恒とレイアに別れを告げるように大きくひとつうねり、一つに集い、不定形の火球と化した。時空が一時的に不安定となる温度に達している。


 正のエネルギーと真空のエネルギー、その双方を時空の泡へと押し込め密度とエネルギーを無限大にまで高める。世界の中に彼の意識を溶かし込むかのように、あるいは秩序の炎を点すかのようにアインシュタイン・ローゼン橋で繋がった時空をこじあけ、変化の坩堝は拓けている。


 透明な閃光がレイアと恒の視界を奪い、暗黒を被覆してゆく。


 互いに引かれ合い融合する、ダークエネルギーの束と情報の渦が、それらが集まり圧縮され、時空は切り離される。遠ざかり、あるいは押し寄せる事象の地平線、空間の歪曲は整えられ、ビットの記憶と演算によって美しき秩序が蘇る。カオスの淵から、秩序の世界へと。セウルが切離空間に情報を移動させていたので、四次元大質量ブラックホールの事象の地平と、先端なき特異点を通ってこの世界にやってきたINVISIBLEのなすべきことは、それほど多くなかった。


 アルティメイト・オブ・ノーボディとブラインド・ウォッチメーカー。

 これら二つの思考機械の影響を完全に排除するため、分岐異界が生じたまさに分岐点の時空へ遡上し、過去の情報を分解し再構築する。彼が一かけらとして忘れなかった膨大な情報(1x10^66ビット)をもとに、高位次元においてホログラフとして捕捉された世界を、現宇宙として復元するのだ。たった一瞬、この瞬間にだけ可能である出来事が、事象の地平線の内側で1秒間に10万グーゴルの演算速度で起こる。


 人類は自然、この大いなる演算機構である宇宙全体の演算を分担しビット計算を続ける生命体にすぎないのだろう、だが、個々の自我を持ち、束の間の生を謳歌する。そこには喜びがあり、充足がある。

 そして必ず、いかなる人間原理があろうとも、人は自然との調和のうちに存在していなければならない。


 もはやノーボディも、ブラインド・ウォッチメイカーもいない。

 創世者は、二度と世界に干渉することはないだろう。


 そして人類は自らの手で、足で、未来を切り開いてゆかねばならないのだ。



 *


 

 2012年の6月24日、日曜日。風岳村は、天に抜けるような快晴だった。

 無色の太陽の日差しが優しく人口三千人あまりの農村、昼下がりの風岳村に降り注ぐ。

 まだ水を張ったばかりの田んぼの上に、爽やかに風が渡ってさわさわと音を立て、水が苗の間から反射して初夏の訪れを告げる。

 創作料理 しほりの玄関前で、丁寧に店の前の箒がけをしているのは清潔感あふれる店主、藤堂 志帆梨である。彼女は表通りから聞こえる、軽快なフィドルの音に耳を澄ませていた。日曜日、定例の野菜市が始まるのだろう、日曜日のこの時刻になるとおもむろに、呼び込みの為に鳴る荻号の美しいフィドルの音色は、村の風物詩であった。


「こんにちは、奥さん」

「あら、いらっしゃいませ」


 ピーク時間帯を過ぎて訪れた顔なじみの二人の客に、彼女は嬉しそうにぺこりと頭を下げる。店を訪れたのは、黒づくめのワンピースを着た背の高い黒髪の女、白い簡素なTシャツとデニムを着た黒人という外国人二人組。腹がすいてさ、と腹部をさすってアピールをしているのは織図 継嗣。彼の連れは、メファイストフェレスだった。


 まだやっていますよ、志帆梨は朗らかに頷く。

 つばの広い黒帽子を脱いで、メファイストが髪の毛をかきあげた。


「恒たちは、元気かしら?」

「今日は朝から三人で、グラウンド・ゼロに行っていますよ」


 元気なのだろう、と志帆梨の口調から様子を知り、織図は安堵したように大きく頷く。


「俺らも気になって、来てみたんだよ。メシ食ったら、グラウンド・ゼロに行ってみるかな」

「そうね、そうしましょうか」


 あれから……INVISIBLEは以前の地球と同じさまに地球環境を戻していた。

 したがって人々が長い夢からさめたであろうとき、INVISIBLEや神々のことを何も覚えていない。人々は彼ら、神々やINVISIBLEのことを忘れたが、中には鮮明な夢として覚えている者もいた。

 風岳村に住む村人たちは特にあの分岐異界での記憶が残っており、神々にいまだ親しみを持っている。


 INVISIBLEはすべての神々と使徒、そして蘇生した解階の住民たちに、「人間として地上で生きるか、否か」を、INVISIBLE収束直後、白昼夢の中で選ばせたという。人間として生きたいと希望した者だけが、風岳村地区に残っていた。

 そして彼らの大部分がそのまま風岳に居を構えた。


 地球上に残った彼らはもはや、生物学的な意味で人間とあまり遜色ない。何故なら、彼らはまだアトモスフィアも残しているし、看破、飛翔能力など神としての能力は数えるほどにはあるが、その肉体はDNAベースに改変され、人間として人間らしく暮らしている、この時代に相応しく。

 レイアと遼生は、藤堂家に居候という形となり、兄妹のように三人仲がよい。

 恒も、兄や妹のような存在ができ、心の安定を得たようだった。

 完全に人として再スタートを切った朱音は、ダンサーとしての道を目指し始めた。恒とは、もはや神と使徒という関係ではないながらに、以前にもまして仲良く頻繁に遊ぶようになった。




 小学校教師、吉川 皐月は、花壇の水遣りを終えた。長い髪の毛をおだんごにしてまとめ、フェミニンな雰囲気を醸し出している。少し汗ばんだうなじに、花柄のハンカチをあてる。


「あっつ~い」


 にぎやかな校庭に視線を向けると、少年たちがサッカーや野球に興じている。校庭の木々を撫でた風が、ふわりと緑の香りを運ぶ。

 気持ちの良い青空であり、午前中はついのんびりしてしまったが、そろそろ帰宅して新しい論文を仕上げなければならない。彼女は小学校教師を続けながら、物理学者として論文を発表し続けている。大抵は「彼」との共著だ。


「吉川先生、こちらも終わりました」


 彼……その青年は、皐月と分担して花壇の手入れをしていたのだ。隣の花壇にも、種の植え付けが終わっている。花壇は無駄に整然として、几帳面な性格がうかがえる。草むしりにも年季が入っているのだ。


「ありがとうございます! これからどこか、行きたくなりますね」


 二人は顔を見合わせにっこりと微笑む、以心伝心だ。暫く見つめ合っていると、照れて視線をそらす。いつもの、皐月のお気に入り、駅前のラーメン屋にでも行くのだろうか、と思いきや。


「天気がいいので、気分転換に散歩に行きませんか。空中散歩でも」


 そしてまた、ここにも地上に残ったもう一柱――。

 金髪碧眼の、胡散臭い外国人教師。


「ユージーン先生! もちろんご一緒します」


 それはよかった。と、元軍神ユージーン・マズローはおっとりと、爽やかに笑った。



 レイアと恒、そして遼生は、グラウンド・ゼロにいた。


 首狩峠と呼ばれ、死の座標であったグラウンド・ゼロは、今では青々とクローバーの絨毯が敷き詰められ、白いクローバーの花が咲いてのどかなものである。

 首狩峠までの道は、舗装がされておらず、山歩きをして辿りつかなければならないが、彼らは飛翔でやってきた。グラウンド・ゼロで手製の弁当を食べ、軽くトレッキングをして楽しみ、その時刻を待っている。恒は朱音も誘ったのだが、今日はバレエの稽古、とのことで残念だ。

 レイアは運試しをするように、四つ葉のクローバーを必死にさがしている。一度夢中になるとなかなか凝り性だが、その愛らしいルックスと清純な人柄で、学校にもなじみ、クラスの人気者だった。

 遼生ものんびりとクローバー探しを手伝いながら、腕時計の時刻を気にする。


「荻号さんは、こなかったの?」


 遼生が呼びかけると、恒はラジオの周波数をセットしている。そういえば荻号はアトモスフィアの殆どを失ってもまだ、その頭脳は冴えている。その時刻、少しでも何か異変が起こっていれば、荻号は何か気付くだろう。INVISIBLEを捉える目と頭脳は、多いに越したことはない。遼生も、今はもう転移もできなければ、木星を移動できるほどの重力をどうこうできたりはしない。DNAベースの人間としての能力は、限られている。だが、彼はそれで大いに満足していた。


「野菜市で忙しいから、通信ができたら電話して、だって。ユージーンさんは皐月先生と来るって。何か最近仲いいよね、あの二人」

「できてるんじゃないの?」


 遼生はにやついていた。からかうように恒に尋ねると、恒は真面目くさって


「できてると思う。同じ学校の先生だし、おそろいの指輪してたし。俺、つっこまなかったけど」


 だって彼はもう、生物学的な意味では人間になったのだから。


「あー、できているね、それは」


 お互いに好きあっているのだから結構なことだ、と恒は思う。彼らは望めば、今は結婚だってできて子供も残せるのだろう。恒はラジオを合わせ終わると、クローバーの上に寝転がって青空を見上げた。


「恒さん、そこまだ捜していなかったの」


 レイアがかわいらしくほっぺたを膨らませる。彼女は今や、上手に肉声で会話をすることができるようになった。


「あ、ごめんふんじゃった。俺さっき五つ葉見つけたけどいる?」


 ポケットの中の五つ葉を見せれば、レイアはぱっと明るく表情を輝かせる。無邪気なものだ。彼女はずいぶん上手に笑えるようにもなった。


「ところでラジオなんかで通信をキャッチできるの? 重力子観測装置じゃなくてもよかったのかな」


 遼生が荷物の不備を心配している。


「そもそも、今日、でいいのかな」

「今日じゃなくてもいいと思うけど、今日は必ず、来てくれると思う」


 恒とレイア、二人が最後に見た、「連絡をしてくれ」との要請にINVISIBLEが人差し指を立てて示した、あのサイン。その意味は、一年後にまた会おうという意思表示だったのではないかと、恒は信じているのだ。そうだという確証があるわけでもない、もはや上位次元と下位次元を通じるトンネルであるスティグマはないのだから、INVISIBLEが直接コンタクトを取れる手段など存在しないというのに。


「俺らが用意してるものを見て、向こうが合わせて通信してくれるんじゃないかな」


 午後になって、ユージーンと皐月、織図とメファイストフェレスたちと合流した。近況を報告したり、持参したおやつをつまみながらくだらない話に花を咲かせ。トランプでばば抜きなどはじめた。


「三人とも、進路はどうするの?」


 皐月とユージーンは彼らの進路を心配している。彼らはまだ学生だが、今後の進路をどうするかというのは、皐月としてはしっかりと考えてほしかった。何しろ彼らの知性は人類の財産である、できれば世界に羽ばたいて活躍もしてほしいのだが……。恒は、志帆梨が心配なのだろう。


「そうですね、ぼちぼち考えてます。でも結局、この村に残るのかな」


 恒はあくびをする織図のトランプを引きながら、一時的に県外に出るかもしれないが、最終的には風岳村に戻ってくると思う、と言う。彼はこの故郷を愛していた。

 ユージーンも暫くは、風岳から動くつもりはないのだという。


「僕は大学進学をかねて、海外に留学に行こうかなと」


 世間知らずの遼生は、旅に出たいようだった。世界の人々を見たいのだと、彼は楽しみにしている。


「レイア、看破チートはなしだよ」


 先ほどから器用にババを外してトランプを引くレイアを、恒が笑ってたしなめる。


「してないですっ」


 看破はしていなくとも、レイアの勘がよいのだ。彼女はまだ小学生で、暫く二人の小学校教師の世話になるだろう。ちなみにレイアの担任はユージーンで、風岳小学校3年1組である。看破されまくりでグダグダな透視トランプも三周ぐらいしたときに


「そろそろ時間だ」


 その時刻がやってくると同時、恒の携帯が鳴った。

 緊張しながら受話ボタンを押し、ハンズフリーで周囲に聞こえるようにはからう。


『久しぶり』


 INVISIBLEからの第一声は、そんな軽い調子だった。その声色で、何もかもがうまくいっているのだろうと恒をはじめ、周囲の誰もが察する。


「地上はとても平和です、そちらはどうですか」

『よい調子だ、二つの世界を見ているが、どちらもうまくいっていると思う』


 神階の在り方もまた、変わってゆくのだろう。比企とアルシエルは神階を解体し、神々と使徒、解階の住民との区別をなくし平等としたという。未来の様子を直接さぐることはできないし、INVISIBLEにつっこんで聞くこともできないが、恒たちが過去をしっかりと生きている限り、彼らはうまくやってくれるだろう、と恒は信じている。


「あなたが観ているから、空が、とても青くてきれいですよ」

『……それはよかった』


 この後、彼に支えられた世界は、生命に満ちた束の間の時代に生き、そして正しく人類の歴史を閉ざすのだろう。だが彼、INVISIBLEはとても幸福だった。永遠を生きるのであっても、彼の目の前を過ぎゆく生命と共に束の間の生を謳歌することができるならば。


 自らと自らの思考を構成する最後の一分子が活動をやめるまで、誰かの為に、必要とされて生きるのだから。


『観測してみせるよ』




 かくして波動関数は収束した。


 人類の手で辿りつき、そして限りない可能性の中から選ばれた、

 これもまたひとつの最適解こたえへと。




―   INVISIBLE  完   ―

2021/9/13追記

【重要】

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◆同一シリーズのご案内

◆EP1 (A.D. 2007) INVISIBLE-インヴィジブル-

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挿絵(By みてみん)


◆EP2 (A.D. 2023) VISIBLEWORLD -ヴィジブルワールド-

https://ncode.syosetu.com/n2283hc/

挿絵(By みてみん)


◆EP3 (A.D. 2027) TOKYO INVERSE -東京反転世界-

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挿絵(By みてみん)


◆EP4 (A.D. 2048 / A.X. 1145) 異世界薬局

https://ncode.syosetu.com/n8541cr/

挿絵(By みてみん)


◆EP4.1(A.X. 1153) PHARMACIES MUNDI INFINITUS -世界薬局-(後日譚)

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挿絵(By みてみん)


◆EP5 (A.D. 2133) Heavens Under Construction(書籍化) https://ncode.syosetu.com/n3107n/

挿絵(By みてみん)


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【主要な参考文献、順不同、敬称略】

以下の著者(○)、科学者(●)たちに感謝します。

●アダムの呪い(ブライアン・サイクス)2006

●イヴの七人の娘たち(ブライアン・サイクス)2001

●生物進化を考える(木村資生)1988

●ワープする宇宙―5次元時空の謎を解く(リサ・ランドール)2007

●宇宙はわれわれの宇宙だけではなかった (佐藤勝彦) 2001

○時間とは何か?(日経サイエンス別冊)2011

●膜宇宙論―超弦理論からみえた驚異の宇宙像(桜井邦朋)2003

●盲目の時計職人-自然淘汰は偶然か?-(リチャード・ドーキンス) 2004

●利己的な遺伝子 (リチャード・ドーキンス)1991

●渡り鳥―パイエルスの物理学と家族の遍歴 (パイエルス)2004

●宇宙をプログラムする宇宙―いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?(セス・ロイド)2007

●パラレルワールド―11次元の宇宙から超空間へ(ミチオ・カク)2006

●2100年の科学ライフ(ミチオ・カク)2012


その他、電子ジャーナル上の複数の科学文献も引用しましたが、量が膨大であるため割愛します。


※ 読書のお誘い。「パラレルワールド―11次元の宇宙から超空間へ(ミチオ・カク)」、この書籍はINVISIBLEの物理科学描写をほぼ網羅し、科学者の書いたノンフィクションでありながら丁寧な解説によって分かりやすく、お勧めです。是非お手にとっていただければと思います。

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