プロローグ
星の見えぬ雲夜。
二つの軍が夜闇の中、激突した。
雄叫びと刃のぶつかり合う音。
前の敵すら判然としない闇の中、兵士たちは我武者羅に腕を振るうことしかできない。
そんな中、迷いなくこの夜を走り抜ける馬の足音があった。
「来たぞ!! こいつが……」
言葉を言い終わる前に、帝国軍の兵士の一人が倒れた。
左右のあちこちで悲鳴が上がる。馬の足音が近づいてくる。また、誰かが討たれた。
松明をかかげ、敵の正体を探ろうとするものもいたが、死を運ぶ騎士の姿は見えず、そして何も分からぬまま死んだ。
王国の騎士たちもまた、味方であるはずのその足音に戦慄する。
闇に溶け込み、敵兵を悉く殺し尽くすその騎士は、まるで幼き頃聞いた亡霊騎士の伝承のようであった。
深く黒く暗き夜に現れ、生者の魂を狩り尽くす顔なしの騎士。その刃から逃れる術はない。
帝国の兵士たちは、やむを得ずに固まり、一斉に松明をつける。
日中のように明るくなったその一帯。
折しも、空を覆う雲に隙間ができ、戦場に月光が差し込んだ。
そして彼らは、ついにその姿をみつける。
「こいつが……」
そこには、黒馬に乗り、全身黒い重装に身を包んだ騎士がいた。
2メートルはあるだろう巨体に、人が持つには余りある大きな黒槍を握っている。
圧倒的な存在感を放つ見た目ながら、なぜ我々はこの姿を捉えぬことができなかったのか。その理由が分かった。
こうして、対面している今でさえも、その騎士からは呼吸の音がしない。
鎧のきしむ音すらもなく、また闊歩する馬の軽い足音が、トン、トンと近づいてくる。
「戦場の亡霊か……」
誰かがそう言ったとき、騎士の姿再び槍を振り上げ、帝国軍に突撃してきた。
恐怖に満ちた兵士たちは、それでも雄叫びをあげて向かい合う。
そして再び
空は雲に覆われた