鬼ごっこ
あれから一日。
魔力を操作しようとイメージしてもうまくいかない。
具体的なイメージがわからない。
まず、チークのおかげで魔力の知覚はできるようになった。
でも、魔力を流すことはできない。
「ネフー。」
「何?」
「鬼ごっこをしよう。」
「鬼ごっこ?」
唐突に鬼ごっこの遊びの提案をされて驚いた僕は聞き返したが間違いではなかったらしくルールの説明をされた。
前の世界と同じく鬼が子を追いかけて子に触れればその鬼と子の立場を入れ替えるというものだった。
「ネフがここにきてからほぼ屋敷の中に籠っているから体を動かそうかなぁってさぁ。」
「そういえば…」
僕としては宿題のない夏休みの感覚だった。
いつも夏休みは家でゆっくり過ごす性格なのでこういうタイミングでは常に家にいることになる。
そのため、チークの屋敷から出ることはなかった。
まぁ、出たところで少し広い庭の外には広大な森が広がってて誰か友人と遊ぶなんてないけど。
「で?庭でやるの?鬼ごっこを?2人で?」
「うん。まぁ、場所は森の中でやるんだけどね。」
「森?」
「うん。大丈夫。迷子になったら助けに行くからさ。」
僕の位置を常に魔力感知によって知ることができるチークが僕と鬼ごっこ。
圧倒的に僕のほうが不利だと思う。
それに、僕は魔力感知ができないので余計…。
「まぁ、このまま始めると私が圧勝するし、ハンデとして魔力は一切使わないよ。」
「…良かった。」
それなら遊びとしてはまだやりようがあるだろう。
2人でやることに変わりはないけど。
「じゃあ、100数えるからその間に逃げてね。」
適当な方向に逃げて隠れたけど、すぐに見つかった。
そこからが地獄だった。
チークは簡単に僕のことを見つけるけど、僕はチークを見つけることができなかった。
魔力で位置を知ることができる魔力感知が使えれば楽なんだど、使うことができない。
まぁ、周囲の魔力の濃さはわかるけど。
それが、チークのものかそうじゃないかは区別が難しい。
漫画みたいにピリッとした感覚で『あ、この魔力はチークだ』なんて言えれば楽なのかもしれない。
とりあえず、歩きながらチークを探した。
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あれから少し探してチークを見つけた。
木の上に隠れていた。
そりゃ簡単には見つからないわ。
「見つかったか。じゃあ、次は私が鬼だよ。ほらすぐ逃げる。」
チークが木の実を齧りながら言った。
少し、おいしそうに見えたけれど鬼がチークになったので逃げなければいけなくなったので我慢して逃げた。
今会って分かったけれどチークには魔力を感じない。
周りよりも異様に薄くて寒く感じる。
そのため、逆に薄いところにチークがいることが分かる。
それを使って次はちゃんと逃げた。まぁ、よそ見で木にぶつかって捕まったけど。
ただ、収穫はあった。
なんとなくだけど、僕はチークを探す要領で魔力感知ができるようになった。
「大丈夫?」
「うん。」
「じゃあ、続けようか。」
なんとなく、チークが鬼ごっこを始めた理由に気づいた。
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結局、あれから何度も鬼を行った。
「私の魔力がわかる?」
「なんとなく。」
鬼ごっこのおかげだ。
森を走りまわったおかげである程度、周りの魔力というものがわかるようになった。
「魔力感知は魔力操作の技術に引っ張られるからね。ネフはもう魔力操作もある程度習得してるよ。」
「そうなの?」
「そうだよ。魔力量が多くて操作が難しいけど逆に普通に生活してて身につく技術がすぐに身についたみたいだね。ネフが魔力に順応した証拠だよ。」
「そうなんだ。」
「そして、無意識か分からないけど、身体強化もなぜか使えてたね。」
「え?」
「木の上にある実を食べようとして出来たんだよ、きっと。」
「へぇ。」
そういえば、チークが木の実を食べているのを見て登った気がする。
確か、木の上を飛び跳ねて木の実をとったはず。
確かに身体強化が成功しているらしい。
「じゃあ、次は無意識を意識的に使えるようにならないとね。」
僕はチークに言われるがまま上に跳んでみたがいつもより少し高かった。
足が熱くなった感覚がある。
チークは魔力が全く感じないため寒いと感じる。
なら、魔力が多く集めるほど熱くなる。
なら、手に熱を集めるイメージ…。
「ん。」
手に力がいつも以上に入った。
やってみれば意外と出来た。
「ちゃんと出来たね。」
「…うん。」
「よかったね。」
本当になんとなくだけど、魔力の扱い方が身についた。
そんな僕の頭をなでながらチークが言った。
「ふぅ。よかった。」
今日の鬼ごっこの成果に満足したチークは僕を連れて屋敷に足を向けて歩き出した。
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屋敷に戻る途中、チークの魔力はなぜここまで薄いのかという疑問をチークに聞いた。
「魔力全部を吐き出してる。」
「吐き出す?」
「常に空にしてる。」
「?」
「魔術や魔法は周囲の魔力を使えるし、魔力障害にならない。」
「魔力障害?」
「昔のけがでね。私が魔力を体に貯めると悪い魔力ができて癌みたいなものが出来る。」
チークが服をめくって腹の傷を見せた。
その傷は、臍から鳩尾までの大きな傷跡だった。
その呪いのような傷のせいでチークはこの山奥の屋敷に住んでいるらしい。
そんなチークをいつしか『山籠もりの魔法使い』とも呼び始めたらしい。
「それって治らないの?」
「外見の傷は治そうと思えば治せるかもしれないけど、魔力を貯める器が壊れてる。修復は無理だね。割れたガラスの器は二度ともとには戻らないのと同じ。」
「…そうなんだ。」
「別に、不便でもないし気にしなくてもいい。それよりもご飯にしようか。」
そういい、話を切り上げてチークは屋敷の玄関を開いた。
「あ、チーク。」
「何?」
「今日はありがと。」
「どういたしまして。」
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