第一話 プロローグ
『あんたなんていないほうがいい。』
そう言われて家を出た12歳のある日。
意味の分からない言葉を聞いて気が付けば見知らぬ場所にいた。
「ん?」
『############』
「…なに?」
周りにはあまり見ない珍しい服装の人たちが、まったく聞き覚えのない言葉で話していた。
ただ、僕にはよくない話だと感じすぐさま逃げ出した。
逃げる道中はあまり覚えていない。
そもそも、いきなり知らない場所にいたことでパニックになっていた。
後で僕を引き取ってくれた魔法使いの女の人は僕が違う世界から来た旅人だといった。
確かに、外国人の言っている言葉はわからなかったことを思い出して僕は納得した。
「で?君はこれからどうしたい?」
魔法使いの女の人はチークと名乗り僕にそんなことを聞いた。
もちろん、簡単ではないが元の世界へ戻る道もチークは用意できるらしい。
しかし、母親から嫌われたことから戻りたくないと思いこの世界で生きたいと答えた。
「じゃあ、よろしくね。」
とりあえず、いきなり異世界を生きることができるわけがないと言われ、チークの下で過ごすことになった。
「よろしく、お願いします。」
「あ、いいよ。敬語はいらない。どうせ、年もそんなに変わらないし気軽に話して。私そんなに偉くないし、仮にも一緒に過ごすんだから壁みたいなの作られると困るし。」
チークが笑ってそう言った。
「そうそう。君の名前を付けよう。」
「名前?」
チークの説明では異世界に来る際に名前という情報が破損してなくなるらしい。
そのため、名前を新しく付け直す必要がある。
「…じゃあ、君の名前は…ネフ。ネフでどうかな?こっちの世界の意味でよく勇気をある子供に育ってほしいって願う名前だよ。」
僕はチークが提案した名前に異論もないので頷いた。
それから僕は、ネフという新しい名前を名乗り異世界での生活を始めた。
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異世界に来てから数日。
この日は、この世界で初めて魔術の訓練をしていた。
「んー。」
少しの間、何度もチークの言う通りに言葉を紡いでも魔術は発動しなかった。
「…<天よ、ここに小さな光の加護を望む、【ライト】>。」
「…。」
何も起こらない。
チークはなぜこうなっているのか少し頭を抱えある結論にたどり着いた。
「…あ、そうだった。」
「何かわかったの?」
「翻訳機能がおかしいのかも。」
「翻訳機能?」
「ネフはこの世界に来て私たちが話してる言葉の意味が分かった?」
「分からなかったよ?」
そういえば、ずっと『###』としか聞こえなかった。
この世界に僕を召喚する際に語学のオプションをオフにして消費を抑えたらしい。
そのため、僕には全く話していた内容は理解できなかった。
「でも今は違うでしょ。」
「…まぁ。」
こうして意思疎通ができている。
「ネフとあってすぐにネフには翻訳機能の魔法を付与した。」
「?」
「対象の意図を聞いた人が認識できる言葉に変換してる。だから、ネフの詠唱はネフの世界の言葉でこの世界の詠唱に合わない。」
チークの言う通りであればネフはこの世界で詠唱での魔術は発動できない。
一見、どんな対象にだって意思疎通ができる便利なものだけれど詠唱は成立しない。
日常会話を成立させるために施した翻訳機能が裏目に出た。
「どうしよう。」
「じゃあ、詠唱はあきらめようよ。会話が成立しないのは困る。」
「いいの?最初は魔術に興味深々だったのに…。」
「だって、チークだって最初は何を言ってるか分からなかった。言葉を教える人がいないのにどうやって言葉の勉強をするの?」
「…それはそうだね。」
これは元々チークがネフに伝えていた内容だった。
異国や異界の言葉は根気さえあれば習得できるが時間がかかる、その間ネフは実質一人で語学の習得を行う。
実質一人というのは会話が成立する人間がいないためだ。
これを懸念してチークは一番最初に翻訳魔法をネフに付与した。
そうして、ネフは魔術を入門して半日で詠唱での魔術発動をあきらめた。
そして、ネフはもう一つの発動方法を学ぶことにした。
「まず、魔術の発動は2つある。」
一つはネフがあきらめた詠唱魔術。
幅が広く微細な調整を行える一般的な発動方法だ。
そしてもう一つは、術式魔術。
魔力の媒体で書いた式で魔術を発動する方式だ。
詠唱が要らず精度が一定していて、式次第では詠唱よりも効果が高い強みがあるが、術式通りにしか発動しないため微調整ができない。
素質に寄らず発動できる強みもあるため魔道具などはこの方式で造られている場合が多い。
一般的な魔術は詠唱と術式の両方で発動できるが術式発動ははっきり言って使い勝手が悪いため魔術師のほとんどは詠唱魔術を使う。
「呪符を使った術式の発動は極めれば未知の魔術を作ることになる。一般的にこの術式発動が魔術の起源で、現在の詠唱魔術はすべてこの術式魔術から発展したものだ。」
チークの座学が始まった。
一体どこから取り出したのか魔術の教本を手にネフに魔術とは何かを説いている。
ネフが質問をすると先生らしい対応をした。
「さて、じゃあこれをネフには覚えてもらおう。」
「…これを?」
「そう。これだよ。魔術文字、文法によって形式は変わらないから文字と文法と媒体さえあれば発動できるようになるよ。まずは、さっきの【ライト】の術式を教えるからやってみよう。」
そう言われて教えられたとおりに媒体である液体で書いた。
『あとは魔力を流すだけだよ。』と言われたがその流し方が分からない。
「あー。そっか。魔力の扱い方を教えてないよね。」
チークは意外とおっちょこちょいだ。
順序が適当で何度食材を焦がしたか…。
「じゃあ、【ライト】の前に身体強化をしよう。」
「身体強化?」
「そう、これは詠唱がいらない。魔力操作だけで発動できるよ。」
身体強化は詠唱とも術式とも違う発動方式を使うが厳密には魔術の定義には触れていない。
魔力を消費しない、術式を介さないの2点から定義から外れているらしい。
「ただ、ネフは魔力量が多いから少し気を付けないと体が壊れる。」
「なんで?」
「物には強度がある。まだ幼い君が負荷を掛けすぎるとケガするんだよ。」
「へぇー。」
「成長次第で魔力量に見合った体になるだろうけどまだ若いからね。今は出力を抑えるべき。」
ということで、チークはネフを守るための魔法をかけた。
多少、違和感があるけどあまり
「ねぇ。」
「何?」
「魔力が多いと何がいいの?」
「…分かりやすい例だと、睨むだけで魔物が逃げる。」
「すごいね。」
「弱い魔物だと消滅するよ。」
「…怖いね。」
「まぁ、消滅は冗談だけど、実際は一部の例だよ。」
なんと安心できる子供だろう。
目を離したすきに魔物に襲われるなんてことはネフには起こり得ない。
「じゃあ、今から体内の魔力を操ってみせるから魔力を感じてね。」
「?」
チークに言われるがまま頭に手を置かれ、体中のあちこちが暖かくなってきた。
体の中で水みたいに暖かいものが流れる。
「これが魔力だよ。流れが理解できれば身体強化や他の魔術なんて簡単になる。」
通常、魔術は詠唱か術式での発動になるがチークはなぜかどちらとも違う無詠唱で行う。
その理由についてははぐらかされてよくわかっていないが、チークは優しく魔術を教えてくれるのであまり気にしない。
それに、教えてもらわなくともある程度推測できる。
チークには概念を操る魔法がある。
身近なものはチークの翻訳だ。
[言葉が通じる]という概念のもとに言葉を翻訳するというものだ。
おそらくこの概念の操作が無詠唱魔術の仕組みだろう。
どういう概念の操作かはわからない。
僕は、概念の操作ができなくとも無詠唱魔術はできるようになりたいと思う。
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