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第8章 無敗将軍の奇襲

 

 あのとき、七年前のあの日、母の横で自分はそれを見ていたのだ。


 「殺してやる! ラミダン!」


 そう言って彼は将軍に襲いかかっていく。


 しかし、将軍は横から斬りつけてくるジョパルの剣を止め、足で蹴り飛ばすと、倒れた彼ののど元に鋭い刃を突きつけた。


 「見ない顔だが、どうやら私は知らないうちにこの者の恨みを買ってしまったようだ。 それにしても良い目をしていた。 我が帝国の兵士たちにも見習ってもらいたい。」


 そして彼はジョパルを見つめて、わずかに微笑した。


 「こいつを私の護衛につけさせるというのはどうだ? アデムント総督。」


 アデムントは彼とは目を合わせずに、適当な目をしてごまかそうとしている。


 本人は将軍との仲が悪いつもりでいるようだが、相手は全くそのことに気づいていなかった。


 「どうしてここへ? エデモルカ方面の防衛は将軍の担当ではないはずでは? それとも、相手はあのベオコスだから、心配でついてきたとでも言うつもりか? もしそれなら無用のこと。 将軍殿に手柄を横取りされてはたまりませんからなあ。 お帰りを。」


 「残念ですが、それはできません。 私から言わせれば、あなたがたが今こうしていられるのも不思議なくらいです。」


 「どういうことだ!」


 将軍は一枚の書信を彼に手渡した。


 「な、なに!」


 書信を見た途端、アデムントの表情がみるみる青ざめていく。


 内容は、べオコスがゼムヘイオの帝都に進軍したはずの部隊一万を、実はアデムントたちの軍を攻撃するために引き返させたという文面であった。


 「こ、こんなもので私をだまそうとしても、汚い手には乗らんぞ!」


 「うそかどうかはこれから分かる事です。」


 あまりにも冷静なラミダンに総督はいら立ちを覚えて、ついにそっぽを向いた。






 アデムントが腹を立てていた時、彼の兵士の一人が走ってきた。


 「た、大変です。 後方から敵部隊が迫ってきています!」


 総督の顔はさらに焦りの色を帯び始め、彼はラミダンの顔を一度だけ見ると戦闘開始の合図を出した。


 遠くで敵軍の太鼓の音がする。


 それはジョパルの怒りに満ちた胸に、重々しくのしかかるように響き、やがて兵士の声が聞こえて山は騒がしくなった。


 「敵襲だーっ! かかれー!」


 二ヴェナ軍の騎兵隊の先頭には、顔を全て覆い尽くした不気味な兜をつけた鎧姿の人物が、男の声で叫び、剣を振りかざして迫ってくる。


 「うわ!」


 騎士たちは、目の前にいたアデムントの兵士たちを上方から剣で薙ぎ払いながら、敵陣を突破しようとする。


 「陣を乱すな! 密集せよ!」


 ラミダンの素早い対応のおかげもあって、帝国側はなんとか陣を崩さずにいたのだが、ジョパルもティぺスもラミダンでさえも、このとき無敗将軍の戦いかたを思い知らされた。


 「将軍、あれを御覧ください! やつらは二人乗りをしています!」


 二ヴェナの騎兵隊からは、後ろに乗ってその存在を隠していた伏兵が、敵陣に入り込んだ時点で次々と馬から降り、ゼムヘイオ軍をかく乱する。


 これでは陣形を整えるどころの騒ぎではない。


 そのすきに残った騎兵は歩兵を降ろしたのち、なぜか退却を始める。


 「追えー! 今度は我らが騎兵を使う番だ!」


 アデムントは、手柄を立てようと焦ったこともあったのか、自分の配下の騎兵に突撃命令を出した。


 しかし、直後にあやまちに気づいて戻れの合図を出したが、もう遅い。


 丘の下り坂に隠れていた二ヴェナの弓兵たちが待ち構えていたのだ。


 「ぐああっ!」


 突然の出来事に騎兵たちは失速し、右往左往して混乱する。


 かと思ったら、今度はその側面から二ヴェナの本隊がやってきて、騎兵に迫ってくる。


 「こら! お前ら逃げる気か! 戻ってこい!」


 だが総督の声に騎兵たちが戻ってくることはなかったし、代わりに現れたのは先ほどのべオコス率いる敵騎兵たち。


 「いかん! 全軍退却せよ!」


 このままでは騎兵に退路を断たれ、全滅する。


 そう考えたラミダンは撤退するように部隊に指示して馬に乗る。


 「おい、貴様! まだ戦は終わっておらん! ここからが反撃のときではないか!」


 アデムントは将軍にそう言ったが、彼に言い返された。


 「いや、もう終わった! 我々の負けだ総督。 このままでは逃げ場がなくなる! ここで死ぬなら好きにされるがいい。」


 「くそっ!」


 その言葉にアデムントは地団駄を踏んで、顔にしわをよせ、大急ぎでルホンとともに馬に乗った。






 「逃がすな! 追うのだ!」


 将軍も総督も、細い道を危なっかしく渡るかのように、部下に両側面から迫る敵軍を阻ませて、その間に道を造らせているすきに退却する。


 「押せーっ! 押して挟撃せよ!」


 敵の本隊を動かす老人の隊長が、指揮棒をもって、それをジョパルたちのいる残存兵のもとへと向ける。


 ジョパルこっちだ、とティぺスの声が聞こえるが、彼は先ほどの深手を負ったことで、徐々に目の前の景色がかすんでいくのが分かった。


 周囲は兵士たちの戦慄と血潮で満ち、彼自身も木の葉の積もる斜面に転がり落ち、そこで意識を失った。


 「ジョパルーっ!」


 その瞬間、ジョパルの体は何者かによって持ち去られた。


 兵士たちは奮戦するが、挟撃されているためにやがて逃げ場を失い、ティペスも後ろから剣を突き付けられて武器を捨てた。


 投降した彼らの前には、あの顔を全て覆った兜の将軍。


 「うおおおおおおー!」


 後に聞こえてきたのは、勝利の余韻に浸る敵の声だった。


 


 


 


 

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