第34章 私は誰のもの?
大変長らくお待たせいたしました。今年に入って初めての投稿です。予想外にも用事が長引いてしまい、執筆が大幅に遅れてしまいました。とは言っても今後も忙しい身には変わりありません。しかし投稿しないわけにもいかないため、今までのようにとはいきませんが、ゆっくりでも確実に本作を書いていこうと思っております。
早く続きを読みたいという読者様には大変申し訳ありませんが、ご理解のほどをよろしくお願いいたします。
べオコスがジョパルの逃亡に対して追撃軍を編成するなか、サナはため息ばかりついては宮殿にある自分の部屋に閉じこもっていた。
「はあ…」
彼女の付き人である侍女までもがサナのどんよりとした様子にうんざりとして、知り合いの護衛兵に相談までしにいっているありさまだった。
「サナ様。 どうなされたのですか? ここのところ元気がないご様子ですが?」
侍女がたずねても、彼女の返事は決まって、なんでもない、であった。
しかし、そんな膠着状態も長くは続かなかった。
護衛兵の間で、じきにジョパルを捕え、ウィンバート王の忠誠を裏切ったことによる責任をとらせるとのうわさが広がった。
「よいか。 陛下にたてつく者に容赦はするな! あの者は陛下を裏切ったも同然。 見つけ次第、捕えて連れてこい! その後はすぐに処刑する!」
「はい、将軍!」
べオコスの声が外で聞こえた。
これにはサナはおろか、侍女でさえも驚いて息をのんだ。
「お嬢様。 差し出がましいようですが、行かなくてもよろしいのですか?」
サナは自分の部屋の中と外を交互に困った顔で見て、うろうろと歩き回った。
そしてしばらくして侍女について来るように言った。
「お父様のところに行きます。」
彼女ははやる気持ちを抑えながら、王の間へと入った。
「お父様! 私も行かせてください!」
「お嬢様、おやめください!」
侍女が必死に説得するが、彼女は聞こうとしない。
「お父様、いいえ陛下。 お願いです。 私をジョパル王子様のもとへと行かせてください!」
「静かにしろ。 誰かに聞かれたらどうする気だ?」
ウィンバートは彼女の頬を両手でしっかりと包むと、顔を近づけた。
「ジョパルを行かせたのは間違いではない。 しかしお前は過ちを犯そうとしておる。 お前が母の教えを守りたいことは知っておるが、今さら教えなど守って何になるというのだ? あの男についていく限り、お前は決して穏やかには暮らせん。」
大事なのはお前の命なのだと彼は言ったが、女の恋というのはそれすらも犠牲にする性質があり、今の彼女はそれを最大限に引き出した。
命という言葉など、精神が満たされる、いや、欲望という名の精神を満たす上では無力に等しいことを知っていた。
「お父様は、私に幸せになって欲しいのですか? それとも不幸になって欲しいのですか?」
「何?」
王の目つきが変わり、お前のために言っているのが分からないのかとサナに訴えているが、気づいていながらも彼女はやめない。
「確かに、私はあなたの一人娘です。 ですが、この体は、この頭の中にある記憶は私のものです。 穏やかだからなんだというのです? それがあなたにとっての幸せなら、私にとっての幸せはあの人と、ジョパル王子様と結ばれることなのです!」
「このバカ者!」
王はそばにあった壺を手でひっくり返した。
「あの男について行ったところで、幸せなどつかめん! 早死にされて一人さみしく生き残るのがおちだ! なぜ世の配慮を跳ねのけるのだ! サナよ。 お前を愛しているのだぞ? お前は母の命と引き換えに大事に育てた世の、世の…」
「愛しているのなら、止めないでください。 私のことを想ってくれているのなら、行かせてください。 お願い、行かせて!」
王は何か言いたげに口を開いて息をしていたが、しばらくして彼女に背を向けた。
「よせ。 子供染みた言い方は。 お前をまるで、暗闇にでも閉じ込めてしまったかのようだ。 そんなつらい思いをさせてしまったな。 すまなかった。 ゆくがよい…」
彼のせいではない。
私の身勝手なのだ。
サナは王の背中にぴたりと体を寄せた。
「ごめんなさい。 陛下。」
サナは急いで出ていった。
「よし、出発するぞ!」
兜をかぶり、べオコス将軍が部隊に合図した。
追撃軍のため、騎兵のみで部隊を編成した軍隊は、馬に乗ってダぺラへと向かう。
そのすぐ後でサナが一人、こっそりと別の近道を通ってジョパルのもとを目指した。
「はあ! はあ!」
手綱を力いっぱい引いて、手がしびれて感覚がなくなるほどだったが、それでもべオコスより先に追いつかなくては意味がない。
水も飲まず、一日中走り続けた。
「王子様…」
彼女を待っているのは、おそらく彼と、ジェスナの嫉妬の眼差しなのだろう。
それもすでに知れたこと。
それでも会いたい、自分のものにしたい衝動を抑えられない。
欲望のままに生きると言えば聞こえは悪いが、彼女にはジョパルが必要なのだ。
そんな願いが通じたのか、サナは前方に馬に乗った五、六人の集団を見つけた。
あの男でありながら、すべらかなつやのある黒くて長い、一本にまとめた髪。
彼を見つけた!
彼女はそう思って、その人物に近づこうとした。
「ジョパル。 私、いいえ、私たち、ずっと一緒よ。 こういう生き方でも、怒っていないのかって? 何を言っているの? でも、一緒にいられる。」
ジェスナが彼と口づけを交わす瞬間を見た。
「え…」
その光景を目にした途端、湧き上がっていた炎がぶちまけられた水によって、一気にしぼんでいくのを感じながら、心のなかで何かが敗れた気がした。
「いたぞ!」
べオコスの声がする。
どうやら二ヴェナの軍が追いついたようだ。
ジョパルが声の主に振り返ったとき、一瞬サナと目があった。
見られてしまったのだろうか、とでも訴えているかのように、真剣に瞬きせず、視線を彼女に向けるジョパル。
「ジョパル王子! 貴様を国家反逆の罪で逮捕する! やあああああーっ!」
あぶない、とサナは彼に叫ぶが、べオコスの剣はすぐそこまで迫っている。
「貴様…。 己が二ヴェナから受けた恩恵を、仇で返す気か!」
間一髪、ティぺスが将軍の剣を抑えた。
「仇? 冷静になって考えれば分かります、将軍。 もちろん、理屈などというものではありませんが。」
「かかれーっ!」
将軍の周りにいた騎兵隊数十人が、彼らに襲いかかる。
サナは、ジョパルに背を向けた。
「サナーーーーー!」
「おい、ジョパル! いくぞ!」
ハルヴェルトに抑えられ、彼はサナに差し伸べる手をむなしそうに一人伸ばした。
「これで、いいのです。 やはり、私はただの女でした、王子様。 むやみにあなたに近づこうとしたから、天罰が下ったのです。 さようなら…」
「サナ! 待ってくれーーーっ!」
前書きに明記させていただいた理由からもお分かりいただけるのではと思いますが、忙しいため更新が遅くなります。しかし何カ月も空きをつくらないように頑張っていくつもりです。