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第31章 一人を除いての話し合い


 ― 三年後 ―


 二ヴェナと帝国の同盟関係は、パレヴァンに勝利した年から一年で途絶えた。


 兵力を回復した帝国が強気に出てきたことで、王の機嫌を損ねてしまったのである。


 「なんだと? あいつが今回も勝利したらだと?」


 「はい。 陛下直々の取り決めだそうです。」


 宮廷の庭にいたべオコスは、部下からそれを聞かされて鋭い目つきになった。


 「ジョパル…」






 将軍が庭を歩いていたとき、豪華なマントをまとった騎士の軍団が二ヴェナの門に入場した。


 彼らの手には、金銀の財宝や装飾品の数々。


 「陛下ー! 陛下ー! 討伐軍が戻られました!」


 兵士の声に誘われて、ウィンバートは外に出ると、二人の若い男たちの前に来てそれぞれ抱きしめた。


 「ははは。 またもや勝利したか。 実に喜ばしいことだ。」


 「はい。 これで残るは、ビフェ湾に残る海賊のみです。」


 そう言って顔をあげたのは、すっかり精悍な顔つきになって、たくましくなったティぺスの姿。


 「これからも陛下に忠誠を尽くす所存です。」


 隣にいるのはジョパル。


 王はそのジョパルに向かって、ある取り決めをしていた。


 それが、海賊対治に行ったジョパルが勝利して戻ってきた場合、彼を副将に昇進させるということだった。


 それもべオコスの部隊の副将である。


 どうやら幾度となく勝利を重ねるジョパルに、ウィンバートは心を動かされたようだった。






 「奴が私の副官だと? これはいかんと思わんのか?」


 べオコスが不安になるのにはわけがあった。


 あのとき、スラヴァがギョムチャクに洞窟に閉じ込められたとき、自分はジョパルの首にかかっている黒いペンダントを見た。


 あれはまさしくイムダイの、王の証なのである。


 「まさか。 彼は我らが陛下に忠誠を誓っているのだぞ? 反乱を起こすなど、大変な嫌疑をかけたものだな、べオコス殿。」


 向かいに座っているブロンベルクが、彼を怪訝の表情で見つめた。


 「いや、私はあのとき彼のペンダントを見たんだ。 ジョパルが母の願いであるエデモルカ再興を成そうとやってきたといううわさまであるんだぞ? これでもし彼が将軍の地位に昇りつめたら、国内で民の動揺が広がり、陛下の王座が危ういのは言うまでもない。 違うとおっしゃるのか?」


 確かに、考えられないこともないがと、ブロンベルクはしばらく押し黙った。


 その間にもべオコスの説得は続く。


 「ブロンベルク殿。 あなたは陛下の、国を守る将軍という立場にあるはず。 ならば、たとえ少しでも不吉なきざしがみられるなら、今からでも手を打つべきです! 規律を重んじるあなたらしくもない。」


 「それは聞き捨てなりませんな! べオコス殿。 うわさがどうであれ、なんの根拠もなしに動く軽率な行動は控えてもらいたい!」


 「軽率ですと? 陛下のために、国の安全を考えてやっているのに、どこが軽率なのです! あなたこそ、しっかり話を理解してから意見を述べるべきだ!」


 二人が言い争っている声は、近くを通ったある将軍にも聞こえた。


 メーケニッヒだ。


 「なに? まずいことになったぞ。」


 二ヴェナの三秋将とまで言われる彼だけが、なぜ国の未来を左右するかもしれない話合いに招かれなかったのか?


 疑問と同時に怒りがわいてきて、メーケニッヒは思い切ってそれをジョパルに伝えようかと迷った。


 「二人とも。 何を話しておいでなのだ?」


 メーケニッヒが入ってきた途端、二人は黙り込んだ。


 彼は実はとある理由で嫌われていた。


 二人よりも若くして将軍の地位に昇り詰めた彼を、彼らは自分たちの存在を脅かす存在として警戒しているのだ。


 メーケニッヒには当然、二人が彼を嫌う理由が何なのか知らされることはなかった。


 ゆえに、彼は二人を理不尽な上官たちと蔑視していているふしがあり、できるだけかかわろうとはしなかった。


 しかし、今回のような重要な議題に自分を招かないことにはさすがに腹が立った。


 「どうされたのですか? 急に黙り込むなんて。 よほど大事な話でもしていたようで何よりですが、国家の危機の際には将軍としての職務を全うしたいのは私も同じです。」


 「別に、重要なことではない。 にも関わらず、そなたは我らの私情にまで口をはさむのか?」


 ブロンベルクの言葉にはもう耐えられなくなった。


 「結構です。 おじゃまでしたら、私はこれにて失礼させていただきます。」


 バタンと、勢いよく扉を閉めて、彼はジョパルのもとへと向かった。


 それは、このときばかりは彼らに対する腹いせのつもりだったのだが、話は予想外にも、大きく膨れ上がった。






 「ジョパル殿。 ジョパル殿はどちらに?」


 「何か御用ですか?」


 メーケニッヒは、彼のいる部屋に入ってきた。


 「このたびの大隊長昇進、おめでとうございます。」


 「ありがとう。」


 そばにいたジェスナも、快く迎えてくれた。


 「今日、あなたに話さなくてはならない、重要な事態が発生しました。 決して私と王以外には他言なさいませぬよう。」


 彼はそっとジョパルに、二人の将軍が話していたことについて告げた。


 「な、一体それはどういう事なんです?」



 


 


 

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