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第21章 乱入者の存在


 「よく分かった。 スラヴァよ。」


 「はい、陛下。」


 ジョパルの決断を聞いた後、王は外交担当の老人に懐からひし形の、金枠でふちどられたルビー色の女神の彫られた宝石を差し出した。


 それはまさしく二ヴェナより伝わり、外交や使者として異国の地に赴く者に預けられる証であった。


 「そなたにこのヴィルヘルムを授ける。 帝国と同盟するためにきたと、世の意を伝えよ。」


 「恐れながら、陛下のご意志とあらば…」


 彼は王の前にひざまずいて、手を頭より高く添えて持ち上げた。


 こうして、二ヴェナは帝国と同盟するために、外交大臣のスラヴァを中隊の護衛とともに派遣することになった。


 調印式は、帝国と二ヴェナの国境に近いガイナルク平野で行われる。


 「よかったね。」


 ジョパルの肩に、ジェスナの茶髪が触れた。


 「ああ。」


 彼はジェスナとの関係を修復できたのだと、久々に普通に会話ができたような気がした。






 しかし、事はそううまくは運ばれなかった。


 スラヴァ一行がウィンバートの調書を携え、後少しで帝国領に入ろうかという夜のこと、突如としてたいまつの灯りがくるくると円を描いて迫ってきた。


 帝国の迎えかと彼らは思ったが、どうも様子がおかしい。


 やがてこれは帝国の使いなどではないと知ったとき、敵は夜の黒い闇にまぎれていたせいで、すでにすぐそこまで来ていた。


 「スラヴァ様! お逃げください! パレヴァンの奇襲です!」


 指揮官はそう言って部下とともに剣を抜き、突撃していくが、しばらくしてスラヴァは恐ろしい思いをした。


 彼のところまで、先ほど戦っていた指揮官の首が投げ込まれたのだ。


 スラヴァは慌てふためいて、せわしなくあたりを見回すが、どこを見ても自分の護衛が倒されている姿を目にする。


 相手はどうやら洗練された騎兵部隊だったらしく、大臣を護衛していた中隊はあっけなく全滅した。


 「何者だ!」


 スラヴァは一人になっても、近寄ってきた騎士たちに剣を抜く。


 「二ヴェナの外交大臣だな。 一緒に来てもらおう。」


 やがて騎士たちの間を割って現れたのは、パレヴァンの将軍ギョムチャクだった。






 「陛下。 パレヴァンめが、姑息な手を用いて我が国を脅かそうとしています。 早急なご決断を。」


 ウィンバートは、ミハルダから渡された茶色い汚れた書信を握りつぶした。


 ― よく聞くがよい。 そなたの外交長官は我がパレヴァンの手中にある。 帝国との同盟を即中止し、我々を盟友として迎え入れよ。 これはパレヴァンの王の意志である。 要求に応じなければ、外交大臣の命はないばかりか、我が王国がゼムヘイオと同盟を組み、貴国を滅ぼすであろう。 ―


 なぜパレヴァンは自分たちが帝国と同盟しようとすることを知っているのだろう?


 疑問と怒りが複雑に絡みあって、王は立ち上がった。


 「なぜだ? なぜ我々の動きが読まれておる? なぜだ、ミハルダ。 反対派の動きぐらい察知できぬのかーっ!」


 彼はミハルダの胸もとをつかんだ。


 「この中に裏切り者がいるのだ! ミハルダ、世はお前を疑いたくはない。」


 同盟よりも、今は大臣を救い出すことが必要だと彼は言った。


 「では、同盟の件はいかがいたしましょう?」


 「そんなものは後でよい。 義理と人情に欠ける王など王ではない! 我が大事な家臣を見捨てよと言うのか!」


 「と、とんでもない。 陛下のおっしゃる通りにございます。」


 ようやくミハルダは彼から手を放されると、苦しそうに首のあたりをさすった。


 「私でよろしければ、彼を救い出します。」


 「何?」


 名乗り出たのはジョパルだ。


 しかし場所も特定できないのに、どうして見つけることができようか。


 「探し出します。 たとえ場所がどこであろうと、私が言いださなければ、こうならずに済んだはずです。」


 「何か名案でも?」


 彼は帝国に少し待っていてもらう間に、パレヴァンに書信を送り、同盟したいからスラヴァを連れてきてくれと要求するのだと考えた。


 こうすればわざわざ探す手間が省ける。


 その隙に彼らに奇襲をかけるのだ。


 「姑息ですが、万事をうまく進めるためにはそれしか方法がありません。 ご許可を。」






 敵の方から返事がきたのは数日後のことだった。


 なんでも、スラヴァはガイナルクの洞窟に閉じ込められているらしい。


 ― 我が方の要求を受け入れてくれて何よりだ。 大臣は洞窟に閉じ込めてあり、調印式を終えた時点で解放する。 調印の条件として、まず難事の際には、我が軍に優先的に兵力を提供すること。 加えて、パレヴァンの兵士全てに食料を半分の値で提供すること。 以上を守る気があるなら、期日以内に使者を送ること。 なお、期日から数日たっても調印式に現れない場合は、即刻臣下を処刑する。 ―


 いかにもパレヴァンらしい、ごり押しとも言える内容だった。


 「これを受け入れることになったら、我が国は間違いなく滅んでいただろう。 ジョパル。 お主に感謝せねば。」






 「お前一人に、こんな大事な役を任せるわけにはいかん。」


 彼は一人で行くつもりだったのだが、国家の命運がかかっているのだという理由で、ティペスにハルヴェルト、それにべオコスまでもが同行してくれる。


 彼らは馬に乗った。


 「気をつけよ。 べオコス。 いくら無敗将軍とはいえ、陛下をがっかりさせてはいかんぞ?」


 「わかっております。 大臣長官。 それに、ブロンベルク。 陛下を頼みます。」


 老将は胸をはって任せろと言った。


 「行きましょう、将軍殿。 はあ!」


 ジョパルは勢いよく馬の腹を蹴り、手綱を引いて前進した。



 


 


 

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