魔法のえんぴつ
近世のヨーロッパ。そこに1人の青年がいた。彼は、売れない画家。画力に関しては申し分ないのだが、この青年の絵、何故か売れないのだ。
彼は、ある日天に向かって願った。売れたい、と。どんなかたちでもいいから売れたい、と。
そんな彼は、先日、道端に落ちていたそのペンを拾った。それがどんなものかわからないが、思わず手に取ってしまった。
その日、家に帰り、いつものようにキャンバスに向かう。しかし、筆は進まない。筆を持つ気にもならない。そして青年は、ボロの上着に入っていたあのえんぴつを取り出すと、クルクルと回し始めた。すると、面白いようにアイデアが溢れ出る。
すると、そのえんぴつは、みるみる形を変えていった。持ち手の形が変わったと思うと、えんぴつの先の鉛が溶けていき、それは白い、幾つもの毛になり、筆の穂となった。
彼は、頭の中に湧き出るアイデアを、次々にキャンバスに現実として描き出していった。手の疲れなど忘れ、ただひたすらに、家中のキャンバスに描き出して行った。
ふと気がつくと、暗かった空には、光が差し、靄がかかっていた。
「もうこんな時間か…」
欠伸をしながら部屋を見渡すと、至る所に絵が散乱していた。その絵は、どれも素晴らしく、売れば忽ち高値がつくだろう。
それを見た彼は、おもむろに席を立つと、家を飛び出していった。だが、その手に持っていたのは、素晴らしい絵の数々ではなく、一握りの硬貨だった。
彼は、帰ってくるなり、手に大量に持ったキャンバスに向かい始めた。ただ、ひたすらに、一心不乱に描き続けていく。そして、キャンバスや画材がなくなれば、また買いに行く。食費を削って。
金が無くなると、家の中の家具やら何やらを手当たり次第売り払った。自分の描いた絵だけを残して。
もうどれくらい経ったか。彼はまだ絵を描き続けていた。依然として絵のクオリティは高かったが、筆を握る手は痩せ細り、目には正気が無くなっていた。
彼は、突然、キャンバスに頭を突っ込んだ。事はきれ、その顔はミイラのようだった。
彼の絵は、死後に発見されると、瞬く間に人気が出た。世界中の富豪に買われ、様々な美術館に展示がある。
かくして、彼の夢は、死後に叶った。
持ち主に小説、絵などの「かく」才能を与えるえんぴつ。はたしてそれは、神からの贈り物か、はたまた悪魔からの贈り物か…