未定
「ください。ください」
残暑奮わぬキヤンパスの路にて、チラと後ろを振り向いた。
あら、少女。あらあら。
私の大学の歳の頃なんかは、現在きらびやか老若男女広き門のようにはいかず、家柄も区別される時代でしたので迷い子かそれとも迷ったのは私の頭の方かとも考えたりし結局、
「迷いしは赤門に行くとよい。どれ、案内くらいは努めよう」
面白みもなく飄々にジエントルマンきどっては手引き歩もうとするも少女続かず。
訳も言わず、只、なにやら呟いて止まず。
「ください。ください」
え、え、もう一度。
「ください。ください」
聞こえてはいるが、もういいわと言わせようと意地悪しても虚しいばかり。
「くださいってったって名乗りもせずに失礼なもんじゃないかい。それに何を取らせばいいかも分かりゃしない」
女はぶつぶつを止め小さく
「かなこ」
そして消え入るように
「私を雇ってください」
確かにそう言った。
かなこと名乗ったその女は歳を十八。どうやら正式に本学の生徒であるらしい。では家柄も相当なはずだがどうして雇えなどと。
「私の家は辺境の子爵位でして、領地の分配も進んだ今の日本、小さき名が何の役にたつでしょうか。家は伯爵家のおこぼれにより存続しており、娘の私はメイドとして出される為ここで学と技を身につけなさいとの事です」
おやまあ、なんとなんと。一度口を開けばこの娘のまたよく喋ること。まあそういう理由ならと思ったが、まずは故郷の名を聞かせてもらおうか。
するとさてさて、気になって聞いてみたものの口から出た名は耳の覚えにある。あすこの伯爵家と言えばとても博学で、確か讀物もなさった。
これは占めた。まあ待てお嬢さん。それならば私に案がある。
『文藝部』
その後私は赤門に歩む道を引き返し、とある学棟へと少女を導いた。
扉の前にて
「ここからは貴女次第である故、開けずとも許されぬ事では到底なし。ただ此処にて学べば新しき道を開くもある。開かずとも文藝の学と技は伯爵家にて役に立つであろう」
速やかに下がり消え失せよう。とも言うのもこうまで煩くして少女が踵を返した際の気恥しさを想うからである。私の為に見ない方がよろしい。明日会えば少女は初対面。
さて、語りうる事はここで終いで仕舞い。なんとも拍子抜けな、起承転結何が抜け落ちて何が足り得るのかすらハッキリしない愚作である。
しかしコレは挑戦でありまた挑発でもある。つまり何が言いたいかと言うとこの話、実は実話なのでありまして、多少舞台に脚色を加えたものの起きた事に関してはホントに有ったものなのです。
いえ、嘘です。そんな事一切ありません。逆に実際に起きたことを探す方が難しいくらいです。もしかすると私の学友にかなこなんて名の女性がいたかどうかそのようなものでございます。物書きなんてのはこんなペラペラな嘘をついても成り立つものでして、それで売れるとは流石に烏滸がましくて言えませんが。
つまるところ私の言いたいのは、書きたいことを書けばよろしい。それが不評であれ駄作であれ作者にとってはれっきとした作品であり、一人の子供のようなものだということでして。
こうやってだらだらと言い訳じみたことを言い回すと読み手への配慮が欠けるだのなんだのと、そんな事を言っていては売れる作品は書けても満足のいく物はそう書けないでしょう。
二度目になりますが貴方がただ書けばそれは一つの作品です。それをゆめゆめ忘れぬように。書くための第一歩は私達文芸部がお支えしましょう。