紅の剣
俺は現在非常に困っていた。いきなり人攫い扱いを受けたかと思うと彼女たちは臨戦態勢をとり始め、絶対に逃がさないと言うかのように包囲しはじめた。
「命が惜しいならその子を開放してここから去れ!さもなくばここで殺させてもらう!」
そう言うのは金髪碧眼の長髪の女冒険者?で、俺に最初に声をかけてきた人物だ。
「待ってくれ!それは誤解だ!彼女はシリルと言って、俺と旅をして冒険者ギルドを目指している最中なんだ!」
一体どこまで信じて貰えるのか分からないが、せめて少しくらい弁解しないと!戦闘に入っても負ける気は全くしないが、説得できるならその方がいい。そもそも誤解だしな。
「嘘をつくな!そんな可憐な天使のような少女が、お前みたいな山賊とも盗賊とも思えるような奴と一緒に行動するものか!仮に本当に彼女がお前と行動を共にしているというのなら、それはそうせざるおえない状況だったのだろう!今から私たち『紅の剣』がその子を保護させてもらう!そして、私のことをお姉ちゃんと呼んでもらうのだ!」
おっと。今のセリフから何やら彼女の特殊な性格が把握出来るぞ。
「なぁクリス?この人が嘘言ってるようにも見えないし、悪人と決めつけて行動するのはどうかと思うぜ?一応お前がリーダーだからこうやって従ってるけどよぉ」
ナイスだ赤髪短髪のヤンチャそうな女の人!
「イーシャの言う通り。それに、私たちは元々事情さえ聞いて問題なさそうならいいって言った」
更に援護射撃をしてくれたのは、青い髪をしたミディアムボブのクールそうな女の人。
「イーシャぁぁ。それにウルルまでぇぇ。こんな山賊顔した人があんな可愛い女の子背負ってるのよ!?嘘ついてたらどうするのよ!?」
「だったらついて行ったらいい」
「おっ!?それナイスアイディアだぜ!どうせクエスト報告のために一度ギルドには戻らなきゃいけないんだ!監視って名目で一緒に行きゃいいじゃねぇか!」
こちらの事情もお構いなしで話が進んでいく。まぁ危害を加えてこないなら別に俺はそれでもかまわないか。起きたときシリルがこの状況を見てなんて言うかなぁ。
「もう!分かったわよ!一応それでいきましょう!ということでそこの山賊顔の男!そういうことで良いわね!?」
彼女はそう言って剣の切っ先をこちらに向けて、こちらの理解を促してくる。
「とりあえずそれで良いからその物騒な剣をしまってくれ。それから俺はナオトだ。よろしくな」
「あなたの容疑はまだ晴れたわけじゃないんだからよろしくなんてするわけないでしょ!?」
「アタイはイーシャってんだ!よろしくなナオト!」
「ん。ウルル。よろしく」
「ちょっとあんた達!?」
「どうせ今回もクリスの早とちりなんだし、自己紹介くらいしとけよリーダー!」
そう他のメンバーに窘められて諦めた彼女は名乗りを上げた。
「まだ早とちりと決まったわけじゃないでしょう!?・・・とりあえず私はクリス!新進気鋭のCランクパーティー『紅の剣』のリーダーをしているわ!」
Cランクっていうのがどれほどのものなのか分からないが、彼女の自信満々な名乗りを見ると凄いことなんだろう。
「とりあえず、先頭を私が行くわ!イーシャとウルルはその天使を背負ってる男を中心に後ろ側で左右に分かれて!」
「まぁ、あいつも悪い奴じゃないんだ。可愛い女の子を見ると暴走するけど、気にしないでくれると助かるぜ」
そう言ってイーシャがクリスのフォローに回る。
「ああ。君らを見ていたらそうなんだろうなっていうのは分かるから。顔で判断されたりするのもよくあることだしね」
前の世界でも全然知らない人にはヤのつく職業の人と間違えられたり、ちょっとコンビニに行ったりするとやたらと周りのお客さんがビクビクしてたりで、恐縮することは多かった。
「はは!あんた顔のわりに気がいい奴だな!冒険者ギルドの男連中にも見習わせたいぜ!」
そう言って彼女は持ち場についた。
「そういえば冒険者ギルドがある街まであとどれくらいか分からないんだが、歩いてどれくらいかかるんだ?」
その疑問に答えたのは意外にもクリスだった。
「そんなことも知らずに旅を続けてたなんて呆れるわね。ここからなら大体丸2日ってとこかしら。特に問題が起きなければ3日目の昼には冒険者ギルドのある街、「ユーフォレスト」に着くわ」
「そこって冒険者ギルドがある以外にどういう街か知らないんだが、他に何があるんだ?」
その疑問に答えたのはウルルだった。
「ダンジョン。ユーフォレストはエルフの領土にあるダンジョンを中心に中立都市と領土を超えてダンジョンのために作られた街なの」
「それは、街の管理が大変そうというか面倒くさそうだな」
ダンジョンって領土の境界ギリギリにあったはず。それを中心に街が作られているなら街を治める領主とかどうなっているんだろう。
「それなら特に気にする必要はないぜ!冒険者ギルドがそのまま領主も兼任してんだよ!だからこれからいく街はエルフの領土でもあるから必然的にギルドマスターはエルフがやってんだ!」
イーシャはそういうが、ギルドマスターと領主の兼任とか忙しくてブラック企業も真っ青じゃないのか。まぁ俺がこんなこと考えてもしょうがないか。それで仕事が回せているなら問題ないんだろう。
それから俺たちは歩くこと数時間。夕方に差し掛かってシリルが目を覚ました。
起きたとき、知らない人間が3人も増えていたから流石に戸惑っていた。そして俺は事情を話した。その間、彼女たちは野営の準備中だ。
「というわけで、彼女ら紅の剣が一緒に連いてくることになったんだ」
「なるほど」
事情を説明するとシリルは神妙な顔をしていた。一体どうしたんだろうか?
「ねぇシリルちゃん!?こんな山賊顔の男に嫌々ついていく必要ないんだよ!?今なら私たち紅の剣がいるから、あなたを守ってあげられる!私たちと一緒にいきましょう!?」
「あなたアホですか?」
シリル!?いきなり辛辣すぎない!?
「シ、シリルちゃん・・・?」
「そもそもナオトさんは私の命の恩人なんですよ!!!こちらの事情を知らないとはいえ、言うに事欠いて私のナオトさんを人攫い扱いですか!?」
シリル。俺はお前のものになったつもりはないぞ。それと、君も山賊扱いしたの忘れてないぞ。
(ロリコン)
(アカリも思い出したように罵倒するのやめてね)
「わ、私はシリルちゃんのためを思って・・・それにそんな山賊顔の奴なんかより私たちと一緒のほうが・・・」
「そんなこと、私がいつ頼んだんですか!?それにナオトさんのことをそんな言い方するのやめて下さい!!いいですか!?ナオトさんは」
ん?シリルは一体何を言うつもりだ?
「ナオトさんはあの強面の勇者様ですよ!!」
「「「「ええええええええええええええええええ!!!!」」」」
一体なに言いだすのこの子!?
「なんでナオトさんまで驚いてるの!?」
「いや、俺そんなのになった覚えないよ!?強面の勇者とか恥ずかしいからやめて!?」
「何故!?」
俺はシリルがいきなりアホなことを言い始めたから窘めていた。するとクリスが低い声で喋り始めた。
「やはり・・・やはりあなたはこの子を騙しているんですね!?」
えええええ!?なんかクリスが剣を抜いて殺気だってらっしゃる!?
「お、落ち着け!?それとなんでそんな殺気だってるんだ!?」
「学のないあなたに教えてあげましょう!昔、強面の勇者の神託が広められたとき、それこそ強面の顔をした山賊や盗賊たちが我こそは強面の勇者だと名乗り始めた愚か者が増え、村々から金や女を奪うなんていう事件が相次ぎました!それ以降、強面の勇者を名乗ることはこの世界では禁忌とされ、もし名乗ればその者はどの国の法律でも死罪なのです!」
確かにそれはありそう!クロノス様!流石にこの神託はやらかしてますよ!
「あなたはこんな純粋な少女を騙した詐欺師!!更に、強面の勇者を名乗るなど恥を知りなさい!!」
「まてまてまて!?俺は強面の勇者を名乗ったことなんて一度だってない!!なんならシリルがそう思っていることも今初めて知ったくらいだぞ!?」
「うるさい詐欺師!!覚悟!!」
「「クリスまって!?」」
この子思い込んだら一直線だな!?仕方ないので俺はその振り下ろされた剣を親指と人差し指で掴み取る。
「「「なっ!?」」」
振り下ろした剣はクリスの全力だったのだろう。他の2人も俺が切り殺されるところを想像していたのか3人揃って驚いている。
「とりあえず話をしたいんだが」
「くそ!?離せこの詐欺師め!!」
クリスは頭に血が上っているのか、こちらの話を聞いてくれそうにない。
「やめろクリス!!!それは流石にやりすぎだぞ!!!」
「イーシャの言う通り。それに彼は自分で名乗ったわけじゃないと言ってる。さらに彼らの事情も何も聞いてない」
「くっ・・・!!分かった。私が悪かった。すまないナオト」
そう言ってクリスは頭を下げて謝る。
「いや、誤解が解けたならいいんだ。それに強面の勇者なんて言ったのはシリルだからな。ほらシリルも誤解させるようなこと言ったんだから謝ろう」
「何故そんなナオトさんに剣を向けるような人に謝らなきゃいけないの!?」
「シリル。彼女たちは悪い子たちじゃない。確かに思い込みは激しいが、シリルを心配して行動してくれたんだ。それに誤解を与えたのはシリルの発言だぞ?ちゃんと謝ろう」
「ナオトさんがそう言うなら・・・ごめんなさい・・・」
「シリルちゃん・・・!!じゃあこれからは私のことはお姉ちゃんと呼んでね!?」
「それは嫌です」
「そんな!?」
「「「ははははははは」」」
まぁ何はともあれ、打ち解けたってことでいいのかな。それから俺たちは野営の準備を再開した。見張りは彼女たちがやってくれるらしく、クリス曰く「私はまだあなたのことを信用していませんので!」とのこと。そして流石に彼女たちに俺のアイテムボックスのスキルを秘密にしておけるわけもなく、彼女たちは驚いていた。
そして俺たちは彼女たちにこれまでのことを説明していた。
「悪魔・・・ですか・・・」
「信じるのか?悪魔って空想上の生き物だろう?」
それはあの男爵級悪魔自身が言っていた。この世界では悪魔は空想上の生き物でしかないと。
「最近、いろいろな場所で人が襲われる事件が相次いでんだよ。魔物に襲われてるわけでもなさそうで、村だけじゃなく小さな町でも行われているようでな。ここ中立国家では憲兵だけじゃ手が足りなくて、冒険者で治安維持部隊を作って調査してるんだが結果は何も分からねぇ。アタイたちも国が出したクエストとして村々を回って、異常がないかの調査の帰りだったのさ」
なるほど。そこで偶然俺たちに出会ったのか。
「その話が本当なら、ギルドマスターに報告したほうがよさそうね。その話が本当なら」
なんで2回言った?
「ちなみにクリスたちが回った村や町には特に異常はなかったのか?」
「幸いと言っていいのでしょうね。特に何もなかったから注意喚起だけして帰ってきたわ」
それは不幸中の幸いなのかもな。平和に暮らしていけるならそれが一番だ。
「とりあえずユーフォレストに着いたら真っ先にギルドに行くわ!ナオトたちにも同行してもらうわよ!」
「ああ、了解した!」
「方針も決定したし今日はもう休みましょう。見張りは私たちがするから、あなたたちはもう寝なさい。言っとくけど、シリルちゃんの寝込みを襲おうとかしたら切り落とすからね!?」
何処を!?
「そんなことするわけないだろ!?シリルはまだ子供だぞ!?」
「私はナオトさんが望むならいつでも・・・」
「君はちょっと黙ってようね!?また話がややこしくなるから!?」
(ロリコン)
(アカリ。今回の話でロリコンしか言ってないからな?完全にロリコンbotだからな?)
「とりあえず俺たちは寝る前にちょっとやることがあるから、それが終わったら寝ることにしよう」
「ヤることですって!?やっぱり切り落とされたいのかしら!?」
「今の言い回しは俺が悪かったから落ち着いてくれ!?ただ単に魔術の修行をするだけだ」
「「「魔術の修行?」」」
君たち3人とも凄い息あってるな。そんなハモるか。
「簡単に言うと魔法とは違う魔法のようなものだ。スキルがなくても使えるけど、それ相応に訓練しなきゃいけないんだ」
「魔法スキルがなくても魔法が使えるのか!?なんだよそれすげぇじゃねぇか!!」
「それ、私も興味ある」
「あなたたち正気?嘘かもしれないじゃない?」
彼女らの好奇心に火をつけてしまったようだ。クリスだけは未だ俺を疑ってかかってるけど。
「と言っても流石に俺がずっとついて教えてあげられるわけじゃないし、教えられるとしたら魔力感知と魔力操作までだと思うぞ」
「それでもいい!教えて!」
なんかやたらウルルがグイグイくるな。
「ウルルは昔から魔法にメチャクチャ興味あったんだよ。けど成人の儀では魔法スキルは貰えなかったから落ち込んでたんだ」
「魔法スキルなんて貰えたら、貴族から妾に選ばれるレベルの希少なスキルなのよ。狙って出せるわけでもないんだから期待しすぎだったのよウルルは。そもそも隠密スキルをいただいたんだから贅沢でしょ」
「ということはウルルは貴族の妾になりたかったのか?」
「違う!ただ昔から魔法を使ってみたかっただけ!もし使えるようになるのなら、私をあなたの女にしてもらってもいい!」
「「「「は!?」」」」
なに言っちゃってくれてんのこの子は!?というかこの世界の女の子は自分を安売りしすぎだろ!?
(ふむ。年はJKくらいか。しかしマスターの結婚相手にするにはまだまだ幼すぎますね。このロリコン)
(ロリコン以外も喋るようになったかと思ったら結局最後に付け足すのね)
「何を言ってるんですか!?ナオトさんの女ならもうここに居るんですからあなたは引っ込んでいてください!!」
「ナオト!!!お前というやつは、シリルちゃんのみならずウルルまで!!!その粗末なものを即刻切り落とされたいらしいな!!!」
こっちはこっちでなんかヒートアップしてるし!?
その後も騒がしくしつつも野営の夜は更けていったのだった。