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あなたを決して忘れません

 メリルがシリルの胸を貫いた。あれだけ修行して師匠たちからもお墨付きをもらったのに、数で攻められると俺のやれることは一気に狭まってその結果、1人の少女の命が散ってしまった。



「はははは!いいタイミングだったな!君が何をしたのかは分からないが、結局守ろうとした村人は1人死んでしまったわけだ!なぁ!?今一体どんな気持ちだい!?必死に守ろうとしていたのにあっさりと目の前で村人を殺されてさぁ!?」



 そう言われ、悪魔への悔しさよりも俺は無力感に叫びだしそうだった。そんなとき、シリルから感じていたシリルとは別の気配が大きくなっていっていることに気づいた。それと同時にシリル自身が光の膜のようなもので覆われ、シリルの胸を貫いたメリルはその光の膜に触れると同時に消失していた。そして気づけばシリルの胸にあるはずの傷はきれいに塞がっており、シリルの傍には薄ボンヤリとしているが、1組の男女がシリルを守るように立っていた。



「なんだよこれ!?なんなんだよこれ!?」



 悪魔はかなり慌てふためいていたが、俺も何がなんだかわからない。だが1つだけ確かなのは事態が好転したというのは分かる。



「どうやらお前の思い通りにはならなかったようだな!」



「使えない眷属どもめ!?まぁいいさ。そういう君も隠そうとはしているけど満身創痍なんだろう?僕直々に捻りつぶしてあげようじゃないか」



 そう言って悪魔はニヤニヤとして俺に手のひらを向けた。



「ダークジャベリン!!」



 悪魔はそういうと複数の闇属性の槍が一斉に襲い掛かってくる。それを俺は短距離転移で避けたが、今のはなんだろう?魔術構築がない?



(アカリ!今の魔術、魔術構築が一切なく行使されたみたいなんだが何かわかるか!?)



(それは多分あれが、魔術ではなく魔法だからだと思うよ!魔法は発動に魔術構築を必要としないの!その事象だけを投影して反映されるから魔術構築を探ろうとしても意味ないよ!)



(そんなこと師匠たちに習ってない!?)



 アカリと心の中で会話しつつ敵の攻撃を避けまくる。



(それは多分必要ないと判断したんじゃないかな?魔法スキルはスキルさえあれば練習なしに自然と出来るようになるけど、魔術ほど自由度がないんだよ!)



(必要はなくても知識として教えておいて欲しかった!?まぁそういうことなら特に気にする必要はないな!さっさと倒してしまおう!)



(マスター!決着をつけるなら止めは聖魔術を使ってね!刀に聖属性を付与でもいいけど、このまま普通に倒すだけだと爵位持ちの悪魔の場合依り代になってる肉体が消滅するだけで、悪魔本体は魔界に送り返すだけになっちゃうから!ちなみに普通の悪魔の場合はそこまで高度なことは出来ないから、今まで倒した眷属の悪魔はちゃんと倒せてるから安心してね!)



 後だし情報が多すぎる!?とはいえライラ師匠も聖魔術を使えって言ってたしそういうことだったのかもな。



「さっきからちょこまかと避けてばかりですね!反撃すらできませんか!?ダークレイン!」



 そういうと上空から闇魔法で行使された攻撃が俺めがけて降ってくる。



「だったらお望みどおり反撃してやるよ!転移!」



 そして俺は悪魔の目の前に転移し、悪魔の手足を切り飛ばした。



「ぐあああああああああああああ!!!!」



「ほらお望みどおりしてやったぞ」



「くっ!この肉体はもうダメみたいですね!しかし僕は男爵級の悪魔だ。この肉体が滅びたとしても魔界に返るだけなんですよ!あなたは聖魔法のサンクチュアリは使えるみたいですが、攻撃方法はその持ってる剣のみなのを見ると攻撃魔法は使えないのでしょう!?残念でしたね!?ははははははは!!!」



 そう悪魔は言うと勝ち誇ったように笑い始めた。



「楽しそうなとこ悪いが俺は刀でしか攻撃出来ないなんて言った覚えはない。それと俺のこれは魔法じゃなく魔術だ」



 俺はそう言いながら付与魔術を使い刀に聖属性を付与する。



「な!?剣に聖属性が!?これは付与魔法!?あなた、いったいいくつ魔法スキルをもっているのですか!?」



 俺はそのまま地面に倒れている手足の失った悪魔を左手で持ち上げ上空に放り投げたあと細切れにした。



「だから魔法じゃなくて魔術だって言ってるだろうが」



 俺はそう言ってそのまま剣を納めた。一晩中戦い続けていたのだろう。空は段々と明るくなり始めていた。



「そういえばシリルは!?」



 シリルの存在を思い出した俺はシリルが倒れていた方を確認する。そこには倒れているシリルと、愛しそうにシリルを見守る2人の男女、もうかなり薄れていっているが間違いない。ダリルさんとメリルさんがそこに居た。念のためシリルの状態を鑑定で確認しておこう。



 シリル(気絶)


 レベル   3


 生命力   69/69


 魔力    34/34


 戦闘力   15


 スキル

 ???



 良かった!ちゃんと生きてるみたいだ。正直あの瞬間は何がなんだかわからなかったが、きっとシリルの両親が死してなおシリルを守っていたんだと思う。そして今、その役目を終えたとばかりにどんどん気配が希薄になっていく。



『・・・・・』



 2人がこちらを向いて頭を下げてきた。



「はい!わかりました!」



 ダリルさんたちがなんて言ったのかはわからない。けどなんとなく、シリルを託された気がした。俺にはやることがあるが、もしシリルが旅について行きたいと願うなら俺の旅に連れて行こう。もしこの村に残るなら俺が出来る範囲で彼女が生きていけるように援助しよう。その俺の決意が伝わったのか、シリルの両親は安心しきった顔でゆっくりと消えていった。消えた先では朝日が昇り始め、シリルの気配は彼女だけとなっていた。



 もうサンクチュアリも必要ないし、解除しておくか。



「もう化物はいないのか!?」「私たち生きてる!生きてるのね!」「あの旅人が俺たちを助けてくれたみたいだ!!」「なぁ?あそこで倒れているのはシリルじゃないのか?」「本当だ!?あの化物どもの子供だ!今なら気絶してるだけみたいだぞ」「確かに!!殺すなら今のうちだ!!また化物になられたらたまったものじゃねぇ!!」



 なんだか村人たちの会話に不穏なものが混じっている。これはまずい流れかもしれない。



「皆さん聞いてください!!あの化物・・・悪魔は全員俺が倒しました!!今この村に悪魔は居ません!!」



「そんなこと信用出来るか!?」



 彼はダリルさんになりすました悪魔が、夜中に呼び出していた見張りの中年男性、ユンゲルさんだった。



「他に悪魔に変わったのはダンのところにイビルのところもだった!他は例外なく家族全員悪魔だったのにそいつだけが悪魔じゃないなんてありえるもんか!!」



 確かにその見方で言えばシリルの両親はどっちも悪魔だったのに、子供のシリルだけがそうじゃないってのは不自然に見えるだろう。



「確かに」「アレンのとこもそうだったぞ」「ユークのとこもだ!」「ということはシリルも悪魔!?」



 この流れはもうどうしようもないかもしれない・・・俺は魔力感知で悪魔と人間の違和感を感じることは出来るが、俺と同じことを求めても無理だろう。



「・・・信じてもらえないかもしれませんが、俺には魔力感知という周りの魔力を感知出来る能力があります!その魔力感知が出来る俺が今は悪魔の魔力はないと感知出来ているんです!ユンゲルさん!あなたが最初に殺されそうになっていたとき俺はあなたを助けました!それは俺がダリルさんが悪魔だと気づいていたからです!」



「それこそ怪しいな!お前はシリルが連れてきて、ダリルが村に入るのを許可した人間だぞ!そうだ!お前も悪魔なんじゃないのか!?」



 この人言ってること無茶苦茶だぞ!?人を疑いすぎて何も信じられないんだろう。



「いや、でもこの人の言ってることももっともじゃないのか?」「あの人が居なかったら私たち確実に殺されてたものね」「俺たちじゃ判断できないし、村長も居ないからな・・・」「とりあえず、追い出すくらいしか出来ないんじゃないか?」



 少しは信じようとしてくれている人は居るようだ。ただ、村人たちも混乱してるみたいでどうしたらいいのか分からないみたいだな。



「出ていけというなら俺はすぐにでも出ていきましょう。ただシリルも追い出すというのなら彼女は俺が連れて行きます。今は意識を失っているので、せめて意識が戻るまでは待ってくれませんか!お願いします!」



 流石に命の恩人が下手(したて)に出てお願いされたら断りづらいのか反論してくる人は居なかった。



「シリルが起きたらすぐに村から出て行ってもらうからな!!!」



 ユンゲルさんは鼻息荒くそう言うとその場から去っていった。とりあえずここでこのまま寝かせておくわけにもいかない。胸を貫かれて服も破れてしまっていたので、俺はローブを上からはおらせてシリルの自宅に向かった。







 ???視点



「あ~あ。せっかくここまで準備したのになぁ。しかもよくよく調べてみるとあの子の方が悪魔召喚の素体に良かったから、改めてグランドグリズリーをけしかけて自分の手を汚さず素体を手に入れようとしたのが徒になっちゃった。一番初めの時に悪魔召喚を出来れば良かったけど、あの時は悪魔召喚をもうやっちゃった後だったし、もう一度悪魔召喚が出来るようになるまで半年かかるから、あいつらには殺さないよう言い含めてたけど、自分たちが不利だからって衝動的に殺そうとするんだからビックリしたよ。まぁ何故か死なずに済んで素体は守られてるから良しとしますか。爵位持ちの悪魔とはいえ男爵程度じゃあの程度だってことも分かったし今度はもっと高位の悪魔を召喚しないとね♪君には期待してるよシリルちゃん♪それにしてもあの男は何者なんだろうね。男爵とはいえ爵位持ちの悪魔をああも簡単に倒すなんて。少し計画を変更する必要があるかもしれないな」



 ここはナオトたちが居る村を一望できる場所にある小高い丘の上。そこで男とも女とも分からない風体をした人物が居た。話の内容から察するに彼、もしくは彼女がシリルの両親を殺し、蘇生魔術、いや悪魔召喚なるものをした本人なんだろう。



「とりあえず、あの男に目を付けられてもまずそうだから少し活動は控えることにしてあの男のことを少し探ろうかな♪」



 その人物はそういうと一瞬でその場から消えるのだった。








 ナオト視点



 あれから俺はシリルをベッドに寝かせ、傍で看病していた。といっても不調なところは見られないから、起きるのを待っているだけとも言えるが。



(マスター。女の子の寝顔をそんなにも見つめてるなんてどうかと思うなぁ。端的に言うとドン引き)



 ドン引かれた!?



(いや違うから!?ただ純粋に心配してるだけだから!?)



(どうだかー?それにしてもどうするのマスター?この子連れて旅続けられるの?)



(続けるさ。俺はダリルさんたちにシリルを託されたんだから)



 俺の思い込みかもしれないけれど、それでもこのままだと彼女はこの村を追い出される。どっちにしろ放っておくなんて出来るわけない。



(しょうがないなマスターは。マスターがそういうならサポートするのがサポーターの役目だからね!!ドンと頼りにするといいよ!!)



(頼りにしてるよ相棒)



(任せなよ相棒♪)



 なんか嬉しそうだな。アカリとそんな風に会話していたらシリルが起きだそうとしていた。



「・・・ん」



 その声に反応してシリルを見ると目元からは一筋の涙がこぼれ落ちていた。



「シリル。大丈夫か?意識がなくなる前のこと覚えてるか?」



「ナオトさん・・・うん。覚えてる。というか実は気絶した後のことも何故か覚えてる。この後この村から出て行かなきゃいけないことも」



 驚きだった。説明する手間が省けるのは助かるが、それを知っているということは村人たちが自分を殺そうとしていたのも知っているのだろう。こんな子供があんな大人たちから殺意を向けられたんだ。ショックだろうな。



「ナオトさん。実はさっきまでお父さん達と一緒だったんだ。そしてそこで半年前の真実を聞いたの。聞いてくれる?」



「ああ。俺で良ければ聞かせてもらうよ」



 そうしてシリルは語り始める。それは半年前の真実。半年前、初めてグランドグリズリーにあったあの日、両親は殺され、謎の人物が悪魔召喚を行ったらしい。ダリルさんたちは死んでもなお娘を守りたい一身で魂の流れに逆らい娘の傍を離れようとしなかった。



(凄いな。俺は自分で望んで死んだからとはいえあの流れに逆らえるなんて・・・)



(マスター・・・)



(ごめんアカリ。今の俺は大丈夫だから)



 しかし今回シリルが殺されかけ、ダリルさんたちは強く望んだそうだ。「シリルを助けたい!」と。そう思った瞬間、あの光の膜でシリルを守り、負った傷が塞がったとのこと。しかし同時に2人はこのままだと、もうシリルと一緒に居ることは出来ないと悟った。そこであの悪魔を倒した俺にシリルを託すことに決めたみたいだ。



「ねぇナオトさん・・・どうしてお父さんたちは死ななきゃいけなかったのかな・・・私たち、何も悪いことしてないよ・・・?私、夢はあったけど、それが叶わなかったとしてもこのまま普通に生活して結婚して子供産んでそんな普通の生活が続くんだと思ってた・・・そりゃいつかはお父さん達とはお別れしなきゃいけないのは分かるけど・・・こんなお別れ嫌だったよ・・・っうっ・・・」



「シリル。今は泣いていい。思いっきり泣け。これからのこととか色々不安なこともあるだろうが全部俺がなんとかしてやる。だから今は両親を想って泣いていいんだ」



 俺はシリルの気持ちが痛いほど分かった。何故なら俺にも身に覚えがあるからだ。突然の家族の死は受け入れるのに相応の時間がかかるものだ。



「うぅ・・・ナオトさん・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!お父さん!!!お母さん!!!」



 今は泣かせておこう。俺は抱き着いてきたシリルを抱きしめ返し、シリルが泣き止むのを待ったのだった。








 どれくらい時間が経っただろうか。30分か1時間か。シリルが落ち着いたのを見届けて俺たちは旅支度を始めていた。



「シリル。とりあえず行く当てとかあるか?」



「とりあえず、南東にある冒険者の街である中立都市リントブルムに行こうよ!ナオトさんの強さなら冒険者としても成功出来るはずだし、道中にある街で冒険者登録出来るからそこで登録してお金を稼ぎながら目指すのがいいと思う!」



 シリルはさっきまで泣いていたのが嘘のように振舞っている。きっとそうしないと自分を保てないのだろう。俺は1か月も家に引きこもっていたのに。本当に強い子だ。



「冒険者の街に冒険者登録か。確かにお金は必要だな」



 金策のことなんてまるで考えていなかった。我ながら呆れる。



「ある程度の路銀は家にあるお金を持っていこう!さっき調べたら金貨5枚と銀貨5枚あったからそれを持っていくよ!ただ金貨はちょっと使いにくいんだよね。露店とかで売られてる肉串とかは1つ銅貨2~3枚だけど、金貨だと使おうとしても拒否されるだろうからね。仮に銅貨2枚の肉串を金貨1枚分買おうと思ったら500本買える計算になっちゃう」



 仮に銅貨1枚を100円としたら金貨は10万円ってことか。



「シリルは計算も出来るんだな。それは誰に習ったんだ?」



「街に来る商人さんにちょこちょこ教えて貰ってたんだ♪こういう知識はあって困ることはないからね!」



「そうれはそう!偉いねシリルは」



「えへへ♪」



 そして俺たちの準備が済み、いよいよこの村を出る。必要なものはアイテムボックスに入れてあるが、手ぶらだと流石に怪しいので、それぞれ袋の口を紐で縛っただけのリュックを持っている。まぁ流石にシリルの服を俺がアイテムボックスに預かるわけにもいかないし、そもそも服は貴重品なのかそこまで多くはなかったからかさばることはなかった。



 そしてこの村を去る前に1つだけ決めたことがあり、その目的を達成するためにそこに向かう。まぁ場所は目的地の通路上にあるしそんなに時間のかかることでもない。そうして俺たちは村の出口へと向かうと見張りのユンゲルさんが立っていた。



「今から村を出ます。お世話になりました」



「別にお世話した覚えはねぇよ。それとこれ持っていけ。村の皆からだ」



 そう言って渡された小さい袋の中には銀貨や銅貨が。大きい袋の中にはいくつかの干し肉などの食糧が入っていた。



「流石に命の恩人かもしれないやつを手ぶらで追い出すってのも違うってんで村の皆が用意したものだ」



「ありがとうございます。お金は大切に使わせていただきます」



「礼なんていらん。さっさといけ」



「ユンゲルのおじちゃん今までありがとうございました」



「ふん」



 あの人も何が真実なのか今もまだ混乱しているのだろう。この村を守りたいからこそ疑ってしまうのはしょうがないことだ。そして俺たちは村を後にした。



「いつかまた戻ってこれると良いな」



 俺はシリルにそう言った。こんな旅立ちだけど、ここはシリルの産まれた村でもあるんだ。いつかなんの憂いもなく里帰り出来るならそれがいい。



「戻ってこれる日が来るのかな・・・」



「今すぐは無理でもきっといつか戻ってこれる日が来るさ」



 そうして俺たちは歩くこと約1時間。俺たちは、初めて俺がこの世界に来た花畑へと来ていた。



「ここはね。お父さんとお母さんとでよく一緒にピクニックに来てたんだ。2人ともここが大好きだったし、私もここが大好きだった。お父さんがお母さんにプロポーズしたのもこの花畑だったってお母さんがよく惚気てたんだ」



 俺たちがここへ来た理由。それはシリルの両親の墓を作ってあげたかったから。あの村ではもう作ってあげられないだろうから、シリルの両親が好きな場所にお墓を作ってあげようとシリルに提案した。最初シリルは旅の道程が遅くなることを気にして遠慮していたが、これはご両親にシリルを託された俺のためでもあることを伝えると従ってくれた。



「ここなら湖も花畑もよく見えるし良いんじゃないか?」



「そうだね!ここにしよう!」



 そうして俺たちは墓づくりを開始した。と言っても遺体はないし、埋めるために深く掘ったりする必要はない。目印になりそうな大きめの石を2つ用意してそれを墓に見立てただけだ。



「お父さん、お母さん。今までありがとう。私はナオトさんについて行って冒険の旅に出るよ。次にいつここに来れるかは分からないけど、また元気なところを見せるために来るから。そのときは冒険の話をいっぱいしてあげるから楽しみにしててね?」



 そうシリルは言うとそのまま森の出口のほうへ歩き出した。



「もういいのか?」



「うん。もういいの。あんまり長居すると別れがたくなっちゃうし」



「そうか。そうだな」



「お父さん!お母さん!いってきます!」



 もう一度お墓のほうに振り向いたシリルは両親にそう言って前を向いた。



 ピンク色のカーネーションが風で吹かれ、俺たちを見送っている気がした。

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