冒険はきれいな花畑から
金色の光に包まれた俺は気づけばいつの間にか全然知らない場所に立っていた。
「ここがアルカディアか。ついに来ちゃったんだなぁ」
俺は新しい新天地への希望と、俺のことを誰も知らない世界への不安とでなんとも言えない感情に支配されていた。
(不安に思うことはないよ!専属サポーターのアカリちゃんがバッチリサポートしちゃうぞ☆)
(そういやお前が居たんだったな。にしてもノリが軽すぎて逆に不安になるわ)
(酷い!アカリはこんなに真剣なのに!!)
(悪かったよ。にしてもこの場所良いとこだな。遠くに湖が見える花畑なんてピクニックに来れば最高じゃないか?この花はピンクっぽいけどカーネーションかな?)
(そうだねぇ。サポートのお仕事なんて忘れてのんびりしたーい♪)
(いやそこはしっかりサポートしてくれよ!?とりあえず近くに村や街はないのか?それとよく考えたら俺、この世界の言葉とか分かんないんだけど大丈夫だよな?)
(全くしょうがないなぁマスターは。とりあえずマップを表示して説明するね。今は森の結構浅いところに居るみたい。そこから街道にでて右へ道なりに進むと村があるはずだよ。言葉に関しては転生するときに知識としてマスターの頭の中に詰め込んだみたいだから、話そうとしたら自然に話せるよ)
(知識として詰め込んだ?)
確かに意識すると、地球でも聞いたこともなさそうな言語があるのを確認した。神様なんでもありだなぁ。
(言葉は確認した。とりあえず森を出てそこに行こう。そういや俺の恰好ってこの世界の人間からしてみて大丈夫かな?ローブの下は想像した村人風な衣装になってるけど)
(特に問題ないんじゃないかな?冒険者ならその上から皮鎧なんかを着込んでたりするけどローブだけならワンチャン魔術師で通るでしょ♪)
(ノリかっる!?本当に大丈夫なんだろうな!?)
(イケるイケる♪さぁレッツゴー!)
俺は不安に思いつつ歩を進めることにした。まぁどっちにしろ行動しないことには何も始まらないからな。
そして歩みを進めること30分。遠くにようやく村らしきものを見つけたとき、魔力感知に反応があった。
森の浅いところに人の魔力反応が複数。それとは別に奥から人とは別の魔力反応が人の方へと近づいているのに気づいた。
(アカリ!今の魔力反応をマップに表示出来るか?)
(任せて!はいこれ!)
アカリはそう言うと俺の視界の端のマップに青い複数の点と赤い点が確認できる。魔力感知で確認した人の反応が複数あったからこっちの青い方が人だろう。ということはこの赤いのが・・・
(アカリ!この、人とは違う魔力反応ってやっぱり?)
(うん!魔物だね!このままだとこの人たちヤバいかもしれない!助けに行こう!マスター!)
(もちろん!アカリ!俺の視覚情報に目的地までの最短ルートを表示してくれ!出来るか!?)
(OK!はいドーン!)
アカリはそういうと俺の視覚に最短ルートが表示された。ナビゲーション機能、思った以上に便利かもしれない。
俺は全力疾走で森の中を進む!思った以上に森の中は進みにくいな!なんて思いつつもマップを確認すると魔物が人に接敵するところだった。
「きゃああああああああああああ!!!」
くそ!せめて視界に収めたところじゃないと転移魔術も使えない!生きてさえ居てくれれば治癒魔術でなんとか出来る!
俺は逸る気持ちを抑えつつ目的地まで急いだ。そして視界が開け目的地に到着。そこでは熊のような化物が1人の少女に止めを刺そうとしているところだった。
「させるか!!転移!!」
その言葉とともに少女と熊の化物の間に入り熊と対峙した。
「グワッ!?」「え!?」
「お前に恨みはないが諦めてくれ!幻想一刀流一の型【箱舟】!」
幻想一刀流はゼルク師匠から教えてもらった剣術。相手は自分が何をされたかもわからず幻想に魅せられながら死んでいくことからこの名前が付いた。そして一の型【箱舟】は相手に箱舟に揺られながら眠るような安らかな死を与えることが出来る。
ドスンッと熊が倒れ、俺は刀についた血を払い鞘に納めた。そして助けた少女を見る。服装を見ればおそらくこの先の村の娘だろう。茶色い髪に茶色い目をした少女が泣きそうな顔でこちらを見ていた。
「大丈夫だったか?」
俺は出来るだけ優しくそう言って笑いかけた。
「さ」
「さ?」
「山賊ーーーーーーーーーー!?」
そう言って少女は気絶して倒れてしまった。
これどうしようと頭を悩ませていると。
(ぶははははは!山賊っ!はははははははっ!ヒィー苦しい!あはははははは!)
(お前笑いすぎ!これでも俺は一応ショック受けてんだぞ!?)
(いやだって!まさか助けてくれた相手に対していくら顔が恐いからって山賊って!あっははははははは!)
(くそ!俺の顔が恐いのは俺が一番よくわかってるよ!転生特典でイケメンにでもしてもらえば良かったか・・・)
(それはダメ!そんなのマスターじゃない!)
(いや本気で言ってるわけじゃないけど。まぁいいや。とりあえずこの子が起きるまで見張っておこう。聞きたいこともあるし)
(そうだね。聞きたいことってことはやっぱり?)
(ああ。なんでこの子から他に2人の気配がするのかだなあ)
それとここまで近づいてようやく気付いたが、聖魔術に似たような気配が彼女から発せられていた
(アカリ。一応この子鑑定しておこう)
(そうだね。ほい、表示するよ!)
シリル(気絶)
レベル 3
生命力 56/69
魔力 34/34
戦闘力 15
スキル
???
(師匠たちじゃないのにスキルが鑑定出来ない?)
(多分それ、この世界の15歳になった時に行われる、成人の儀で付与される予定だからだと思う)
(この世界って成人になるとスキルが貰える仕組みになってるのか。ちなみにスキルなしの人も居るのか?)
(居るね。この世界だとスキルが付与されることも稀だから)
(じゃあ成人前の子供たちに俺のような鑑定スキル持ちがこうやって鑑定したら、どの子供がスキル貰えるのかすぐに分かるんじゃないか?)
(マスター。これは鑑定スキルじゃなくて鑑定スキルのようなものなんだよ。現にこの世界は相手のステータスみたいなのを覗いたりするスキルって無いんだよ)
(マジか。そういえば自分のステータスって見てなかったな。とりあえず現地人と比較するためにもちょっと自分を見てみるか)
ナオト=マダラメ
レベル 255
生命力 58466/58466
魔力 61287/61287
戦闘力 176300
スキル
アイテムボックス 精神異常完全耐性 状態異常完全耐性
(なんか俺の数値バグってない?というかホントに鑑定のスキルはないな)
(マスターの場合、その魔力と戦闘力は正直当てにならないよ。今のリラックスした状態での戦闘力だから戦闘態勢に入るとまた変わるし、魔術なんて体外魔力からいくらでも行使出来るじゃん。リアルチートなんて居るんだなぁって本当に思ったもん)
(あれは師匠がやらせてきたんだからしょうがないだろ!?出来なかったら死んだ方がマシな目に合わせられるんだぞ!?)
そしてアカリと言い合いながら30分ほど立った時どうやら少女は意識を取り戻したようだ。
「ん・・・」
「起きたか?」
「え!?山賊!?やっぱりあれは夢じゃなかった!?私を一体どうするつもりですか!?」
少女は起きてそう言ってまくし立てた。
「いや落ち着いてくれ。俺は君が危ない目にあいそうだったから助けに入っただけだ。外傷っぽいのはなさそうだったが、一応治癒魔術を使っておいたから特に痛みとかもないはずだ。体のどこかに不調はあるか?」
「え?」
そう言うと少女は体を確認して俺の言ったことが正しかったと理解したのか、今度は顔を青くして謝り始めた。
「本当にすいません!!まさか治癒魔法を使える神官様だったとは!!私に出来ることならなんでもします!!ですのでどうか家族に金銭を要求するのは待っていただけないでしょうか!?私のような小娘が出来ることは限られますが、神官様の要求には出来る限り答えますのでどうか!!!」
「いや落ち着いてくれ!?金銭なんて要求しないし、君に何かやってもらおうとも思っていない!それでも君が気にするなら近くの村で1泊、泊めてくれるだけでいいから」
「は、はい!そこで私の体を差し出せばよろしいでしょうか?こんな貧相な体で良ければ精いっぱいご奉仕します!」
「いやそういうのも要らないから!(ロリコン)(お前はちょっと黙ってろ!!!)とりあえず俺はこのあたりに疎いんだ。情報をくれるだけでいいから」
「わ、わかりました。神官様がそう言うのでしたら」
「その神官様っていうのもやめてくれ。俺は神官でもなんでもない。治癒魔術は確かに使えるけど他にも魔術は使えるし、剣も扱えるからな」
「え・・・!?そんなまるで勇者様みたいな・・・」
「勇者?」
「いえ!なんでもありません!それでなんと呼んだらいいんですか?」
そういえば自己紹介を全くしていなかったな。彼女の名前は鑑定で分かったが、自己紹介は大事だ。
「俺はナオト。ナオト=マダラメだ。君の名前は?」
「私はシリルと言います!近くの村の村長の娘で14歳になります。苗字まであるということはナオト様は貴族様なのでしょうか?」
「いや俺は貴族ではないが、もしかして貴族はみんな苗字を持っているのか?」
「はい!この国に苗字持ちは居ませんし貴族も居ませんが、北の王国の領地では苗字もちは基本、貴族のかた以外は居ません!」
うわぁ。それは流石に迂闊すぎた。今後自己紹介するときは苗字は伏せておこう。
「そうだったんだな。俺はちょっと特殊な生まれでな。あまり大っぴらにしないでくれると助かる」
「わかりました!ナオト様がそう仰るのでしたら墓まで持っていく所存です!」
決意が重い!!
「そういえばシリルはなんで1人でこんな森の中に?」
「あ、はい。実は薬草が切れかけていて。本来このくらいの浅い森の中はゴブリンすら遭遇するのは稀なんです。なのにこんなところでグランドグリズリーが出るなんて・・・」
あの熊みたいな化物、グランドグリズリーって名前なのか。名前メッチャ強そうだな。
「実は半年前にも遭遇したんです。そのときは両親と私とで近くの花畑へピクニックにいった帰りでした。森を抜けようとしたときに遭遇してしまい父は足止めをしてたのですが、それも叶わず私もやられそうになったとき、母に庇われて吹き飛ばされました。その後のことは父と母からしか聞いていないのですが、どうやらたまたま近くに冒険者が居たみたいで、その方が私たち家族を救ってくれ、死にそうになっていた父や母に治癒魔法を使って去っていったそうです」
花畑っていうともしかして俺がアルカディアへときたあの花畑かな?それはそうと1つ気になることがある。
「冒険者が居るってことは冒険者ギルドがあるんだよな?「あります」ならなぜそんな危ない魔物が出たのに冒険者ギルドへ森の調査の依頼をしなかったんだ?お金が足りなくて依頼が出せなかったとかか?」
「お金ならグランドグリズリーがそのまま残っていたのでそれを売れば十分依頼を出せる金額になったでしょう。しかし、確かにそうですね。私は家族の無事がわかった安堵感が勝っててそこまで考えていませんでした」
ふむ。まぁここで立ち話もなんだからとりあえず村に行きながらいろいろ聞いてみるか。
「なるほどな。気になることはまだあるが、とりあえず村に案内してもらえるか?」
「分かりました!まずは森を抜けましょう!」
そしてこの世界のことをある程度聞いて把握していく。なんでもこの大陸は大きく分けて5つの国に分けられており、東西南北と真ん中にそれぞれ均等に国があるらしい。その中で人族の国は北と南に分けられ北は王政の国で南は宗教国家らしい。西と東にはそれぞれエルフと獣人の国となっている。
真ん中は貿易国家の中立都市らしく、それぞれ東西南北の国境のギリギリにダンジョンがあり、そのダンジョンに行くため冒険者が一番集まってくる都市でもあるため、冒険者の街とも言われている。ちなみにそのダンジョンのある場所は中立都市にあるわけではなく、それぞれの国に所有権があるため国も冒険者を歓迎しているらしく、経済を円滑に回しているそうだ。とはいえ中立都市と言われるだけあり、いろいろな種族が出入りしていて、亜人差別なんか当たり前のように見かけるらしい。
一体そういう話をどこで聞いたんだとシリルに聞いたら村に出入りする商人からいろいろ情報を教えてもらっているそうだ。まぁ娯楽の少なそうな世界だもんなぁ。商人からの外の情報っていうのはいい娯楽になるのだろう。
そう話をしていたら村に近づいてきた。・・・つい魔力感知で村を確認してしまったが、この村かなり違和感のある魔力を持つ人が多いな?なんだこの魔力。
そして見張りが見える位置までやってくるとなんだか見張りの人たちが慌ただしく動いている。何かあったのだろうか?そう思い警戒しながら村に近づいていくと。
「止まれ!!」
急に大声を出されて警告された。
「お前!この村に一体何の用だ!?その横に居るのは村長の娘のシリルか!?彼女をどうするつもりだ!?」
なんだろう。また酷い誤解を受けている気がする。早く自分のことを話さないとまた山賊扱いされそうだ。
「俺は訳あって旅をしているナオトというものです!彼女はグランドグリズリーに襲われているところを助けたところ、寝床を1日用意してくれるそうなのでお言葉に甘えてここまで来ました!」
「なんだと!?嘘をつくな!こんな場所でグランドグリズリーなんか出るわけないだろう!!」
あちゃー信じてくれないか。実はアイテムボックスの中に実物はあるが、ここに来るまでの間にアイテムボックスがかなり珍しいスキルだというのはシリルから聞いていたので、出来たらこんなところで公開したくはない。
「本当だよおじちゃん!このナオトさんが居なかったら私、魔物に殺されてた!だからその恩を返すためにも寝床を用意してあげたいの!もう夕方なのにこの村に入れなかったら野宿確定になっちゃうよ!」
そうシリルに言われ、見張りの人は迷っていた。
「少し待っていろ!村長を呼んでくる!」
そういって見張りの片方が村の奥へと姿を消す。
待つこと5分。見張りの人と一緒に思ったより若い人と戻ってきた。あれが村長?シリルの親っていうことなら確かに若いだろうが、見張りの人よりずっと若い。20代後半に見える。
そして何よりあの人の魔力・・・
(アカリ。鑑定)
(りょ!)
りょってお前・・・まあいいけど。
ダリル(悪魔憑き)
レベル 68
生命力 1570/1570
魔力 2060/2060
戦闘力 3033
スキル
闇魔法 眷属召喚
俺は顔に出ないように必死に取り繕った。
「やぁはじめまして。娘を救ってくれたようで感謝するよ。僕はこの村の村長をしているダリル。よろしくね」
そういうとダリルは手を出して握手を求めてきた。俺は平静を装って手を差し出した。
「ああ。はじめまして。俺はナオトと言います。」
俺の初めて訪れた村は一筋縄ではいかなそうだった。