修行回はダイジェストとともに
3話目です。ちなみに地球の元恋人へのざまぁ展開は考えてありますので、もし見たい人が居たらもう少々お待ちください。
それからの話をしよう。それはもう死ぬかと思った。もう死んでるけど。とりあえずダイジェストでお届けしようと思う。
ゼルクの場合
「ゼルクさんっ外周300周なんてっこれっ流石に走り切れませんよっ!何百キロあると思ってるんですかっ!?」
俺は息も絶え絶えになりながらゼルクさんに文句を言っていた。当然のように聞き届けてもらえないが。
「黙って足を動かせ!それと今お前はワシの弟子だろうが!師匠と呼べ!師匠と!」
「このクソ師匠っ!剣術を修めたらボコボコにしてやるからなーーーーーっ!!!」
「ほう!その意気やよし!!!外周100追加!!!」
「クソッタレーーーーーーーっ!!!」
「さて次に剣術の訓練に入る!」
「師匠・・・見てわかりませんか・・・外周400周で満身創痍です・・・」
「全くしょうがない」
師匠はおもむろに手をかざすと、温かい光がまるで俺の体を包み込むように体に染みわたっていく。それと同時にさっきまでの倦怠感や体の疲労が嘘のように消えてなくなった。
「これって治癒魔術!?師匠!?魔術使えたんですか!?」
「剣を使えるからと言って魔術が使えないとは言っておらんぞ。それに近接戦闘するものは常にケガと隣り合わせだ。回復手段の1つくらいは常に用意しておけ。それと絶対に倒れない前衛の攻撃役ということは1人でタンクもアタッカーも務めるわけだ。ワシの場合は治癒魔術が使えるから、余裕があるならヒーラーも兼任出来るというわけだな。」
ただの脳筋かと思ったが、意外と合理的な考え方をしている。確かに戦闘をする上で絶対に倒れない前衛が居て、敵のヘイトを買ってくれるなら後衛は安心して攻撃に参加できるだろう。
「さぁ早く木刀を用意せんか!いつまで待たせるつもりだ!!」
「は、はい!!・・・あの師匠?なんだか嫌な予感がするんですが、なぜ木刀を構えて俺と対峙してるんですか?」
「剣術の訓練だと言ってるだろうが!!!それには模擬戦が一番効率がいい!それとここなら例え頭が吹き飛ぼうが心臓を潰されようが死にはせん!どうせ死んでいる身なのだからな!」
「んな無茶苦茶な!?肉体は死ななくてもそんなことされたら心が死にますよ心が!!!」
「ピーチクパーチク煩い奴だな。だったら頭も吹き飛ばさないし、心臓も潰さん!それでいいだろうが!」
「いやそれでも先に型の練習とか剣の持ち方とかいろいろあるでしょ!?ってうお!?まだ構えてもないのにいきなり攻撃してこないでくださいよ!?」
「ほう?今のスピードを避けるか。目が良いというのは本当らしい!あまりに煩いからとりあえず木刀を持っていない左腕を切り落とそうとしたのだがな!」
この人メチャクチャすぎる!?
「ていうか左腕を切り落とすって木刀でなんで切れるんですか!?」
「ふん。切れ味なんぞ魔力でいくらでも底上げ出来るわ!木刀同士が打ち合う状態になれば魔力は遮断してやるからしっかり防御するがよい!腕や脚の1本や2本いくらでもワシの治癒魔術で生やしてやるから安心しろ!」
「安心出来るかーーーーー!!!!」
ライラの場合
「魔力が切れて動けんじゃと?たわけが!!そうなる前に体内魔力を切らさずに体外魔力を操り吸収しつつ、それを使うようにと言うたじゃろうが!!」
「んな・・・っ無茶苦茶な・・・っ!素人でつい最近・・・魔力を感じられるように・・・なったばっかり・・・っ!」
「体内魔力を感じられるなら体外魔力をも感じられようが!それを操って吸収していけば良いのじゃこんな風に」
そう言うとライラはおもむろに片手を何もないあさっての方向に向けたと思ったら、ライラの周りの魔力がライラの内に入って行っているのがわかる。なのにライラの体内魔力量は一向に増えてはいない。
つまり吸収と同時に魔術の術式を構築している。そして炎の巨大な竜巻がライラの手のひらの数キロ先に出現した。魔術行使まで1秒にも満たなかった。
「上級複合魔術ファイアーストームじゃ。な?簡単じゃろ?」
この感覚派の天才めっ!!!
「素人に・・・そんなの出来るわけないでしょ・・・!?」
「むぅ・・・しょうがないのう。とりあえず今の状態から少しでも回復するように努めるのじゃ。まぁどっちにしろ魔力枯渇までいかんと総魔力量も増えんしのう」
そういうことは先に言えこのくそったれのじゃロリ婆め!!
「おっと?何やら悪意を感じるのう?どうやら魔術の威力をその体に直接叩き込まれたいらしいのう!」
「すいませんでしたーーーーー!!!」
俺はそれはもう綺麗な土下座を決めていた。土下座のオリンピックがあれば今の俺なら金メダルを狙える自信がある!!!しかし土下座相手は見た目は10歳前後の女の子。かたや強面の顔面な俺。いろいろアウトな気がする。
「全く。まぁいいじゃろう。しかしお主、魔力感知は思った以上に才能がありそうじゃな?」
「え?そうなんですか?」
「うむ。お主、我が魔力吸収しているとき我の体内魔力量が増えていってないのに気づいてたじゃろ?」
「え?それはまぁ。自分の魔力を感じられるようになったときに体外魔力と周りの人の体内魔力はすぐに把握出来るようにはなりましたから。」
「全くお主というやつは。周りの人というが、ここにいるのは我とゼルクくらいじゃろ?我らは常に下界の人以下に魔力を抑えておるから普通はあれだけの魔術を撃ち込むほうに驚くはずじゃ。なのにお主は撃ち込んだ魔術より、どちらかと言えばワシの体内魔力量と魔術行使速度に驚いておった。それはつまりお主は体外魔力を吸収してあれだけの魔術を撃てることよりも、あれだけの魔力を吸収したのに一向に増えない体内魔力量から魔術行使速度がそれだけ速いと感づいた。実際お主の魔力感知ならワシの魔術構築の魔力も感知出来ているだろうがな。」
「確かにライラさんの言った通り魔力構築スピードに目を奪われていました。正直あんなスピードで魔術を構築出来るなんて驚きました。」
「全く天才というのは居るものじゃな。こんな短期間でここまで魔力感知が出来るとは」
いやそれはあんたが言っても嫌味にしか聞こえないんだが。
「まぁそれはそうと見えすぎるのもよくない。今後アルカディアに行ったとき魔力を隠そうとしているものは必ずいる。それを見破ってしまうのはいろいろ弊害もうまれよう。当然じゃがアルカディアの者らは我ら以上に魔力隠蔽は下手くそじゃからな」
確かにそれもそうだ。下手に見破って余計な衝突は避けるべきだな。
「まずは我らの魔力隠蔽に慣れよ。少しずつレベルを下げてアルカディア人の平均くらいになるようにゼルクにも行っておいてやるゆえ」
「ありがとうございます!」
「さてもう魔力も回復したじゃろ?さっさと修行の続きをするぞ!」
「え!?いやライラさん?まだ魔力は回復しきってないのですが・・・」
「回復しきってはいなくとも魔力切れで動けんほどではなくなったじゃろ?今度こそ体外魔力を吸収して、魔術を行使しろ!目標は10秒で初級魔術1回じゃ!」
「今でも自分の魔力使って20秒かかるのに!?」
「初級魔術なんぞに20秒もかけてたらゴブリンに撲殺されて終わりじゃろうが!!もっと速くやらんか!!」
「だからその為の練習ですよね!?こう効率のいいやり方とかないんですか!?」
「そんなもんあるわけなかろうがたわけが!魔術は反復練習あるのみじゃ!字を綺麗に書きたいなら何度も同じ字を練習したように、魔術構築も何度も何度も同じ要領でやるしかないのじゃ!そのうちコツのようなものが身につくからひたすら練習あるのみじゃ!あ、それと次からはジョギングしながらやれ!我のように一瞬で構築出来るなら別じゃが、ただの固定砲台なんぞ的じゃ的!!!」
「無茶言うなーーーーーーーー!!!」
とまぁこんなことを繰り返すこと3年。
「ふむ。まぁまぁかの。とりあえずアルカディアへ行っても速攻で死んで戻ってくるようなことはないじゃろ」
「本来ならもう少し鍛えても良いと思うのだが、まぁ今でも魔王くらいなら秒殺とはいかずとも圧倒は出来るだろう」
「お2人共、お言葉ですがもう少し褒めたり労いの言葉をいただけませんかね?死んでるのに何度死にかけたと思ってるんですか」
「死ぬことはないのに死にかけるとは面白いことを言うのう!はっはっは!」
冗談じゃないぞこののじゃロリ婆・・・!この3年で何度走馬灯見たと思ってんだ!!!
「約束した通り、頭も心臓も潰さなかったというのにワシの弟子は文句が多いのう」
いえ、あなたの場合は特に身体的苦痛が半端なかったですよ師匠?と2人をジト目で見つめていると。
「ワシの弟子じゃと!?直人は我の弟子じゃと言うとろうがこの脳筋騎士が!?」
「何を言うかこの魔術バカが!師匠を名乗りたいのならまずは弟子から師匠と呼ばれてみよ!!」
「お主と違うてワシは弟子に無理やり師匠と呼ばせて居らぬだけよ!呼び名でいちいちマウントを取ろうとするなんてほんに狭量な奴じゃなお主は!?」
「なんだと!?」
「なんじゃ!?」
また始まった。最初のころはこの2人が言い争うたびにビクビクしていたが、慣れるもんだなぁ。このまま誰も止めに入らなければ戦闘しだすのはいつものパターンだ。その戦闘の余波でさえも何度死にかけたことだろう。死なんけど。ただ、この2人の戦闘は学べることも多い。ライラ師匠だと魔術師の立ち回り。ゼルク師匠は剣士の立ち回り。まぁ2人とも本気で殺し合いをしてるわけでもないっぽいし、逆になんだかんだ楽しんでる気もする。ホント仲いいよなぁこの2人。
「あらあら。あの2人ったら本当に仲良しね。」
と、急に後ろから声が聞こえてきた。
「あ、クロノス様。こんにちは。」
「ええ。こんにちは。」
初めて会ったとき、名前を聞き忘れていたことを思い出してそのあと聞いたらなんとビックリ、日本でも有名な時の神だった。けれど名前を聞いていろいろ納得してしまった。それは勿論俺の目のこと。斑目一族は未来視や過去視が出来る人が居たという理由が、クロノス様の血縁ということなら出来てもおかしくはないのかもしれないと。
「修行のほうはどうですか?そろそろアルカディアへ行っていただこうと思っているのですが」
「はい。なんとか師匠たちから速攻で死んで戻ってくることはないだろうとは言われました。というか死んだらまたここに来て送り返されるんですか?」
「いえ、流石にアルカディアで転生していただいたら1度死んでしまえば、もう1度送り返すようなことは出来ません。死んでしまえば普通は輪廻転生するための準備として、すぐに魂の洗浄が始まるからです。例外として洗浄される前に私たち神の眷属へのスカウトがありますが、それは今はあまり気にする必要はありません。なので地球でもそうだったように、アルカディアでも死んでしまえばそれまでなのです。いくら魔術があっても蘇生魔術というものもありませんので、もしアルカディアでそういう場面に出くわしたとしても、それは元の魂の入ってない何かということになります」
「何かですか?ネクロマンシーみたいな感じでしょうか?」
「あれは術者が亡骸を操る魔術ですがそれとはまた違います。悪魔憑きと言ったほうが分かりやすいでしょうか?悪魔がその亡骸に取り憑いて生前のその人物の記憶を読み取り、なりすますのです。そして悪魔は例外なくとても強い殺人衝動に駆られています。しかし、悪魔は人になりすますのが上手く、普通に生活を送りながら誰にも気づかれないようにひっそりと村や街の人間を襲います。普通の人では容易に見つけ出すのは難しいでしょう。もしアルカディアへ行って悪魔を見つけだしたら退治をお願いします」
「わかりました!俺がどこまで出来るかは分かりませんが、もし見つけたら全力で退治してみます!!」
「よせよせ。悪魔なんぞにお主が全力を出したら下手すると村や街も一緒に滅びるのがオチじゃ」
そういって見た目ボロボロな10歳前後ののじゃロリが気配なく横にいた。
「うわ!?急に現れてビックリさせないでくださいよライラ師匠!?」
「ぬ!?ライラを師匠と呼ぶか!?お前はワシの弟子だろうが!?」
そう言って見た目ボロボロになった白い鎧と白い兜を被った脳筋騎士がそこに居た。
「いやそれはもう良いんで。話進まないでしょうゼルク師匠」
「むぅ!まぁ良かろう。確かにライラの言う通り今のお主が全力を出したら都くらいは一夜にして滅びるだろうな」
「そこまでですか?正直俺の比較対象が師匠たちしか居ないから実感湧かないんですが・・・というか俺このままだと無自覚無双主人公になっちゃうの!?俺、何かやっちゃいました?とか言っちゃうんですか!?そんなの嫌すぎるんですが師匠!?」
「いやお主は急に何を言っとるんじゃ・・・とりあえずお主には一通り魔術は教えたじゃろ?その中の聖魔術を使え。聖魔術はアンデットや悪魔への特効じゃからな。あと注意するとしたら爵位持ちの悪魔だった場合じゃな」
「爵位持ち?人間の貴族になぞらえて爵位で相手の強さが変わるということですか?」
「ほう?良く知っておるな。地球では悪魔はほとんど架空の存在としてしか知られてないと思っておったが。まぁ爵位持ちだろうが悪魔なんぞ剣で細切れにしてやれ!と言いたいが、爵位持ちは殺した相手に自分の配下を入れるのだ。だから気づいたら村のほとんどが悪魔だったなんてこともあるからな」
爵位持ちのランクなんて昔見てたネット小説でよく出てきてましたので。ただそれはそれとして・・・
「なんとも胸糞悪くなる状態ですね」
ある日隣人がいつの間にか殺されていて悪魔になり、なんでもないように生活しているなんてゾッとする。
「まぁそういう事情がありますので、直人さんも悪魔を見つけたら積極的に退治をお願いします」
「はい。任せてください!」
まさかこの会話がフラグになってたなんて思いたくもないが、アルカディアへ行ってそうそうに相対することになるなんてこの時の俺は気づいていなかった。