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大聖女神殿にて

ここに私が連れてこられたのは10歳の時だった。

ある朝起きると私の髪は銀色になっていた。


『神聖力が高い者にのみ現れる証』


それを知らされたのは神殿の者が私の家を訪ねてきた時だった。

両親は神殿から多額の金を受け取ると笑顔で私を神殿へ売った。

私は無理矢理神殿に連れてこられ、『神への誓い』として背中に焼印を入れられた。


あまりの痛みに気を失い、何日も寝込んだ。

やっと起きられるようになると、神殿での教育が始まった。

私は『神様に選ばれた大聖女』だと言われた。

来る日も来る日も祈りと癒しを与えるだけの毎日。

たまに神様からの言葉を聴き、神官にその内容を伝える。


心が枯れていくのが分かった。


15歳の春だった。


大聖女神殿の渡り廊下を歩いている時に、リンゴをかじったような音が聞こえそちらを見ると木の上に女性がいた。


黒い髪に赤い瞳の美しい人。

赤い眼を見た瞬間に魔術師なのだと分かった。


「死んだ奴みたいな眼してんな」

「魔術師が神殿に何の用なわけ」


シャクシャクとリンゴを食べるその人を睨みつけた。

神殿での教育で私は『魔術師は邪悪な力を使う者』と教わっていた。

生まれて初めて出会った魔術師だけど、私は刷り込まれた意識に囚われ魔術師を嫌っていた。



「別にちょっと調べもんがあっただけ」

「魔術師が神殿で調べるものなんてあるやけ?」

「まあな。ついでに大聖女が久々に生まれたって聞いたから見にきたんだけど、こんなガキが新しい大聖女か」

「は、はあ!?!?!?!」


ガキって何よ!!!

私はもう15歳なのよ!!

どう見たってあんたと同じ歳ぐらいでしょうが!!!


「さ、もう行くか」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!!」

「は?んだよ」

「神殿に怪しい魔術師がいたのに逃すわけないでしょ!!降りてきなさい!!」

私は木の上の人物に腕を上げて抗議すると、面倒臭そうに舌打ちをしてその人は木から降りてきた。


目の前に立ったその人は本当に美しくて言葉を思わず失ってしまった。


「降りてきたからこれで満足だろ」

「え、ちょっと!!」


去ろうとするその人の腕を掴んだときやっと気づいた。


こ、この人男の人!!!!!


私はパッと手を離した。

不用意に異性と接してはならないと神殿の決まりがあるからだ。


「勝手に触んな」

「な、何を調べていたのか言いなさい!」

「は?何でお前にそれを言わないといけないわけ?」

「私は神殿の大聖女よ!それにそんな隠すなんて怪しすぎるじゃない!」


私の言葉に彼は溜息を吐いたと思ったら、どこかへ歩き始めた。


「逃げる気!?」

「ちげーよ、教えろっつーから教えんだよ」


私はいつ攻撃されてもいいように、身構えながら彼の後ろをついて行った。

大聖女神殿にある数々の壁画に目もくれず歩みを進める彼はいったい何処を目指しているのだろうか…。


そんなことを考えているの彼は突然ある宗教画の前で歩みを止めた。


そのままその宗教画を見上げて「これ」と彼は言った。

その視線の先にある宗教画を私も見上げた。


神が神に罰を与えた唯一の神話


穢れの象徴である魔獣に白い翼を食いちぎられ女神は地に落とされる。

永遠に絶望の中を生きることになった女神の話。


これを調べに来たの…?何で…?


「俺はこの女神を探してる」


驚いた。

神様が伝えた神話に出てくる女神を探しているなんて…。


私はぷっと笑ってしまった。

私の笑い声に彼は私を横目で見てきた。


「魔術師、あんた神様の話を信じてるわけ?こんなの神様の作り話よ。あの方々は創造することが好きなの。この神話だって、『どんなに高貴な人でも平等に罰を受ける』って教訓のために神様たちが作った話よ」


私がそう言うと、彼は無言でまた絵を見上げた。

その瞳は切望するように揺れていた。


「お前は今まで見てきた大聖女の中で一番人間味あるな」

「え?」


ふっと笑った彼に思わずドキッとして急いで顔を逸らした。


「俺はもう行くから」

突然歩き出した彼に手を伸ばすと、今度は腕を掴むことは出来なかった。

「え、待ってよ魔術師!」

「ルヴィウス」


振り返った彼の瞳は窓から差し込む夕焼けでキラキラと輝いていた。


「ルヴィウス…」

「俺の名前。魔術師って一括りにされるのは気にくわねぇからな」



それが私とルヴィウスとの出会いだった———。


*・゜゜・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゜・*


「成果はあったのか?ルヴィウス」


彼が探しているという女神の描かれた宗教画を月明かりを頼りに見上げながら、暗い廊下を歩いてくる彼に聞いた。


「ガキは早く寝ろ」

「ふふっ、その調子だとまた何も得られずか」

「うるせぇな」


横に立って絵を見上げる彼を見る。


彼は出会ったあの日から変わらない。

黒く長い髪も、ルビーのような赤い瞳も、陶器のような白い肌も…。


「今日、この絵について聞いてきた子がいたわ」


私がそう言うとルヴィウスは話に興味を持ったのか私に目線だけ向けた。


「何の手がかりも無いなら一度アリアお嬢さんに会ってみるといい」

「アリア…か…」

「知っているのか?」

「まあ、変な縁が出来て…」


歯切れの悪そうなルヴィウスは珍しかったのもそうだが、彼が他人の名前を覚えていることに何より驚いた。


「ルヴィウス、私はお前は人の名前も覚えられない馬鹿だと思っていたがそうでは無かったんだな」

「ふざけんなクソガキ。俺が名前も覚えらんねぇほど脳みそ小さいわけねぇーだろうが。面倒だから覚えないだけだっつーの」


久しぶりに聞く彼の悪態は何十年経っても変わらない。

笑っていると彼は溜息を吐いて歩き出した。


その背中を見送りながら心の中で祈った。


彼が再び女神様に出会えること………。

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