神殿に行ってきます3
衝撃的な少女との出会いに呆然としていると、私を探すメイの声が聞こえてきた。
私に気づいたメイは走って私のもとまで来てくれた。
「良かった…どちらに行かれたのかと焦りました。…えっと…お嬢様?」
「メイ、私は本物の天使に会ったのかも!!」
「……お嬢様、悲しいのは分かりますが現実逃避は良くないと思います」
「ち、違うの!本当にさっきまでここにいたの!」
私の言葉を一向に信じないメイは「はいはい」と言って私を連れて帰ろうとしてきた。
「あ、待ってメイ。ルウェル神官様にもう一度お礼を…」
「必要ありませんよ。あんなクソカス野郎に礼なんて」
「メ、メイ…神官様と知り合いなの…?」
「………いえ、全然?」
怪しい…最初の間は何だ…。
それに初対面の人にメイはこんな失礼なことを言わない。
「大聖女様が神殿の門で見送りに来てくださっています」
「え、そうなの!?」
「はい、お嬢様のことをとても心配されていました」
「そっか…失礼な態度取ったのに優しい方だね…」
門まで辿り着くと、大聖女様と何人かの神官様が立っていた。
その中にはルウェル神官はいなかったけど私の怪我を以前見てくれた第二神官様はいた。
「お久しぶりです。第二神官様」
「はい、お怪我はまだ治られていないのですね。私の力不足ですね…」
「あ、いえ。これはあの後にした怪我ですので第二神官様とは関係ないものです」
「そうですか。今日はこの後予約が入っていて時間が無いのですがまた呼んでいただければ診にいきますので」
「ありがとうございます」
第二神官様と軽く挨拶した後に大聖女様と向き合った。
「アリアお嬢さん何もしてあげられなくてごめんなさいね…」
「そんな!大聖女様は何も悪くありません!」
「大聖女なんて言われも…出来ることは神様の声を聴く以外は神官と変わらないのよ。目の前で困っている少女一人を救うことも出来ない…」
「大聖女、大聖女様は神様のお声を聴いて今まで沢山の人救ってきて下さったではありませんか。だからそんな風にご自身を悪く言わないで下さい」
「アリアお嬢さん…」
大聖女様は暖かい涙を流しながら私を抱きしめてくれた。
「どうしてかしらね…あなたがとても愛おしいわ…」
「またいらしてね」と言ってくれた大聖女様たちに手を振りながら私とメイは神殿をあとにした。
*・゜゜・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゜・*
「ねぇ、アルド」
大聖女はアリアが乗った馬車を見ながら隣に立つ第二神官を呼んだ。
「何でしょうか?大聖女様」
「この神殿に”ルウェル”なんて神官いたかしら?」
「”ルウェル”ですか?いえ、聞き覚えないですが…どうされました?」
「そうよね……なら、アリアお嬢さんは誰が私の神殿に連れてきたのかしら…」
*・゜゜・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゜・*
「ただいま、兄さん」
「おかえり、どうだった?はじめての神殿は」
「皆んな優しかったわ。それに何だか心地いい場所だったわ」
屋敷について書斎にいる兄さんに挨拶をしに行くと、相変わらずのシスコンっぷりで私はキツく抱きしめられた。
「兄さん、まだ仕事中よな?私は疲れたからご飯食べて早めに寝るわね」
「そっか。ゆっくりお休み」
「うん、お休み兄さん。お仕事遅くまでお疲れ様」
兄さんは私の額にキスを一つして私を腕の中から解放してくれた。
そのあと私は夕飯を少し食べ、お風呂に入って自身の部屋に戻った。
メイに金色の髪をブラシで梳いてもらいながら鏡に映る自身を見ていた。
私のことを誰がそんなに恨んでいるのだろうか…。
胸に手を当て、心臓の鼓動を感じた。
いったいいつまで生きていることが出来るのだろうか。
「お嬢様?」
「メイ、私が死ぬその瞬間までずっとそばにいてくれる?」
「…ッ!」
私の涙混じりの言葉にメイはぐっと何かを堪えてから私の両肩を掴んだ。
「はい。でももっとずっと先のお話です」
「……」
「お嬢様も私もお婆さんになってシワシワな顔で見合って「幸せだね」と言って最期を迎えるんです」
「…そんな未来はきっと私には…」
「お嬢様!」
メイは大きな瞳に涙をいっぱい溜めていた。
今度大怪我をしたときが最期になるのか、それとももっとずっと先なのか…。
神様の悪戯なのか罰なのか、私はいつも死の恐怖に怯えていた。
私だけじゃない…兄さんもメイも屋敷のみんなが怯えているのを知っている。
みんな大切な私の家族だから…。
ベッドに入り、目を閉じた。
あの少女は何故私にあんなことを言ったのだろう。
少女は私に囁いた——。
『思い出して…本当に悪いのは誰なのか…』
私は…何かを忘れている……?