攫われました
………3時間後。
治療は無事に終わり子供の獣人も元気に帰っていった。
「はぁ……よかった〜…」
思ったより魔力は残ったが治療に3時間もかかった為クタクタだ。
疲れているが早く帰って休みたいので最速で後片付けをする。
業務日報は明日書くとして治療院の戸締まりを確認し、鍵をシスターに渡したら今日の仕事はおしまいだ。
9時30分を過ぎた頃に教会を後にする。
(早く帰ってお風呂に浸かろう)
自宅までの10分の道のりが遠く感じる。
こうやって帰りが夜になることも珍しくないため夜道の女性の1人歩き帰宅は気を引き締めないといけない。
昨日ごろつきに絡まれたのもあり、今日もローゼ先輩からもっと近くにに引っ越しなさいと言われたが、今の家にはお風呂があるから引っ越したくない。
こっちの世界にはお風呂に入る習慣がなくお湯か水に濡らしたタオルで体を拭くのが一般的だ。
かなり汚れたりすると川で水を浴びたり、お湯を沸かして洗ったりするのだが、お風呂に浸かることはない。
お風呂にお湯をはって入るにはお湯の温度を適温で保つ魔道具が必要でかなり高価なので上位貴族しかお風呂を使わないらしい。
だから街にはお風呂付きの物件はほとんどないのだが、
なんと私が住んでいる家はお風呂付きの小さな一軒だ。
部屋はキッチンとダイニングが一緒になっていて、寝室と小さめの部屋がある。
きちんとトイレと洗面所も付いていてこの世界ではここまで良い物件は他にないだろう。
しかもお風呂はこの世界の人が必要無いものなので人気がなく破格で購入できた。
治療院で稼いで貯めたお金のほとんどをつぎ込んだがほんとにいい買い物をしたと思う。安くなっているとはいえ家を買うと決めたあの時の決断は間違っていなかったと毎日思うくらいお風呂は最高だ。
お風呂は湯船に触れて魔力を流すだけで勝手にお湯を入れてくれ、温度も自動で調節してくれる優れものだ。
この家は貴族のおばあさんが隠居するために作った家らしくお風呂があることと可愛らしい見た目で一目で気に入った。
少し街から外れているが治療院にも10分で行けるし、この街は治安がいいから襲われるなんてないだろうと決めつけて油断していた。
まさか昨日のごろつきが待ち伏せしてるなんて思わないじゃん!
気づけば急に目の前に現れた黒い毛むくじゃらに俵のように担がれて猛スピードで運ばれていた。
あっという間のことでまた声も出せず頭も働かないが担がれた状態で見えた剣に見覚えがあった。
昨日絡んできたごろつきが背中に背負っていた大剣だ。
かなり大きい剣で記憶に残っていたから、顔を見なくても分かってしまったのだ。
報復のために待ち伏せていたのだろうか?
ようやく理解が追いついてきて最悪の事態にとりあえず大声を出して助けを呼ぼうと息を肺いっぱいに吸い込んだところで、ごろつきは人気のない細道を通って建物の中に入ってしまった。
(あぁ…終わった…)
建物の中に入ると、ごろつきは慣れように奥の部屋へ私共々向かっているようだ。
何があるのか気になって精一杯体を捻ってみたら扉が開いている部屋に大きなベットがあるのが見えた。
(やばいやばい…本当にやばい!!!)
ごろつきは部屋に入るとしっかり扉を閉めた。
真ん中に鎮座しているベットに意外と丁寧におろされ、拉致した奴の姿を正面から見る。
やはり昨日のオオカミ獣人が立っていることに驚かなかった。