さ が さ な い で
お母さん、お父さん。
僕はしばらく隠れます。探さないで下さい。
大丈夫。安心して。しばらくの間です。
必ず戻ってきますから。
実はバイトでちょっとトラブルにあっちゃって。
バイト仲間に山中さんて言うすごく可愛い子がいるんだけど、彼女が変な客に絡まれてさ。
なんかストーカーっていうの?にしつこく付きまとわれてるんだって。
バイト先まで客として来ていたから、助けたんだ。
彼女はすごく感謝してくれて仲良くなったんだけど、そのストーカーに僕が逆恨みされたみたいで。
僕の大学やアパートまで、いつの間にか調べられたみたいでひどく嫌がらせを受けてるんだ。
めちゃくちゃ恐かった。
だから友達の所でちょっとの間隠れていようと思って。
その友達に迷惑がかかると恐いので、友達の名前は伏せるね。
あと、探偵とか警察に相談しないで。
もし探偵がいたら、あいつが探偵を尾行して僕を見つけるんじゃないかと心配なんだ。
それくらいヤバい奴なんだよ。だから探さないでほしい。
手紙とか、宅配便もしばらく送らないでね。実家の住所がバレたりでもしたら、あいつ母さんや父さんに何するかわからないし。
スマホも、なんか位置情報?を探ってるみたいなんだ。GPSをオフにしても、何故か居場所がバレてるみたいで凄く恐くて。
だから今は電源を落としてるんだ。
友達の所でパソコンは借りれるから、このメールアドレスに連絡してね。
じゃあね、また。
裕人より
―――――――――――白い手袋を嵌めた指先が、パソコンのキーボードを叩く。
『裕人より』までの文章を入力し、送信ボタンを押した。
「……よし、これでしばらく時間を稼げるね。じゃあ行こうか」
部屋の隅で口を塞がれ、拘束されて泣いている男に、山中は妖艶な笑みを見せた。
「大丈夫。安全なところに隠れるから。二人で幸せになろうね。裕人君」