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三章 虚ろなる神と少女の半生 その4

 愛古学園の屋上に二人の男がいた。

 一人は太っちょで、もう一人はのっぽ。

 彼等こそ、神楽耶を攫った二人組だ。

 二人はノートパソコンの画面を凝視していた。そこには空神が暁也達によって倒される様が映っている。

 現在、どこのテレビ局や動画サイトにも、リアルタイムの空神の映像は流れていない。政府が報道規制を敷いて、マスコミと一般市民の愛古島への入島、接近を禁止したからだ。空神は極めて危険な存在であり、前例が無いため被害規模を予測できず安全の保証ができないためというのが大まかな理由だ。

 彼等が見ている映像はドローンを使い、リアルタイムで映像が届けられている。

 無論、島の近辺には航空自衛隊が巡回し不審な飛行物を発見した場合は警告、無人機の場合は武力で排除している。島外からの侵入は不可能だ。

 つまり撮影用のドローンは島内から飛ばしたものであり、その犯人はこの二人組だということだ。


 太っちょが空神の倒れる様を見て、歯ぎしりしながら拳を地面に打ち付けた。

「あいつ全然姿を見せないと思ったら、裏切りかよ!? ふざけんじゃねーぞ!」

 彼のギロリとした目は望愛を睨んでいる。

「やっぱり当初のターゲットを使ってればなあ。聖剣が護衛なんて姑息な手を使うから計画が狂ったんだ」

「そういう問題じゃねーっつーの!」

 考え込むのっぽに太っちょは怒りをぶつけるように怒鳴り散らした。

「このままじゃ教祖様や聖女様に顔向けができねえぜ。せめてこの裏切者だけはぶっ殺してやる! なあ?」


 風切り音と何かが刺さるぷすりという音がした。

 のっぽは無言でこくりとうなずいた――ように見えたが、そのままふらりと揺れて前のめりに倒れた。

「お、おい。どうした!」


「ドント・ムーブ」

 慌ててのっぽの様態を確認しようとした太っちょに制止の声が飛ぶ。

 ぎょっと振り返ると、そこには小型の銃を構えた水晶がいた。

「殺してはいない。即効性の麻酔銃だから」

「貴様……転校生か!?」

「……誰?」

 太っちょはブチギレてノートパソコンのキーボードを叩き割った。

「ざっけんな! 俺はこの学校の教師の大沼だ!」

 しばらく静止していた水晶は思い出したというようにうなずいた。

「ああ、大沼、大沼。美術教師の」

「違う、担当科目は体育だ!」

 そうだっけというように首を傾げる水晶。おちょくるような彼女の態度に、大沼のヘイトが雪だるま式に溜まっていく。


「貴様、何をしに来た!?」

 いくら激怒されようとも、水晶は動じない。無感情な瞳は瞬きもせず二人組を捉え続けている。

「教団ファフニールのメンバー、大沼と上田。空神を降臨させた罪で、あなた達の身柄を拘束する」

 まるでタイミングを見計らったように塔屋のドアから数人の戦闘服の男女が飛び出してきて、大沼と上田を包囲し麻酔銃を向けた。

 大沼は顔をしかめて唾を吐いた。

「貴様等……、聖剣の連中か?」

「お察しの通り」

 水晶はもちろん、他の戦闘員にも隙は無い。勝負は完全に決していた。大沼が少しでも怪しい動きをすれば、間違いなく引き金が引かれるだろう。


 観念して大沼は両手を後ろで組んだ。

 数人の戦闘員が警戒しながらも迅速に二人の身柄を拘束する。

 水晶は無表情でその様子を眺め、僅かに肩の力を抜いた。


 だが突然、ポケットのスマホが鳴りだしたことにより水晶の緊張は瞬間的に張り詰める。

「……はい。こちら水晶」

『あ、く、水晶さんですか!?』

 相手が千利だと分かり少しだけ安堵したが、彼女の様子がおかしい。何かを焦っている様子に水晶は嫌な予感を覚える。

「……何があった?」

『望愛さんが……、望愛さんがぁ!』

 要領を得ない訴えはその予感を決定づけるのに十分だった。


「落ち着いて。それから用件を」

 千利は深呼吸をして、今度はしぼむような声で言った。

『望愛さんが……集中治療室に運び込まれました。今夜が山場、だそうです』

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