18.相談役(2)
「さてと、シャルロッテ、楽にするといいよ。この部屋の中での会話は外には絶対にもれないようになっているからね。僕のことは皆がそう呼ぶように『サイラス先生』と呼んでくれ」
サイラスはシャルロッテをソファーに座るよう促すと、目の前に琥珀色の飲み物が入ったグラスをコトリと置いた。
これは何の香りだろう?飲んだことがないお茶かも…。
グラスを手に取ったものの、口をつけるのが躊躇われてその琥珀色の液体をジーッと眺めているシャルロッテの様子に、サイラスはぷっと笑いながら言う。
「大丈夫、毒なんて入れてないよ。それは、ゴボウ茶といってね、アンチエイジング効果があるんだよ。シャルロッテにはまだアンチエイジングは必要ないだろうけど、飲んでおいて損はないからね」
アンチエイジングって何だろう…と思いながら、一口飲んでみると、土っぽくて、香ばしくて、若干アクがあるような、たしかにゴボウの味がした。
シャルロッテの正面に座ったサイラスも同じお茶を一口飲んだ。
「さあ、何から話そうかな。シャルロッテから聞きたいことはあるかい?」
愛想のいい笑みに促されて、シャルロッテは一番の疑問を口にした。
「なぜ、わたしが未来視の巫女だと?」
「僕の占いは絶対当たるからだよ。だから、占いで未来視の目を持つ巫女を探さないといけないとなれば、本物に出会ったときにちゃんとわかるようになっているんだ。昨日、きみとの距離が近くなったときにピンときたというか、ビビっときたというか『ああ、やっと本物に出会えた』ってうれしくなって、思わず一緒にいたあの坊やに言っちゃったんだよね。そしたら突然走り出しちゃってさあ、いやあ、若いね」
サイラスはシャルロッテを見つめてにこにこ笑いながら話していたが、そこで急に真顔になって声のトーンを落とした。
「まさか、僕の大事な後継者を傷つけるだなんて思いもよらなかったけどね。きみは一体、あの坊やをなんで怒らせたんだい?」
シャルロッテは、昨日のクリストファーとのやり取りをサイラスに話した。
実は5年前にクリストファーと会ったことがあることや、その時に見た戴冠式の未来視の光景、そして、自分の未来視は呪いであって、国家の役には立たないと説明したことを。
じっと黙って聞いていたサイラスは、シャルロッテの話を一通り聞くと、小さなため息をついた。
「なるほどねぇ、やっぱりきみをいきなりあの坊やに会わせたのはマズかったなあ」
「あの…どのあたりが、殿下の逆鱗に触れてしまったんでしょうか?」
おずおずと聞いたシャルロッテに、サイラスは衝撃的な真実を告げた。
「クリストファーではないんだよ。昨日ハルに会ったようだからぶっちゃけてしまうけど、きみが5年前に会ったのは双子の弟ハルバートのほうだ」
瞠目するシャルロッテにサイラスは続ける。
「表向き、王太子殿下には双子の弟なんていないことになっている。彼らが生まれたときの神託でね…もちろん僕が占ったんだけれども、双子の片方は忌み子として処分しなければならなかったんだ。でも、王妃様が猛反対してねえ。殺すのも幽閉するのも捨てるのも嫌だと半狂乱で言うもんだから、王子と影武者って形で両方とも残すことになったんだ」
「わたしは…影武者のハルさんの戴冠式を予知したってことなんですね?」
サイラスは頷いた。
「そうだね、さすがに戴冠式という晴れ舞台に影武者を使うような王はいないだろう?つまり、ハルバートが王様になるってことは、その時点でクリストファーがこの世にいないか、生きていてももう国王としての責務を果たせないような状況になっているってことだよね」
シャルロッテは、怪我をしていない右手で口を覆った。
わたしはなんて残酷なことを話してしまったんだろう……。
あの戴冠式は、ハルさんにとってはちっともおめでたくなかったわけだ。
つまり、わたしの左目はいつものようにその人の不幸を映し出していたってことだ。
「これだから、この目が嫌いなのよ。やっぱり昨日つぶしておけばよかった」
シャルロッテが吐き捨てるように言うと、サイラスはそんなシャルロッテに手を伸ばし、頭をぽんぽんとなでた。
「そんなこと言うもんじゃないよ。きみのその目は神様からのすごい贈り物なんだからね?きみは僕が占いでどうやって神託を請うか知らないだろうけど、それはそれは、精神も身体もヘトヘトにすり減らしてやっと1つのお告げなんだからさ。きみはそんなことをせずに、ポンポン未来を見ているんだろう?魔導師で言えば、無詠唱でいきなり究極魔法をドカン!ドカン!って何発も放つのと同等だよ?そこいらの魔導師からしたら、嫉妬しかないだろうね」
サイラスの少しおどけた優しい慰めも、いまのシャルロッテには全く響かなかった。
「ありがた迷惑です。この目のせいで今までどれほど苦労してきたか!それにこれからも、こうやって人の不幸を映し続けるんですよ。これのどこが『神様からの贈り物』だって言うんですか。随分と性格の歪んだ神様だわ」
サイラスはプッと笑った。
「その通り!太陽神ラフラは気まぐれな女神様なんだ。やっぱりきみとは気が合うなあ。嬉しいよ」
なんだろうこの人は。という目でシャルロッテは、にこにこ笑うサイラスを見つめる。
天真爛漫な若き天才を装っているようだが、実際はそこそこなおじいちゃんのはずだ。おじいちゃんがこんな軽い口調で話していると想像すると、胡散臭いを通り越して、もはやイタイ。だいたい何故若作りする必要があるんだろうか。
「シャルロッテ……そんな憐れむような目で僕を見るのはやめてくれないか」
動揺してソワソワし始めたサイラスに、もうひとつの疑問を口にする。
「後継者探しだと伺っていますが、サイラス先生はまだお元気そうなのに、何故後継者が必要なんでしょう?」
するとサイラスは、姿勢を正し、左右の色が違うオッドアイをまっすぐシャルロッテに向けながら穏やかに微笑んで告げた。
「それはね、1年以内に僕が死ぬからだよ」




