1.引き出しを開けるとそこは
クスリをやったことはあるだろうか??
俺はある
でもないんだ
意味がわからないのはわかっている
だって俺も意味がわからないから
家に帰って
部屋に戻って
椅子に座って
引き出しを開けると青空が広がっていた
ごうごうと風の音を立てて広がっているのだ
部屋の中のものはめっちゃくちゃに散らばってしまった
信じられなかった
きっと俺はどこかでクスリをやったんだろう
罪悪感だったり副作用で記憶がないだけだ
震える手で消しゴムを投げ込んだら
吸い込まれるように落っこちていって見えなくなった
あぁ
母さん俺はもうダメみたい
一回引き出し閉めるね
すーっと引き出しを押し込んだら
さっきまで嘘みたいに吹き荒れていた風も音もピタリと止んだ
閉まり切る直前でひょおぉ〜って甲高い音に変わってから閉まった
心臓が物凄く高鳴っていた
全く状況がわからない
恐る恐る引き出しを開けると今度は風が吹き上げたりはしなかった
なんだなんもないじゃん
胸を撫で下ろして引き出しを覗くと
古民家の一室で
目を点にした女の子が立っていた
無言のまま引き出しを閉めようとすると
血相を変えた女の子が走り寄ってきて
次第に狭まる引き出しに手を滑り込ませてきた
急に走り寄ってくるものだから
びっくりして急いで引き出しを閉めた
どかん、ぐにゅ
嫌な感じ
引き出しが閉まりきらずに指だけはみ出ている
「「あぁおぁうおあぁあああああああっっ」」
大絶叫が響く
怖くなって俺も一緒に叫んだ
「ごめんてっええ〜!!誰なん?急に来るからあれやんか!!ねえ?誰なん?」
パニックになって引き出しを引くと
涙目の少女が挟まれた方の指を歪に向けて叫んだ
「みぃつけたあぁぁ〜」
青紫色に変わっていく指と連動して
青白い顔色になっていく少女が
目をひん剥いてゾンビのように揺れている
俺はただただ恐怖に慄いていた
引き出しの両枠をがっしりと掴んで
少女がむんずと俺の部屋へ侵食していく
ずるりと胴体から下も引きずられ
ついには完全に部屋まで侵入されてしまった
ゆらりゆらり
ゆっくりと少女は振り返ると
もう一度同じ言葉を繰り返した
「見つけたわ!あなたを探していたの私と一緒に来て!」
その勢いに呆気に取られる
ただでさえ状況の整理がつかないんだ
意味がわからない
誰だこいつ
もたれかかった引き出しが
体重に沿って少しずつ狭まる
ぱたんと音を立てたところで
何も答えない俺に少女が続けた
「とにかく来て!それで大丈夫だからさあ早く!」
そういうと俺の手を掴んで
引き出しに駆け寄って力一杯引いた
「そんな手間かからないから心配いらないわってあれ?」
首をかしげる少女
目線の先にはいつも通りの片付けきらない
ごちゃごちゃした引き出しの中身だった
「元に戻ってる」
呟いた俺に反応して少女が捲し立てきた
「どういうこと?あなた引き手じゃないの?」
知らん単語を出すな
わけがわからん
「よくわかんないけど違うんじゃない?どこから入ってきたか知らないけど早く帰ってもらえる??」
脳が理解を放棄して
謎の少女を追い出す方針を固めたようだ
「何言ってんの?もう一回行くわよ!ふざけないでよこんなの!」
べしんと引き出しを閉めてもう一度思い切り引き開けた
突風
吹き上げる風がまたしても部屋中を巻き上げた
ごうごうと音を立てる先は青空
底の見えない青空がどこまでも広がる
「安定しないのね…仕方ない」
少女は吹き上げる風を物ともせず
椅子と引き出しの縁にそれぞれ足をかけ
空を覗き込んでいた
「なんなんだよこれ!さっさと閉めろよ!危ないだろ!」
耳を塞いで必死に叫ぶ
少女は耳もくれず
考え得る限りの中で最悪の行動を起こした
「離せ!何考えてんだ!バカかよおい!ごめんてごめんて謝るからって!」
あろうことか俺を抱えてそのまま飛び降りようとしているのだ
凄まじい力だった
抱きかかえられて身じろぎひとつできないくらいに締め付けられる
「ジタバタすんじゃないわよ。行くよ!」
「神さまあぁ、あっあ…」
思えばあの時ぱっと閉めておけばよかったんだ
人生とは後悔ばかり
齢17にしてそんなことを学んだ