表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

すぐそこにある未来

すぐそこにある睡眠問題

作者: 坂井ひいろ

 人間の睡眠時間の理想は約八時間。日中の記憶の整理や各種ホルモンの調整、身体の修復と成長など大切な時間とされている。


 しかし、勉強や仕事のストレス、日常の心配事や不安などでなかなか寝付けないものが多くなっている。ゲームや深夜番組、SNSや趣味の夜更かしも増加している。


 今では日本の人口の約20%が不眠を訴えており、睡眠時間だけでなく質の低下が懸念されている。拡大を続ける不眠症対策として我社は画期的な製品を開発して、世の中に送り出すことに成功した。


「いらっしゃいませ」


 その日、お店を訪れたお客様は目の下に隈を作った中年男性だった。


「仕事が忙しくて、ストレスで眠れん。何とかしてくれ」


「それでしたらこちらの枕など如何でしょうか」


「何だ、ただの枕ではないか」


「ええ、最新式の枕でございます」


「こんなもので眠れるのか」


「もちろんですとも。最低八時間はグッスリお休みになれます。それだけでなく、目が覚めたら、あなたの仕事が片付いていると言う優れものです」


「どんな原理なんだ」


「まあまあ、百聞は一見にしかずと言うではありませんか。あちらの個室にベッドがご用意してあります。ぜひともお試しください」


 中年の男はふらつきながらも、店員に促されて個室に入りベッドに横になった。


「では、この枕に頭を乗せてください」


「こっ、こうか」


「はい、ではスイッチを入れます」


 店員はゴソゴソと枕の下に手を差し入れてスイッチを操作した。


「なっ、なんだ。髪の毛がゾワッとしたぞ」


「はい。今、自立歩行型のナノマシーンが数万体、あなたの髪を登っているところでございます」


「想像するだけでも気持ち悪いな」


「大丈夫です。直ぐに毛穴から毛細血管へと進みます」


「なっ、何だと・・・。中止だ。頼む・・・、やめて・・・。ぐうー。ぐうー」


「よし、ナノマシーンの注入完了だ」


 中年の男は起き上がって、個室に設置されたパソコンのキーボートを打って仕事を始めた。体内に入り込んだナノマシーンが、AIの指示のもと神経に信号を送って眠った男を操っているのだ。


 八時間が経って男が目覚める。もちろん彼の仕事は完璧に終わっている。目覚める直前に、ナノマシーンは入ったルートの逆を辿って枕に戻り、充電モードに入っている。


「凄いものだな。こんなに素晴らしいものなら一つ買って帰ろう」


「ありがとうございます」


 目の下の隈もすっかり取れて、上機嫌になった男は枕を抱えて帰っていった。


「今日の仕事は終わりだ」


 店員は個室のベッドに自分の枕を置いて、体内のナノマシーンを回収した。


「あー、良く寝た」


 店員は起き上がってモニターをつける。


「おっ、今日も枕がたくさん売れている。働いた意識もなく、売り上げが作れるなんて素晴らしいな」


 店員は欠伸をしてから独り言を続ける。


「これなら最初っからAI搭載のロボットにやらせる方が効率的と言うものだ。しかし、それでは給料が貰えないし、しょうがないか」


 店員は帰り支度を整えて、夜の街に給料の浪費に向かった。


「いらっしゃいませー」


「飲み屋の女の子も寝ながら仕事か・・・。味気ない限りだ」






おしまい。

あなたの枕も、いつの間にか最新式のものに入れ替わっているかもしれません。

グッスリとお休みください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  いつも独創的な技術の話を読みやすく書いていただきありがとうございます。 [一言]  知識不足でナノマシンというものが想像しずらかったので、別技術だとどうすればできるかなぁと考えてみました…
[良い点] 非常に読みやすいです。僕なら最初のオチで物語を終わらせますがそこが個性の違いなのでしょう。 ナノマシーンの登場など、面白かったです!(^_^)
2019/03/22 06:54 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ