008
山賊団を乗っ取った翌日……早速山賊団の縄張りに何人かの商人が入ってきたという情報を聞き、それを襲う準備をし……そうして出発する準備をしているとき、シンはジャルンカから見込みがあると連れてきた少女と会っていた。
「で、お前がこの山賊団の中でも見込みのある存在な訳だ」
「は、はい。精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!」
そう言ったのは、十代前半……本人の申告によれば、まだ十二歳の少女。
僕という一人称が特徴的ではあるが、シンがわざわざこうして自分の部屋――元はヘルマンの部屋――に呼んだのは、このサンディという少女が偵察要員に期待出来るとジャルンカに言われたからだった。
日本に生きてきたシンにとって、情報というのがどれだけ大事なのかは知っている。
そういう意味で、この気弱な少女はこれから自分が山賊団を率いる上での大きな力となるはずだった。
(とはいえ、本当に大丈夫なのか? 見るからに内気な性格をしてるんだけど。……実際に試してみるしかないか)
サンディの性格から山賊としてやっていけるのかどうかを疑問に思ったシンだったが、結局のところは実際に期待通りの偵察要員として使えるかどうか、自分の目で見てみるしかないと判断する。
「なら、これから仕事に向かうが……存分にその技量を発揮して、俺を満足させてくれ。ああ、もちろん俺も行くけどな。ただ……俺の力は、知っての通り相手を石化するという力だ。そうである以上、迂闊にその能力を使う訳にもいかない。それは分かるな?」
サンディはシンの言葉に何度も頷く。
実際、シンの持つバジリスクの能力を使った場合、本来なら得られる物資の類まで石化してしまうのだ。
シンの意思でそれを解除出来ない以上、シンが物資や馬、馬車といった諸々を石化してしまえば、それは山賊としての旨味は全くないということになる。
(そういう意味では、この山賊団を率いていくために俺ももっと強くなる必要があるな。今の俺は、バジリスクの能力がなければ、ただの高校生だし。……いや、空手とか剣道とかを習っていたから、ただの高校生よりは少し上か?)
そんな風に思うも、結局シンが習っていたのは普通の高校生が習うような武道でしかない。
そんな程度で、本当の意味で命のやり取りをしている者と戦ってどうにか出来るとは、シンには思えない。
(となると、魔法? 山賊の中に魔法使いでもいれば、話は別だけど。それは期待出来ないしな)
ジャルンカから聞いた話によれば、魔法使いというのはそれなりに珍しいらしい。
もちろん数万人に一人……といった具合ではないが、それでも希少性は高いという話だった。
ともあれ、この山賊団の中に魔法使いがおらず、ジャルンカが交渉した娼婦たちの中にも当然ながら魔法使いはいない。
そうである以上、魔法を使うというのは一旦諦める必要があった。
それならば、残っているのは何らかの武器を用いた戦闘になるが……まだ、自分にどんな武器が向いているのか分からない以上、取りあえずということで、今回は長剣を持って仕事に……商人の襲撃に参加することになるのだった。
「き、来ました! もう少ししたら、商人たちがあそこを通ります!」
戻ってきたサンディが、急いだ様子でシンに自分の得た情報を告げる。
麓の村に置いている者から、商人たちがこの山賊山脈を通るという情報を得てはいたが、山賊山脈を抜けるためにはいくつもの道がある。
今回目的としていた商人たちは、運良くシンたちの縄張りを通ることにしたのだ。
「周囲を警戒している様子はあるか?」
「あ、はい。その、僕たちよりも前に一度襲われたみたいで……何人か怪我をしているから気をつけるようにって言ってました」
「……言ってました? 声が聞こえるくらいまで近づいたのか?」
それは、シンにとっては当然の疑問だった。
日本のいたときは、人の気配といったものを実際に感じることが出来なかったが、この世界では普通に感じられる者が多い。
それだけに、サンディがそれだけ近づけば向こうに気がつかれてもおかしくはないと、そう思ったためだ。
そんなシンの視線に何かを感じたのか、サンディは慌てたように頭を下げてくる。
「ご、ご、ごめんなさい! でも、僕はそういうのは得意ですから……その、向こうに気がつかれたりはしてません!」
「いや、別に怒ってる訳じゃない。けど、そうか。……分かった。サンディは戦闘には参加しないんだよな? あとは俺たちに任せて、休んでいろ。良くやった」
「え? ……は、はい。ありがとうございます。」
てっきり怒られるのかと思ったら、まさか褒められるとは思っていなかったのだろう。サンディは戸惑った様子でその場を立ち去る。
今までであれば、戦闘に参加しないサンディは厄介者でしかなく、毎日のように役立たずと怒られていた。
身体の発育が遅く、まだ全く女らしい身体をしていなかったから、下働きということになってはいたが、それでもこのままであれば将来的に山賊たちの慰み者になっていただろう。
それだけに、新たに山賊団を率いることになったシンの態度は、サンディにとって安堵出来るものであると同時に……一種の違和感すらあった。
(それでも、僕を苛めないんだから……ついていった方がいいよね)
そんな風に思いながら去っていたサンディを見送り、シンは口を開く。
「よし、じゃあ……ヘルマンが真っ先に敵……いや、この場合は獲物か。獲物に襲いかかれ。問題はないな?」
「……ああ」
シンの言葉に、ヘルマンが頷きを返す。
若干不承不承といった様子を見せているが、それはヘルマンの性格的にシンに従うのが面白くないからだろう。
それでもシンに逆らえば石化させるというのが分かっている以上、ヘルマンは迂闊な動きが出来ない。
(今はまだだ。今は、何とかあのガキの……シンの弱点を探るんだ)
そう内心で考えるヘルマンだったが、実際にはシンは今が一番弱い状態だった。
魔法の才能によって土の魔法を使いこなせるようになればもっと強くなるし、武器も使おうと、そう考えていたのだから。
「行け!」
シンのその言葉に、ヘルマンは他の山賊たちを率いて、商人たちに襲いかかるのだった。