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011


 ガストロイの裏路地に、シンたちは先程絡んで来た男たちを連れていく。

 少しだけシンが感心したのは、マルクスに絡んで即座に殴り飛ばされて気絶した男を見捨てるような真似はせず、全員がシンたちと一緒に移動したからだ。

 これで我が身可愛さのあまりに仲間を見捨てるといった真似をするような相手であれば、シンたちも手加減するような真似はしなかっただろう。

 だが、たとえ気軽に喧嘩を売るような相手であっても、男の仲間たちは我が身可愛さに見捨てるといった真似をしなかった。


「さて、俺たちは最近……というか、ついさっきガストロイに到着したばかりで、色々とここの常識とかには疎い。その辺を色々と聞かせてくれると、嬉しいんだけどな。あ、それとこのガストロイを治めている領主の評判とか」

「は? 何でそんなことを知りたいんだ?」


 完全に意表を突かれたといった様子で、男の中の一人が尋ねる。

 てっきり、有り金を奪われるとか、そういうことになるとばかり思っていたの。

 だというのに、何故か今回要求されたのは情報。

 それも鉱山についての秘密……採掘するのにいい場所といったような話ではなく、ガストロイで住んでいる者にしてみれば誰もが知ってるような一般的な話。


「だから、言っただろう? 俺たちは、ついさっきガストロイに入ったばかりだからだ。……本来なら、酒場とかで情報を集めようと思っていたところで、そこで気絶しているお前の仲間が絡んで来たんだ。なら、丁度いいってことでな」


 えー……と。

 心の底から微妙そうな表情を浮かべる男たち。

 それでもせっかく稼いだ金を奪われるといったことをしなくてもいいのならと、そう思いながら、多少怖ず怖ずとしながらだが、口を開く。


「えっと、まずはこのガストロイは鉱山都市ってことで、鉱山の発掘が主産業だ。ただし、鉱山の中にはモンスターとかも出て来るから、それに対処するために冒険者たちもかなりいる」

「そうそう。で、冒険者たちは俺たちの護衛をしているんだけど、モンスターがいないときは採掘してるんだよな。……それに夢中になって、モンスターの襲撃に反応出来ないとか、最悪だけど」


 過去に何かあったのか、男に一人が不愉快そうに口にする。

 それから、このガストロイについての情報をシンたちは色々と聞き出す。

 そんな中で、やはり大きかったのは領主への不満。

 ここ数年で税金が高くなっていたのは事実だが、それがここ最近になってさらに税金が上がったと。そう口々に不満を口にする男たち。

 この辺りの情報については、やはり前もってシンたちが聞いていたものとそう変わらない。

 ……もっともシンたちの予想以上に領主は私腹を肥やしているようだったが。


「なるほど、その話は面白いな。……そうなると、やっぱりガストロイの住人は領主の存在を面白く思っていないのか?」

「当然だろ! あの野郎、以前から税金は決して安くなかったってのに……」


 鉱山で働いているだけあって、盛り上がるような筋肉を持つ男が苛立たしげに叫ぶ。

 男にしてみれば、今のガストロイの状況は決して許容出来るものではないのだろう。

 それを見ていたシンは、アリスに視線を向ける。

 シンからの視線を受けたアリスは、無言で頷きを返す。

 この男の話がガストロイの住人全員の意見と同様であるのなら、ガストロイを占拠する際に必要な手順が一つクリアされたことになる。

 ガストロイという都市を治めている貴族が、もし民衆に慕われていれば……それこそ、アリスがガストロイを支配下においても、レジスタンスのような行動をする者が出て来る可能性があった。

 もちろん、前もってここを治めている貴族は問題がある人物だというのは分かっていたが、それでも万が一という可能性はあったのだ。

 だというのに、その領主が住民から多額の税を取って恨まれているとなれば、話は違う。

 もちろん、場合によっては住人に恨みを買ってでも税金を取らなければならないこともある。

 それこそ戦争の準備だったり、何らかの大規模な工事が必要だったりというように。

 だが、男たちから聞いた情報によると、領主は住人から取った税金で贅沢三昧な暮らしをしているとなれば話は変わってくる。


「そうなると、ガストロイの住人としては領主が今とは別の人になることを期待していると思ってもいいな?」

「そりゃあ……ただ、せっかく領主が変わっても、その領主が今以上に贅沢をするような奴だったら、話にならねえけど……いや、ちょっと待ってくれ。あんたたち、一体何でそんなことを知りたがるんだ?」


 領主が変わって欲しいというのは、ガストロイに住む者にしてみれば世間話でもよく出て来るようなものだ。

 騎士や兵士に聞かれると問題があるが、それはあくまでも表向きの話で、基本的に見て見ぬ振りをする。

 ……もっとも、中にはそんな領主に擦り寄って自分もお零れに預かりたいと考えている者もおり、そのような者は話を聞けば厳しく当たったりもするが。

 ともあれ、普通ならこのような話は世間話でしかない。

 しかし……世間話だというのに、目の前の三人の表情は酷く真面目なもののように男たちには思えた。

 それこそ、本当に領主に何らかの危害を加えようとしているかのように。

 ごくりっ、と。

 男の中の一人が我知らず唾を飲み込み……それでも自分の中の好奇心を抑えることが出来ず、尋ねてしまった。


「しゃー?」


 男の疑問に答えたのは、シンの右肩の上にいるハク。

 まさか自分の疑問に人ではなく白蛇が答えるとは思っていなかったのだろう。男は戸惑い、何を言えばいいのか分からなくなる。


「えっと……なぁ?」


 自分でも重大な質問をしたというのは分かっていただけに、こうして誤魔化されるとは思っていなかったのか、男はシンに視線を向ける。

 その視線を受けたシンは、どうしたものかとハクを撫で、冷たい鱗の感触を楽しみながら口を開く。


「それを知ってどうする? 俺たちが色々と訳ありだというのは、考えなくても分かるだろう? なら、ここで俺たちから妙なことを聞いたら、色々と面倒なことになるというのは分かるはずだ。……それでも聞きたいのか? もし聞いたら、後戻り出来なくなる可能性もあるぞ?」


 シンの試すような言葉。

 普通なら、一見してどこまで強そうに見えない相手ではあるが、シンは不思議な迫力を発していた。

 それこそ、マルクスや顔を隠してローブを着ているアリスを従えているのが、この男であると誰が見ても分かるように。

 ……実際には、マルクスはともかくアリスは一応シンの雇い主という形になっているのだが。

 ともあれ、半ば脅すようなシンの言葉に、男たちは迷う。

 ここで話を聞けば、間違いなく何かに……それも大きな何かに巻き込まれる。

 だが、話を聞かなければ聞かないで、あとで後悔するような気もした。

 どうする? いや、お前こそ。

 そんな風に、男たちは仲間同士で視線を交わし、意思疎通をする。

 このままでは埒が明かない。

 そう判断したシンは、やがてハクを撫でる手を止めてから口を開く。


「この連中には話をする必要はない。今の状況で怯えている以上、仲間に引き込んでも足を引っ張るだけだ。それどころか、領主に密告したりする可能性もある」


 それは、明らかなまでの挑発。

 マルクスは、そんな露骨な挑発でいいのか? といった視線すら向けてきた。

 だが、シンはマルクスを視線で制止し、男たちの反応を待つ。

 すると、十数秒が経ち……


「分かった。もっと詳しい説明を聞かせてくれ」


 シンの予想通り、男たちはそう告げるのだった。

 もっとも、マルクスに殴られて気絶している男を除いての話だが。



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