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「へぇ、これがガストロイか」


 シンはガストロイの中を見回して呟く。

 一緒にいるのは、シン以外にアリスとマルクス、サンディの三人。

 ガストロイに入るときは、本来なら身分証の類が必要となる。

 だが、幸いなことにシンたちはすで小さいながらもいくつかの貴族の領地を占領している以上、身分証を用意するのは難しくはなかった。

 そんな訳で、シンたちは特に苦労することもなく無事ガストロイの中に入ることが出来た。

 ……アリスを誤魔化すのは、難しかったが。

 何しろ、アリスは知ってる者にすればこの国の王女で、知らない者にしてみれば初めて見るような美女だ。

 知ってる者、知らない者のどちらでも結局は人目を引くことになってしまい、それを考えれば当然のように誤魔化すのに苦労した。

 結局それを解決したのは指先ほどの大きさの宝石。

 ガストロイはミストラ王国の中でも非常に重要な場所ではあるが、そこで働いている兵士や警備兵といった者全員が職務に忠実な訳ではない。

 当然のように、金に困っている者もいる。

 そのような人物を見抜くのは難しかったが、幸いなことにサンディがちょっとした相手の動きや身なりからその辺りを判断することが出来たので、結果としてシンたちは特に問題なくガストロイの中に入ることが出来て、現在はこうしてガストロイの様子を確認してるのだった。


「お、向こうに武器屋があるな。ちょっと寄ってみないか? 出来れば、儂の斧を手入れしたいんだが」


 マルクスの視線の先にあるのは、一件の武器屋。

 とはいえ、武器屋はその店だけではなく、他にも何件もある。

 それを見たシンは、武器屋がこうして何件もあるのは鉱山都市ということで理解出来るが、それでもやっていけるのか? という疑問がある。

 一軒や二軒程度ならともかく、シンたちが見ている通りには十軒近い武器屋がある。

 ぱっと見ただけでこれなのだから、他の通りにある武器屋も合わせると、このガストロイという都市には一体どれだけの武器屋があるのか疑問に思っても当然だろう。

 そんな疑問を抱いたシンの姿を見て、ローブを着て顔を隠しているアリスは口を開く。


「ガストロイの武器屋は、兵士や冒険者、それに鉱山に出て来るモンスターを倒すために採掘している人たちが買うのもそうですが、武器そのものが売り物なのですわ。商人たちにしてみれば、鉱石を買うよりもすでに完成した商品を買う方が、利益として大きいのでしょうね」

「つまり、ガストロイで武器を仕入れて他の場所で売る訳か」

「別に武器だけとは限りませんわよ? 防具だったり、それ以外にも金属製品の店は多いですもの。……マジックアイテムの店は少ないようですが」


 つまり、それだけ腕利きの職人が揃っているということですわと告げるアリスの言葉に、そう言えば馬車を助けたときに貰った短剣も、業物というべき一級品だったのを思い出す。

 このガストロイにおける平均的な武器の質と、それ以外の場所の武器の質では大きく違うと、そういうことなのだろう。


「それで、まずはどうする? まさか、最初から目的に真っ直ぐに向かう訳にもいかねえだろ?」


 マルクスが言葉を濁しながら、そう尋ねる。

 この場合の目的とういのは、当然のようにこのガストロイを治めている領主の暗殺だ。

 それが目的ではあるが、何の準備もなくそのような真似をする訳にもいかなかった。

 いや、実際にやろうと思えばそれは出来るのだろう。

 シンの持つバジリスクの能力というのは、それだけ凶悪な能力なのだから。

 だが、今のところ石化した相手を元に戻す方法が不明である以上、まさか手当たり次第に石化させていくという訳にもいかない。

 領主を暗殺するとしても、まずはしっかりと根回しをする必要がある。


「そうだな。こういう場合は……取りあえずサンディは情報を集めてこい。ただし、まだそこまで重要な情報はいらないから、無理をしなくてもいいぞ」

「はい、分かりました。僕、頑張りますね」


 そう言い、サンディはその場から立ち去った。

 雑踏の中にあっさりと消えていくサンディを見て、シンはやはりサンディを連れてきて良かったと思い……


「痛えなっ! てめえ、こんな場所でぼーっと立ってるんじゃねえ!」


 マルクスとぶつかった男が、そう怒鳴りながら殴りかかる。

 普通に考えれば、男の行為はやりすぎとしか言えないだろう。

 だが……この場合は運が悪かった。

 元々マルクスは山賊……それも無数の山賊が集まる山賊山脈で少数精鋭の山賊団を率いていた男だ。

 鉱山で働いている男の血の気が多いのも事実だが、山賊はそんな男たちよりもさらに血の気が多い。

 相手が殴ろうとしたと判断した瞬間、マルクスは半ば反射的に殴り返していた。

 それも、相手の拳を回避した状態でカウンターを……いわゆる、クロスカウンターを放ったのだ。


「ぐぼばぁっ!」


 幸いにもマルクスはきちんと手加減をしていたらしく、男は頭蓋骨が骨折したり、顎が砕けたりといった危険な怪我はしないですんだ。

 ……代わりに、数メートルほども吹き飛んでしまったが。

 マルクスにかかわったのだとすれば、それでも運がよかったのだのは間違いないだろう。

 喧嘩騒ぎは珍しくないのか、ガストロイの住人たちマルクスと男たちを一瞥するとほとんどが興味ないといった様子で去っていく。

 喧嘩を見物するのが好きな何人かの物好きや、ガストロイに来てからまだ時間が経っていない者たちは、足を止めてマルクスたちに視線を向けていたが。

 殴り飛ばされた男の仲間たちは、マルクスを相手に声が出ない。

 仲間を殴り飛ばされて面白くないのは事実なのだが、かといってマルクスは圧倒的な強さを見せつけており、自分たちでどうにか出来るとは思えなかった。

 そんな男たちを一瞥したマルクスは、いいことを思いついたと笑みを浮かべて口を開く。


「なぁ、シン。この際だから、儂はあいつらから色々と情報を聞けばいいんじゃないか? わざわざ俺たちが酒場なりどこなりに行って情報を集めるよりは、そっちの方がいい。違うか? それに、この連中なら色々と情報を教えてくれるのは間違いないぞ」


 なぁ? と、そうマルクスに笑みを向けられた男たちは、このような状況でそれを拒否することも出来ずに頷くだけだ。

 普段なら侮られるような態度を取られれば、それこそ面子のためにもマルクスに殴りかかってもおかしくはないのだが……本能が、自分たちではどうあがいてもマルクスに勝てないと、そう叫んでいた。

 そんな男たちを見て、どうする? と視線を向けてきたマルクスに、シンは少し考えてから頷く。

 自分とマルクス、アリス。

 この三人で、例えば酒場に行って情報収集をしようと思っても、それこそ騒ぎになるようなことしか予想出来なかったためだ。

 それを考えれば、せっかく向こうから絡んで来た相手がいるのだから、その男たちから色々と情報を聞いた方がいいのは確実だろう。


「そうだな。じゃあ、どこか人のいない裏路地でも……」


 シンの言葉に、男たちは慌てて首を横に振る。

 この状況で裏路地などという場所まで連れて行かれた場合、それこそ最悪の未来しか思いつかなかったからだ。

 それなら、せめてどこか人の目のある場所で話をした方が、自分たちの命が助かるという点では好ましい。


「そ、その……俺たちの行きつけの店があるから、そこで! そこで話をするってのはどうだ!?」


 切羽詰まった様子で、懇願するように言ってくる相手に、シンはアリスに視線を向ける。

 そのアリスが頷いたのを見て、シンは男たちの要望を受け入れるのだった。

 もちろん、その店の飲食代は絡んで来た件もあるので、向こうの奢りということで。



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