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009


 鉱山都市ガストロイに向かうということが決まれば、蛇王の動きは素早かった。

 ……それだけ、武器の摩耗や消耗が激しかったというのもある。

 また、小さな領地しか持たない貴族が集まっている場所に、蛇王という傭兵団が長期間いると怪しまれる可能性があるとサンドラが指摘したのも大きかった。

 そのような訳で、現在ガストロイに向かっている訳だが……


「問題なのは、どうやって現在ガストロイを治めている貴族からガストロイを奪うかですわね」


 馬車の中で、アリスが呟く。

 現在この馬車に乗っているのは、アリスとサンドラ、シン、ジャルンカ。

 サンディは現在移動先に危険な場所がないのかを偵察する為に先行しており、マルクスは身体が大きいので馬車の中にいるよりは外を歩いていた方がいいと、馬車に乗るのを嫌がった。

 本来なら、ジャルンカも馬車に乗るよりは自分の足で歩く方を好むのだが、シンという存在に心酔しているためか、この馬車に同乗している。


「普通に攻めるんじゃ駄目なんすか?」


 ガストロイを知らないだけに、今までと同じような戦い方では駄目なのかと、そう尋ねるジャルンカだったが、その疑問に答えたのはサンドラだった。


「鉱山都市で、ミストラ王国で使われる金属の多くを生み出している場所です。当然のように、反乱軍もその重要性を理解しているので、防衛の戦力はしっかり置いています」


 ミストラ王国の中でも最重要拠点といえるガストロイだけに、それは当然のことだった。

 もしここを失ってしまえば、武器や防具、それ以外にも金属の価格が間違いなく上がるのだから。

 隣国や大規模な盗賊団、もしくは……国内の抵抗勢力。

 そのような者たちからガストロイを守るために、相応の戦力を用意しておくのは当然だった。


「敵が守りを固めている場所、それも今まで戦ってきたような爵位の低い貴族が率いる弱兵ではなく、相応の強さを持つ者の集団。そのような相手を正面から戦うとなれば、蛇王の被害が大きすぎます」

「ああ、なるほど。それはそうっすね」


 サンドラの説明に、ジャルンカが納得したように頷く。

 重要な拠点を守っている騎士と、狭い地域の中に集まっている爵位の低い貴族が率いる兵士。

 この二つの差が歴然としているのは当然だった。


「それに、ガストロイを守っている兵士の中には、アリス様に好意的な相手も当然います。出来れば、そのような人たちは味方にしたいところですね。反乱軍を相手にするのに、蛇王だけでは戦力不足なのは間違いないですし」

「つまり、ガストロイを守ってる戦力を全てとは言わないが、こちらに引き入れるのか? ……どうやって?」


 サンドラの考えていることは理解出来たシンだったが、だからといってそれをどうやってやるのかと言われれば、すぐには思いつかない。

 そもそもの話、どうやって敵戦力を自分たちの中で自分たちに味方をする者、敵対する者を見分けるのか。

 もし味方だと主張してきても、実は反乱軍に情報を流す為に味方だと偽っている可能性もある。

 また、ガストロイ以外の出身者であれば、それこそ家族や恋人、友人を残して自分だがアリスに味方をするといったことをした場合、残してきた者がどうなるか分からない。

 身内が他に誰もいないという立場の者であれば、その辺はどうにかなるかもしれないが。


「その辺は私やアリス様、それ以外の者の見る目を信じるしかありません。……難しいのは分かっていますが、それでも恐らくは何とかなるだろうというのが私の予想ですが。ともあれ、そのようなことをするとなると、蛇王が全員揃ってガストロイに向かう訳にはいきません」


 え? と、ジャルンカが疑問の視線をサンドラに向ける。

 そんなジャルンカとは別に、アリスとシンはサンドラの言いたいことが何となく分かった。


「つまり、少人数がガストロイに潜入して、敵の親玉……ガストロイの領主を倒す。その後、アリスが自分の立場を明確にして、ガストロイを支配したと宣言する訳か」

「そうなりますね。……もっとも、それは理想論に近いので、そこまで上手く行くかどうかは微妙なところですが」


 サンドラの言葉に、シンは頷く。

 何をするにしても、自分の予想通りに全てが上手く行くとは限らない。

 多かれ少なかれ、絶対に何か予想外のことが起きるのは当然だった。


「そうなると、少人数でどうやって領主を倒すのかが問題になってくるな。当然のように、戦闘力が高い奴がいく必要があるんだろうけど。まずは、俺か」


 シンの言葉に、サンドラは頷く。

 本来なら、シンは蛇王を率いる身である以上、敵の中に少数で忍び込むといったことをするのはやるべきではない。

 だが、武器は流星錘という小さなもので、長剣や槍といった一般的な武器に比べると隠しやすい。

 同時に、武器を持っていなくてもシン最大の攻撃方法たるバジリスクの能力があるし、こちらは頼りないが土の魔法も使える。

 外見もそこまで巨漢という訳ではなく、一目見ただけで傭兵団を率いている人物だとは思わないだろう。

 ……もっとも、巨漢であればそれこそ鉱山で働きに来たと装うことが出来るので、身体の大きさはそう大きなものでもないのだが。


「鉱山に行くんだから、マルクスも必要か?」

「うーん、でもマルクスだと強者の雰囲気を持ちすぎではなくて? それなら、蛇王のメンバーの中から何人か連れていった方がいいと思うのですけど」


 シンの言葉に、アリスが反対の言葉を口にする。

 だが、シンはそんなアリスの言葉に首を横に振った。


「マルクスの性格を考えれば、ガストロイなんて鉱山都市に行ける機会を逃すとは思えない。それに、領主を暗殺するにしても戦力はあった方がいいしな」

「ですけど、シンのお頭。マルクスさんの戦い方は豪快っすよ? 正面から戦うのならともかく、暗殺となるととてもではないが向いてるようには思えないっすけど」

「分かってる。けど、マルクスが強者の雰囲気を出しているのは間違いない。だとすれば、妙な相手に絡まれる可能性を考えると、抑止力として使えるマルクスはいた方がいい」


 鉱山で働いている者となると、気性の荒い者が多いという印象がシンにはあった。

 重い鉱石の類を掘ったり運んだりといったようなことをする以上、力のある者が多くなるのは当然だ。

 そして力のある者で、それもまだ若い者が揃っていれば、当然のようにそこには喧嘩っ早いものが多くなる。

 そんなとき、シンのような……外見だけで判断すれば、とてもではないが山賊山脈を統一したり、その山賊たちを率いて傭兵団を立ち上げ、反乱軍を倒したり……といったことをするような人物には見えない。

 シンも自分が絡まれるのは面白くないので、マルクスのような見るからに強そうな男と行動を共にしていれば、絡まれることはない。


「そうなると、マルクスを入れて……あとは、サンディはどうします?」

「必要だろうな」


 情報を得るという意味で、サンディの能力は非常に頼りになる。

 領主の暗殺を狙っている以上、情報というのは非常に大事だ。


「アリス様は……出来れば遠慮して欲しいのですが、無理でしょうね」

「当然ですわ。そもそも、私がいないとガストロイの兵士たちを取り込むことが出来ませんもの。……シンだけでは、説得力に欠けますし」


 その言葉は否定出来ないだけに、シンもサンドラも黙る。


「そうなると、私はこちらに残った方がいいですね。……出来れば、私もそちらに行きたかったのですが」


 サンドラがシンと共に活動しているのは、シンが興味深い存在であるという理由からだ。

 そんなサンドラにしてみれば、出来ればシンの側でシンのやることを見ていたいというのが正直なところだったが……今の状況を思えば、我が儘を言う訳にもいかず、諦めるのだった。



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