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003

 鉱山都市ガストロイ。

 それがどのような場所なのかは、シンも知っていた。

 アリスからミストラ王国について聞いたときに、何度か出て来て名前だったのだ。

 曰く、ミストラ王国でも有数の鉱山が複数ある場所。

 曰く、それらの鉱山からは鉄や銅といった一般的な金属から、ミスリルのような魔法金属までもが採掘出来る。

 曰く、そのためにミストラ王国内でもかなりの人々が住んでおり、それだけにそこを治めている貴族が手に入れることが出来る税収も大きい。

 曰く、多くのドワーフが住んでおり、武器や防具といった物の輸出が盛ん。

 曰く、曰く、曰く、曰く……

 そのように色々と話を聞いたが、ともあれミストラ王国内でもかなり大きな都市だというのは、明らかだった。

 もちろん鉱物の採掘はガストロイだけに頼っているのではなく、他の場所でも行われている。

 だが……それでも、ガストロイこそがミストラ王国の中でも最大規模の採掘量を誇る鉱山を複数有しているというのは、間違いないことだった。

 そして、シンの目の前にいるドワーフは、そんなガストロイから来たという話だったが……


(全体的に疲れるように見えるけど、何があったんだ? ガストロイと言ったときも、どこか悔しそうな様子が見えたし。


 シンは目の前のドワーフを見ながら、疑問を感じ……すぐに納得する。


「貴族か」


 その言葉に、ドワーフの表情は一変する。

 それこそ、睨み付ける……いや、睨み殺すとでもいった表現が相応しいくらいの様子。

 だが、それでもシンたちは自分や馬車に乗っている他の仲間を助けてくれた相手だというのを思い出し、その表情はすぐに消える。

 実際には無理矢理に押し殺したといったところなのだろうが。


「……すまないが、儂らは先を急がねばならん。今回の一件の礼として差し出せるものは……これくらいしかない」


 そう言い、ドワーフがシンに差し出したのは、一本の短剣。


「へぇ」


 短剣を受け取ったシンが鞘から引き抜いて見せると、素人目にでもその短剣が普通の短剣と違うのは理解出来た。

 少なくとも、蛇王の面々が使っている短剣とは比べものにならないほどに質が高いのは間違いない。

 シンが日本にいたとき、父親に連れられて日本刀展といった場所に連れて行かれたことや、父親がコネを作りたいと思う相手が日本刀の類を集めているといったこともあってか、その手の代物を全く見たことがない訳ではなかった。

 もっとも、そういう意味でなら山賊として活動しているときに多くの武器を見たこともあったのだが。

 ただ、どうしても山賊が使う武器ともなると、二流品、三流品といったものが多くなってしまう。


「それは、儂の弟が作った短剣だ。兄の儂が言うのもなんだが、一流と言ってもいい出来だと思う」


 ドワーフの言葉は、決して間違いではない。

 ミスリルのような魔法金属を使っている訳ではなく、一般的な金属……鋼で作られている短剣ではあったが、それでも見ただけでその辺の店の安売りの品とは違うのは間違いない。


「いいのか?」

「うむ。本来ならもっとしっかりと感謝の言葉を述べたいところだが、生憎とこちらは現在急いでいるのでな。その意味も込められていると思って貰えれば、助かる」

「なるほど。……分かった。これだけの代物を貰った以上、こちらとしても無理は言えない。旅の無事を祈る」

「感謝する。もしガストロイに来るようなことがあれば、ダイト武器店にでも寄ってくれ」


 そう言うと、最後に再び感謝を込めて一礼して馬車に戻っていく。

 馬車はすぐにその場を走り去り……


「そう言えば、あの人の名前は何なんでしょうね」


 ふと、サンドラが口に出す。

 実際、ダイト武器店に寄って欲しいとは言ったが、それがあのドワーフの名前なのかと言われれば、それは不明だ。

 何故ここまで急いでいるのかというのも、同様に不明だった。


「さて、その辺は俺にも分からないけど……現在そのガストロイだったか? そこの領主が好き勝手やってるのなら、何かそれに関係することなのは間違いないだろうな。……ただ、鉱山都市か。これと同じような短剣が普通に売ってるのなら、行ってみてもいいかもしれないな」


 俺の武器も強化出来るかもしれないし。

 その分は言葉に出さず、シンは自分の武器を見る。

 シンの武器は、紐の先端に重りがついているという簡単な作りの武器で、流星錘という武器だ。

 かなり特殊な武器で、使いこなすのも難しい。

 幸いにしてシンは相応に才能があったこともあり、ある程度使いこなせるようになってはいるのだが、これから反乱軍との戦いになる以上、可能であれば流星錘をもっと強力な武器にしたかった。

 鉱山都市という場所であれば、色々と特殊な金属がある可能性もあるし、それを使いこなせる鍛冶師がいてもおかしくはない。

 であれば、そこで流星錘を強化するというのは、恐らく可能なはずだった。


「そうですわね。でも……その前に、一仕事ありそうですわよ?」


 アリスの視線が向けられたのは、先程の馬車がやってきたと思われる方向。


「しゃーっ!」


 シンの右肩のハクも、そちらの方に視線を向けて威嚇の声を上げる。

 何が来た?

 そう思いながらアリスの視線を追ったシンが見たのは、十騎ほどの騎兵の集団。

 騎士ではなく騎兵だとシンが判断したのは、防具が立派な金属鎧ではなく何らかのモンスターや動物の革の鎧だったからか。

 ともあれ、その騎兵たちはシンたちに近づいてくると、動きを止める。

 本来なら騎兵の最大の特徴たる機動力を使ってシンたちに関わらないで進みたかったのだろうが、シンとその周辺にいる者だけではなく、蛇王全員……非戦闘員も合わせれば、二百人近い集団だ。

 そのような集団を相手に、素通り出来る訳がなかった。

 ……蛇王の面々の多くが粗暴な雰囲気を出しており、無視してそのまま進めば厄介なことになりそうだという思いがあったのも、間違いはない。

 だからこそ、騎兵たちはシンたちの前で馬を止める。


「お前たちは一体、何者だ!?」


 堂々と叫ぶ騎兵隊の隊長と思われる男。

 だが、その表情は厳しく引き締まっており、内心では蛇王の面々に気圧されているというのは明らかだった。


(さて、どう答えるか。この騎兵隊は、明らかにさっきのドワーフを追ってるみたいだしな。この騎兵隊とさっきのドワーフのどちらに恩を売った方がいいのか……考えるまでもないか)


 騎兵隊に恩を売るのもいいが、それよりはドワーフの方が蛇王としては明らかに意味がある。

 二百人近い集団の蛇王としては、補給物資をしっかり確保出来る場所というのは、これ以上ないほどにありがたい。

 また、この騎兵隊の持っている馬も出来れば奪いたかった。

 とはいえ、飼料の類はそこまで多く持ってきている訳ではないので、この馬を手に入れた場合、その世話をどうするのかといった問題もあるが。

 村や街に寄ったときに購入するしかないか。

 そう思いながら、シンは実際に行動に移すかどうかの決定打を得るために口を開く。


「俺たちは傭兵団蛇王。そっちは一体なんだ? いきなりこっちを誰だとか聞いてきたんだ。こっちが答えたんだから、そっちも喋ってもいいと思うが?」


 ん? と、騎兵隊の隊長と思しき人物は、シンの様子に若干疑問を抱く。

 自分たちのような騎兵の集団がこうして尋ねている以上、普通ならもっと怯えてもおかしくないのではないかと、そう思っての行動。

 だが、すぐにそういう者がいるだろうと判断し、口を開く。


「我らはミルカラーナ伯爵家に仕える者だ。これでいいな?」


 ミルカラーナ伯爵家? とシンはアリスに視線を向けると……敵よ、と実際に言葉に出すようなことはせず、口を開いて告げてくる。

 それを確認したアランは、手に持っていた流星錘を素早く投擲する。


「野郎共、こいつらは敵だ! 全員殺せ! ただし、馬には出来るだけ傷を付けるなよ! ヒャッハー!」

『ヒャッハー!』


 シンの言葉に蛇王の面々は一斉に騎兵隊に襲いかかるのだった。



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